日本商工会議所は3月17日、東京商工会議所と連名で取りまとめた提言書「社会保障における持続可能な医療制度に関する提言~医療のデジタル化と自助・イノベーションの強化を~」を公表した。提言では、応能負担の原則化、医療費窓口負担の公平性確保、処方・投薬の適正化による医療費削減などの重要性を指摘。日商では、政府、与党など関係各方面に提言を提出し、わが国の医療制度が直面するさまざまな課題の解決のために必要な取り組みなど提言内容の実現を働き掛けていく。
提言では、基本的な考え方として、「いのちを守ること」と「医療を守ること」の両立に向け、公的医療保険など医療制度改革の必要性を指摘。「公的医療保険制度は、負担と給付のバランスが悪く、自助・共助・公助の在り方が大きく問われている」として、コロナ禍で遅れが顕在化した医療分野のデジタル化・データ活用、セルフメディケーションの推進とともに、医療関連産業のイノベーション促進により、レジリエントな国づくり・経済成長に寄与していくことなどを求めている。
公的医療保険制度については、「現役世代や事業主が加入する被用者保険(組合健保、協会けんぽ)が負担する拠出金が、高齢者が多い市町村国保や後期高齢者医療制度を支える構図となっており、今後見込まれる高齢者の増加が現役世代や事業主の負担増を招く恐れがある」と指摘。医療費負担について、年齢ではなく、支払い能力に応じた形にすることを主張している。
一定以上の所得がある高齢者の負担割合については、年齢にかかわらず一律3割とすることを提言。現在1割もしくは2割負担の高齢者については、段階的引き上げを求めている。
医療費全体の約2割を占める薬剤の処方・適正化の必要性も指摘。「自助」の普及とともに、OTC類似医薬品(市販薬と成分が同等の、医師が処方する医療用医薬品)の範囲を拡大し、保険給付対象外の医薬品を増やすことなどを主張している。
また、「感染症発生報告用システムなどの確実な利用促進」「医療資源確保などに係る情報システムの普及拡大」「電子カルテの統合化、データ連結の推進」「マイナンバーカードの普及・活用促進」など「医療DX」の強力な推進を要望。公的医療保険からの給付増加抑制に向け、自分で手当てし、医療機関にかからなくても済むようセルフメディケーションの促進と、その実践に必要な知識と判断力(ヘルスリテラシー)の向上に向けた取り組みの重要性を訴えている。
さらに、国民の健康増進と経済成長の両方に寄与する健康・医療関連産業のイノベーションを国全体で推進するため、アカデミアとベンチャー・企業が有する人、資金、技術が融合・循環する「ヘルスケアイノベーション創出エコシステム(仮称)」の構築を提言。2025年大阪・関西万博を契機としたイノベーションの加速化なども求めている。
「社会保障における持続可能な医療制度に関する提言」
<提言項目>
1.公的医療保険財政構造の見直し
(1) 応能負担の原則化と医療費窓口負担の公平性確保
(2) 処方・投薬の適正化による医療費削減
(3) 医薬品の安定供給に向けた取り組みの促進
(4) 公的医療保険制度における不合理性の見直し
2.「医療DX」の強力な推進
(1) 感染症発生報告用システムなどの確実な利用促進
(2) 医療資源に係る情報システムの普及拡大と新たな法的枠組みの検討促進
(3) 電子カルテの統合化、データ連結の推進
(4) マイナンバーカードの普及・活用促進
(5) オンライン診療・服薬指導の取り組み促進
(6) 電子処方箋、リフィル処方箋の活用促進
(7) 地域医療におけるデジタル実装の普及・促進が鍵
3.セルフメディケーションの浸透促進
(1) ヘルスリテラシーの向上による自助の促進
(2) 「かかりつけ医など」の活用促進
(3) OTC医薬品や零売(非処方箋医療用)医薬品の積極的活用
(4) セルフメディケーション税制の拡充と医療費控除との統合
(5) 健康経営の普及促進に向けた取り組みの強化
4.健康・医療関連産業におけるイノベーションの推進
(1) 関係省庁が一体となった健康・医療産業政策の展開
(2) 産学官にわたる人材交流・流動性の促進
(3) 2025年大阪・関西万博を契機としたイノベーションの加速化
(4) 革新的創薬の推進
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