家族葬専門の葬儀社・つばさ公益社(長野県佐久市)は、「お葬式のお金の痛みをなくす」をミッションとし、ホールを利用した「葬式」を6万8000円から提供している。「低価格を無理なく継続できる経営」を実現するためIT化を推進。その成果により、同社は全国中小企業クラウド実践大賞全国大会で「日本商工会議所会頭賞」を受賞した。
スマホで誰でも操作できるシステムへ転換
つばさ公益社代表の篠原憲文さんは金融業界、IT業界で働いた後、葬祭業に転身。2017年4月、つばさ公益社を創業した。創業前に葬儀に必要な資格や各種認可を取得し、他業界で働いてフランチャイズビジネス、現場オペレーションなどを学び、「葬祭業に必要な各レイヤー(階層)を垂直統合した会社の骨格をつくってからビジネスをスタートさせました」。
当然、この業界特有のさまざまな非効率な業務の慣習の改善にも、当初から手を付けていた。
例えば電話とFAX、紙による業務の改善。連絡は主に電話。食事、飲料、ギフトなどの手配はFAX、紙の見積書、納品書、請求書をやりとりして、紙の帳票で決済を回す。顧客情報も紙で保管。そんな「紙まみれ」の状況を改善するため、いくつかのツールを導入したのだが、「それが社内に情報格差を生んでしまった」と篠原さんは反省する。
「データベースにアクセスしたり、顧客情報を管理したり、葬儀の施行の状況を見通したりするためには、キーボードとマウスの操作が必要だったため、苦手意識を持っている人から敬遠されたのです。誰もがデジタル機器の扱いに慣れているわけではないという当たり前の事実に気付かされました」
そこで、キーボードとマウスのシステムを廃止し、クラウドの活用を前提に、スマホやタブレットに業務アプリケーションを移行させ、誰でも直感で操作ができるような「モバイルネイティブの仕組みに切り替えました」。この決断が、同社のミッションである「低価格を無理なく継続できる経営」を実現する原動力となった。
篠原さんはモバイルネイティブに移行するにあたって、三つの条件を設定した。
(1) 誰にでも使いやすく
新卒入社の22歳から69歳までの従業員が、迷わずに操作できるシンプルなUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザー体験)。
(2) 働く環境をより良く
葬祭業は365日24時間の対応が必須で労働条件が悪化しやすいため、週休3日制の無理なく働ける環境づくり。
(3) 多拠点で離れて働く
社員が離れた場所で働くので社内コミュニケーションを取りやすくし、顧客管理・堅固なセキュリティーを構築。
既存アプリと自社開発アプリを融合させ効率化
サーバーやソフトウエアなどを自社で保有し運用する形態は好きではないことから、サブスクアプリを組み合わせた。タスク管理ツールTrello(トレロ)を中心としたオペレーション設計とし、インターネットFAXサービスのeFAX、メールサービスのGメール、グループウエアのGoogleワークスペースにより、顧客管理・日程管理・発注管理を結びつけて管理。特に発注管理では、取引相手がFAXのため、eFAXとGmailを連携させてスマホからどこでも発注ができて、履歴も追えるようにした。
出退勤、POSレジ業務、見積もり・請求書の発行はfreee会計、freee人事労務などを活用、日報管理はオンライン情報共有アプリノーションを採用、外部のパートナーとの連携がスムーズに行えるようになった。
既存のアプリではカバーできない部分は、ノーコードアプリを利用して自社開発した。例えば顧客情報の転記作業。FAXの発注書や受注書、日程表、カレンダー、火葬場予約、霊柩車運行表、引き継ぎ情報を何度も転記する必要があり、紙に直すと30枚もあったが、現在は自社アプリに基礎情報を入力すると自動的にLINEにお知らせとして火葬場予約に必要な情報だけが抜き出されて送られ、その情報を使って、火葬場予約が簡単にでき、その予約から逆算する形で、グーグルカレンダーに葬儀日程、火葬日程、通夜、安置日程などが自動登録されるようになった。
その結果、経営効率が大きく改善され、「固定費43%削減、人材育成期間75%削減、週休3日制定着、有給休暇消化率100%といった成果が得られた」と篠原さん。社員教育でもIT動画を使用、対面での研修やOJTを実施しにくいコロナ環境下でも成果を上げている。
システム導入の目的を明確にし、誰でも使えるシステム設計に徹したことにより、同社は「低価格を無理なく継続できる経営」を実現した。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 365日24時間対応のため、労働環境が悪化しやすい状況だった。
・ 電話とFAX、紙の書類でやりとりをしており、顧客情報の管理も紙ベースだった。
導入したITシステム
・ Trello、eFAX、Gmail、GoogleWorkspace、freee会計、freee人事労務、自社開発アプリなど。
IT化後の状況
・ 固定費43%削減、人材育成期間75%削減、週休3日制定着、有休消化率100%を実現。
・ 顧客対応品質の向上、従業員間の連絡がスムーズになった。
・ 30%以上スタッフが自由出勤の対象に。テレワークが普及し無人店舗運営が可能に。
会社データ
社名:つばさ公益社(つばさこうえきしゃ)
所在地:長野県佐久市小田井906
電話:0120-123-300
代表者:篠原憲文 代表取締役
従業員:非公表
【佐久商工会議所】
※月刊石垣2022年4月号に掲載された記事です。
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