本日の日本商工会議所第134回通常会員総会は、感染防止の観点からオンライン形式での開催とさせていただきました。全国の商工会議所の皆さまにご参加いただき、誠にありがとうございます。
まず、昨夜の福島県沖地震において、被災された地域住民、事業者の皆さまに心からお見舞い申しあげます。商工会議所としましては、被災された方々の一日も早い生活の再建と事業の再開に力を尽くしてまいります。
さて、新型コロナウイルスの発生から2年余りが経過しました。わが国経済は、昨年10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率+4・6%(2次速報)と2四半期ぶりのプラスとなりましたが、オミクロン株の感染拡大もあり、残念ながら1-3月期はマイナス成長となる見通しです。また、昨年来からの資源価格の高騰や円安基調に加え、ロシアのウクライナ侵攻がさらなる資源高や金融・物流面での世界経済の混乱をもたらしており、企業収益の圧迫、消費や投資マインドの悪化も懸念されます。出口の見えないコロナ禍やコストアップなど、長期間厳しい経営環境に置かれてきた中小企業の中には、過剰債務を抱えて年度末を迎える企業も相当数存在します。将来に希望が持てず、倒産や廃業が急増する事態を強く懸念しております。
政府には、コロナ禍で困窮する者や、さまざまなコストアップの打撃を受ける者への支援を迅速かつきめ細かく行うと同時に、デジタル技術を活用し業態転換を図るなど、新しい時代に合わせて自らを変える努力を行う中小企業などの挑戦を強力に後押しすることを強く求めたいと思います。
Ⅰ コロナ禍克服に向けた政策運営
(新型コロナウイルスからの出口戦略の提示)
新型コロナ感染者数は減少傾向にありますが、新たな変異株などによる感染再拡大は今後も起こり得ますので、非常時に対処可能な医療提供体制などの仕組みを平時から整備しておくことが持続的な経済回復には不可欠です。
また、感染防止と経済活動を高次元で両立させる有効な政策の一つがワクチンです。3回目の追加接種は、国民の3割を超えましたが、さらなる加速化が必要です。商工会議所としましても、39商工会議所が18万4千人に職域での追加接種を行うなど、積極的に協力してまいります。
政府には、ワクチン接種に加え、抗原検査キットなどの普及による検査能力の拡充、経口治療薬の早期供給、地域医療・診療連携の強化などにより、新規感染者数ではなく重症者数を抑制する対策にシフトし、社会経済活動を止めずに回していく「出口戦略」を早期に提示することを要望いたします。
また、3月から水際対策が緩和されましたが、将来の日本の経済や産業を支える人材の確保のため、観光目的も含めた入国者のさらなる拡大が必要です。
(二正面作戦による、強く豊かな国づくり)
2年以上続くウィズコロナにより、多くの国民が自らを振り返り、幸せとは、家族や友人とのつながり、社会とのつながりにあることを再認識したのではないでしょうか。
また、2021年に東京23区から転出超過となるなどの人の動きの変化は、働き方や住まいの在り方に関する価値観の変化を反映したものだと思います。同様に、企業や国家も自らは何のために、誰のために存在するのかを改めて自らに問い掛けることが必要です。
私自身は、わが国を再び強く豊かな国にするためには、コロナ禍で明確になった社会課題の解決を図りつつ、同時に、それを経済成長につなげていく、「二正面作戦」に官民連携して取り組むことが必要と考えております。例えば、国際競争力を確保したグリーン化、経済・医療安全保障、東京一極集中の是正などは、官民連携で解決し、成長につなげていくべき社会課題です。
Ⅱ 新しい成長戦略の早期策定(国の果たすべき役割)
わが国の経済社会の転換のきっかけをつくるのは、国の役割ですが、それを実行するのは企業です。国には、次の二つの対応を求めたいと思います。
(1.新たな成長戦略の策定)
第一は、潜在成長率の底上げを図る新たな成長戦略の策定です。
