逆境こそ新たなビジネスのチャンスでもある。小さな企業でも主業務(OEMや下請け業務)を怠らず、そこで培ってきた技術と人材、ネットワークを生かして新たな自社製品のブランド化にも果敢に挑む。いわば〝二刀流〟で大きな相乗効果を生み、新たな販路を開拓して業績を伸ばしている地域企業の取り組みを追う。
海外を意識した商品名とシリーズ展開で認知度アップと市場拡大を狙う
ワイヤロープ端末金具の製造を主業務とするオーザックは、約20年前から自社ブランドの伸縮チェーンスリング吊(つ)り具「信長の腕」を販売している。これをシリーズ展開するべく、10年前から「秀吉の腕」「家康の腕」と武将の名を付けた製品を次々開発。「侍シリーズ」と銘打って、海外市場を果敢に攻める。
自社ブランド開発の背景に「働き方改革」あり
1945年創業当初から約20年間はリヤカーの製造販売を行っていたオーザックが、ワイヤーソケットの製造を始めたのは法人設立した5年後の74年のこと。当時、日本列島改造論の政策で内需拡大の勢いに乗り、橋梁(きょうりょう)や建設機械、電波塔など大規模建築物に必要不可欠な金具やフック、吊り天秤(てんびん)などの吊り具も製造していった。
「私が大学を卒業して家業に入ったのがその頃です」
そう語るのは取締役会長の岡崎隆さんだ。91年に二代目の代表取締役社長に就任し、2022年4月より会長を務めている。岡崎さん自らが自社ブランドの開発を牽引し、メーカーとしての実績も伸ばしてきた。経営者として重視してきたのは、「開発ありき」のスタンスではなく、一貫して〝雇用〟だという。
妻である岡崎瑞穂副社長とともに98年には1年間の育児休暇制度を導入し、残業時間の削減や完全週休二日制の採用、キッズルームの併設、完全下請け部門の廃止など、働き方改革の取り組みを進めてきた。政府が設けた「働き方改革実現会議」の有識者メンバーとして、中小企業で唯一選出されたことからも、先進的な取り組みだったことは見て取れる。社員の働きやすい環境づくり、一人何役もこなす多能工化を推進し、従業員らが自主的に作業効率を図る社風をつくり上げていった。そんな中、誕生したのが「信長の腕」の原型だ。
「従業員らが工場内のバネやゴムチューブを使って伸び縮みする吊り具をつくって生産性を上げていたんです。それを見て、私が商品化しようと言い出しました」と岡崎さん。1年かけて商品化し、発売当初は商品カタログを制作して勇んで営業をかけたという。だが、そもそも主業務ではない。〝ついで仕事〟の域を出なかったと苦笑する。だが、確かな品質が人づてに広がり、じわじわと売り上げを伸ばしていった。
中国サイト「アリババ」の活用から海外販路を開拓
「一般的な伸縮しない吊り具が1万円の相場に対し、信長の腕はその5倍します。二の足を踏む価格ですが、便利で作業効率が上がり、それでいて安全設計。一度使っていただくと、その良さを分かってもらえました。販路がなかったので長年お付き合いのある納品先にマージンを払い、中国地方の同業者を中心に販売していきました」
「信長の腕」というネーミングも岡崎さんの発案で、一度聞いたら忘れられないインパクトも勝機につながった。10年後に「秀吉の腕」、そして「家康の腕」を販売し、2022年4月には「謙信の腕」「信玄の脚」を販売して5アイテムとし、さらに〝武将〟を増やしていく計画だ。
「耐久性が高いが故に新規顧客を増やさないと売り上げが伸びません。そこで、10年前から海外販売を始めました。同時期にアリババジャパンができたことから出品を決めました。シリーズ名の『侍』は海外に認知されている日本語であり、日本製というブランド力で推せるという提案を採用したものです」
「秀吉の腕」に取り組んだ際に相談した『Fuku-Biz(フクビズ)』も、アリババ活用をサポートした。フクビズは、備後地域(福山市を含む8地域)の中小企業をサポートする公共のビジネスサポートセンター。アリババへの出品から海外の販路が広がっていった。
コロナ禍だからこそオンラインで世界とつながる
「アリババから英語バージョンのホームページや動画の必要性など、海外販売におけるコツを教えてもらえたのはありがたかったです。出品料が年間70万円かかりましたが、侍シリーズをきっかけに主力製品も売れ、ミャンマーの企業から毎年1000万円、多い年は1500万円の受注がありました」
21年2月に起きたミャンマー国内でのクーデターで受注は途絶えてしまったものの、ベトナムやタイ、インドネシアなど東南アジアのパイプはすでにできていた。アリババとの契約を今年6月で終了し、次の一手として世界最大のビジネスSNS「リンクトイン」を活用して海外を狙う。
岡崎さんから三代目を引き継いだ現・代表取締役社長の西山基次さんは言う。
「侍シリーズと海外販売の売り上げは1%に過ぎません。しかし一方で、一品一品オーダーメードの吊り具関連製品の国内外の受注はネットを含めて5%を占めるまでに伸びています。デジタル技術と侍シリーズの認知度を上げれば、ますます需要が伸びそうです。どんな要望にも柔軟に対応し、完成品まで一貫加工できるのがオーザックの強み。侍シリーズをきっかけに、ワイヤロープ端末金具や吊り具など主力製品の販路を広げられる可能性も感じています」
働き方改革から自社ブランドが誕生し、さらにメーカーとしての存在感も高めていきたいと語る。
「そのためにも侍シリーズの品数を増やして、数によるインパクトをもっと出したいですね」と、岡崎さんの意思を継ぐ西山さんの思いも熱い。
会社データ
社名:株式会社オーザック
所在地:広島県福山市鞆町後地26-229
電話:084-982-3258
代表者:西山基次 代表取締役社長
従業員:44人
【福山商工会議所】
※月刊石垣2022年5月号に掲載された記事です。
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