先日、日本の政策についてアンケート調査を実施した。そのうち「あなたが専門家に聞きたいことは何か」の問いでは、「有識者は信頼できないので質問する気になれない」という趣旨の回答が予想以上に多かった。こうした回答を寄せた人は特に高齢者に多いが、30代、40代の現役世代にも広く存在する。国民の間に専門家に対する不信の念が広がっているのではないだろうか。今回のコロナ対応においても専門家の意見に振り回された感触だ。
▼専門家の知見は、社会の未知なる課題を解決するための材料を与えてくれる。しかし、専門知だけでは社会課題を解決することはできない。例えば、地球環境問題、国際秩序の再編、そして、デジタル社会での格差の解消。これらの難題への対応は、学術の知見を市民がどう受け入れ、どのように判断するかで決まる。それは、専門家と市民との信頼に基づく対話が成立することが前提だ。市民の専門家への不信感は、両者の率直な議論を阻害し、課題の解決を遅らせる。どうすれば専門家への不信感は払しょくできるのか。
▼米国の初代大統領のワシントンは、民主主義は「大実験」だと述べた。その認識は今も共有されている。先に退官した米最高裁判事は、より良い民主主義を実現する実験を進める責務は、現在を生きるわれわれにあると指摘する。社会的課題の解決も社会的な「大実験」である。実験であるが故に起きる自説の誤りを、専門家が聞き入れる勇気も必要となろう。試行錯誤の過程で国民の声に耳を傾け、謙虚かつオープンな形でより良い方策を一般の人々と模索する。それが、日本の社会の広まりつつある専門家への疑念を信頼に変えるための最も効果的な方法だ。 (NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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