わが国は過去20年間、経済は成長しない、生産性は上がらない、賃金はほぼ横ばい、物価は全くの横ばい状況にあり、国際的な地位も低下しています。グロスGDPでは世界第3位でも、国民の豊かさを示す1人当たり名目GDPは、2000年の世界第2位から2020年には24位と大きく後退しています。今後さらに人口が減少する中、1人当たりGDPの引き上げを国家目標に掲げ、0%台で停滞する潜在成長率の底上げを図る、新たな成長戦略の策定が急務です。
ぜひとも岸田総理の「新しい資本主義」という旗印の下に、グローバル経済に打ち克つ国際競争力を高める視点と、地域の暮らしを維持しそこに住む人々の幸福度を高める視点の両方に軸足を置き、わが国の経済社会の在り方全体を見直すとともに、少子化対策や将来世代を含めて安心を確保できる税と社会保障の一体改革などの構造改革を断行していただきたいと思います。
(2.国際競争力強化に資するビジネス環境整備)
第二は、国際競争力強化に資するビジネス環境の整備です。
自由貿易の推進、地球温暖化対策、新型コロナ対策など国際協調が必要な課題は山積しておりますが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、さらに安全保障の必要性を現実のものとしてわれわれに突き付けました。
企業にも自らのサプライチェーンを見直す動きが広がるものと思いますが、政府には、引き続き自由貿易体制の推進に国際的な指導力を発揮するとともに、今後想定される地政学リスクの中で日本の国益を守っていくために、企業側の予見可能性を確保しつつ、経済安全保障について有効な対策を講じることを要望いたします。
また、カーボンニュートラルは、地球温暖化対策のために必要ですが、日本の国際競争力を阻害し、多くの産業や企業が日本から退出してしまう事態を招いては意味がありません。
カーボンニュートラルに伴うコストを国民全体でどう負担するのか、官民でのあるべき役割分担とリスクシェアリングなどを真剣に議論するとともに、原発推進や技術開発を含めた安定的・経済効率的なエネルギー政策に基づく国際競争力を確保したカーボンニュートラルへの道筋を見いだすことが必要です。
Ⅲ 中小企業と地域の挑戦(商工会議所の果たすべき役割)
経済成長の主役は民間企業です。特に、雇用の約7割を占める中小企業の生産性を高め付加価値を創出していくことが、成長と分配の好循環のために何よりも重要です。また渋沢栄一翁が「地方は国家の富の源である」と指摘した通り、地域の健全な発展なしに、わが国全体の経済成長はありません。
ポストコロナの成長エンジンとして、中小企業と地域の可能性を最大限に引き出していくための商工会議所の取り組みについて、3点申し述べたいと思います。
(1.中小企業の自己変革に向けた挑戦支援)
一つ目は、中小企業の自己変革に向けた挑戦支援です。昨年の東京商工会議所調査では、中小企業の7割がデジタル活用など業務改善や効率化を行い、3割が高いレベルの事業変革に取り組んでいる姿が明らかになりました。また法人企業統計においても中小企業の方が大企業よりも高い設備投資の伸びを示しています。中小企業も新しい時代に合わせて、デジタル技術などを活用しながら自ら変革し体質を強化していかなければならず、商工会議所には、ECなどの海外展開、販路拡大や業態転換などビジネス変革に挑戦する中小企業をさらに伴走型で支援することが求められます。
中小企業経営者は、コロナ禍でテレワークの効用を実感しました。町田商工会議所では、デジタル化に苦手意識のある事業者をマンツーマンで支援するなど具体的な取り組みが広がっています。デジタル化の課題である人材不足については、グーグル、リコージャパン、セールス・フォースなど大手ITベンダーが無償で人材育成を支援しており、これを積極的に活用すべきです。
また、全企業の85%を占める小規模事業者は、わが国のサプライチェーンを支える役割や、住民の暮らしを支える地域密着型のサービスを提供する役割も担っており、経営指導員による一層の支援に期待しています。自治体が地域産業政策の中でこれら事業者を面的に支援していくことも重要です。
(2.事業再構築、取引適正化などを通じた付加価値の向上)
二つ目は、事業再構築・取引適正化などを通じた付加価値の向上です。
中小製造業は、これまで生産性向上が実質4~5%あったにもかかわらず、大企業などとの取引価格に適切に反映されずに、名目では1%程度の伸びにとどまっており、賃上げに回せる余力はほとんど無いのが実情です。足元では、企業物価指数が対前年比+9・3%上昇しているにもかかわらず消費者物価指数はほぼ横ばいで、原材料高騰などによるコストアップをBtoB、BtoCともに、価格にどう転嫁していくかも大きな課題となっています。
官民で取り組む、サプライチェーン全体で付加価値やコストをフェアに分かち合う「パートナーシップ構築宣言」の宣言企業は6500社を超えました。昨年12月に公表された「転嫁円滑化施策パッケージ」の強力な推進とともに、宣言内容の実効性の確保と、さらなる宣言企業数の拡大に向けて、各地商工会議所の皆さまの引き続きのご協力をよろしくお願いします。
また、コロナ禍からの再起を図る中小企業に対しては、収益力改善や事業再生・再チャレンジとともに、事業再構築や事業承継・引継ぎなどへの支援の強化が必要です。さらに、付加価値の源泉として、有形資産とともに、知的財産などの無形資産の活用が重要となる中、中小企業やスタートアップが安心して研究開発に取り組む上での知財の活用と保護、これを支える人材の確保・育成への支援の拡充が必要です。
(3.地域ぐるみの地方創生の推進)
三つ目は、地域ぐるみの地方創生の推進です。
コロナ禍でリモートワークが進み、東京一極集中から地方分散化の動きも見られます。次なるパンデミックや大規模自然災害への国全体としてのレジリエンスを高めるためにも、また第1次産業や観光資源など、各地に存在する資源を最大限活用し国全体としての成長につなげるためにも、地方創生を再起動させる大きなチャンスが到来していると捉え、今こそ行動すべきです。
地方創生を再起動するためには、首長の強いリーダーシップと地域の資源を活用した地域ぐるみの取り組みの推進が必要です。
東日本大震災から11年がたちましたが、気仙沼商工会議所では、市や観光団体などとともに設立したDMOにおいて、飲食店や小売店、ホテルなどと連携した「気仙沼クルーカード」事業を展開しています。カードをアプリ化し、収集した消費データなどのビッグデータをマーケティング、まちづくり企画に活かし、域内消費の促進によって、地域活性化をリードしています。
(商工会議所の果たすべき役割)
2022年は、1922年に当時全国62商工会議所により、日本の発展のために力を合わせようと日本商工会議所が設立されて100年目になります。100周年のスローガンは「地域とともに、未来を創る」として、過去の振り返りよりも、未来に向けて、強く豊かな日本を創るためには何をなすべきかをメインテーマに掲げ、活動を展開してまいりたいと考えています。
現在直面する社会課題の克服に向けて、われわれ商工会議所が果たすべき役割は極めて大きいものがあります。特に、地域経済社会、これを支える中小企業の活力強化のため、行政、住民、経済団体、教育、金融をはじめ地域の多様な主体をつなぐ中核機能としての役割と活動への期待が高まっています。この期待に応えるためには、現場の声やニーズを丁寧にひろい上げ、タイムリーに政策要望していくとともに、中小企業・小規模事業者への経営支援や地域活性化事業に総力を挙げて取り組んでいかなければなりません。
各地商工会議所におかれましては、それぞれの地域経済社会の発展の推進役として、さらなるリーダーシップを発揮いただきたいと思います。
以上、所信の一端を申し述べました。
日本商工会議所では、全国515商工会議所と連合会、青年部、女性会、海外の商工会議所とのネットワークをより一層緊密化させ、コロナ禍克服とともに、わが国が抱える社会課題解決を各地域の成長へとつなげていけるよう全力で取り組んでまいります。引き続きのご支援とご協力をお願いして、私のあいさつとさせていただきます。
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