100年以上にわたり地域と企業の発展とともに歩んできた、いわば“老舗商工会議所”が抱えている地域の課題と解決へ向けた取り組み、さらに次の100年へ向けた意気込みについて、当該商工会議所の会頭に聞いた。
新産業の創出や新規創業を促進しUIJターン者の雇用を推進していく
1902(明治35)年に創立した今治商工会議所は、愛媛県で松山商工会議所に次ぐ古い歴史を持つ。瀬戸内海に面した今治市は造船とタオル生産で知られており、広島県尾道市との間を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」により観光面でも注目を集めている。しかし、近年は人口減に悩まされており、今治商工会議所は今治市を「働き、暮らせるまち」として、創業や販路拡大の支援だけでなく、県外の若者の移住促進にも力を入れている。
商工業の振興だけでなく地域のまちづくりも推進
今治市は2005年1月に12市町村の合併により、愛媛県で第2位、四国で第5位の人口を誇る都市となり、現在の人口は約15万人。古くから海上交通の要衝として栄え、四国で最初の開港場となるなど、港を中心に商業都市として発展してきた。
「現在は海運と造船業、タオル・縫製品などの繊維産業、食品などの企業が、国内はもとより海外でも事業を展開しており、四国一の製造品出荷額を誇る『ものづくりのまち』として、地域経済の振興に大きな役割を果たしています。その中で今治商工会議所は、3千を超える会員数、組織率は50%を超えるなど、地域の商工業発展の中核を担っています」と、今治商工会議所の阿部健会頭は胸を張る。
同所は中小企業に対する経営支援などを行うとともに、地場産業である今治タオルのブランド化を推進するため、当時は商工会議所でなければ申請できなかった中小企業庁のJAPANブランド育成支援事業を4年間実施。安価な外国産輸入タオルにより大きな打撃を受けていたタオル産業の起死回生の策に大きく貢献している。
また、四国最大級の打ち上げ花火が繰り広げられ、毎年約20万人が訪れる今治市の祭り「おんまく」の開催にも中心となって取り組み、商工業の振興だけでなく、地域住民と一体となったまちづくりも推進している。
「時代の変化にはいち早く的確に対応した取り組みを進め、近年の造船不況では造船関連不況対策連絡会議を設置し、労働力確保対策では技能実習生などの外国人材の活用を推進するなど、地場産業の抱える諸問題の解決に積極的に対応してきました」
企業情報サイトを開設し若者に関心を持ってもらう
市民と行政、そして商工業界が一体となり、これまでさまざまな荒波を乗り越えてきた今治市だが、近年は人口減に悩まされており、その対策が喫緊の課題となっていると、阿部会頭は言う。
「これは今治市だけではなく地方の市町村が共通して抱える問題だと思いますが、少子高齢化だけでなく、大学進学や就職による若者の流出をいかに食い止め、UIJターン者を増やすかが大きな課題となっています。また、雇用を確保するため、地域経済を支えてきた海事産業・タオル産業をはじめとする多様な産業の振興を支援するとともに、新たな雇用の受け皿となる新産業の創出や新規創業も併せて促進する必要があります」
そのため今治商工会議所では、さまざまな方策を採っている。その一つが今治企業情報サイト「ハタラク」で、今治市で仕事を探している人や暮らしたい人に向けて市内の産業を紹介し、企業情報を総合的に発信するホームページとして2016年に開設した。
「昨年度はオンライン合同企業説明会の配信企業26社も掲載しています。開設当初は登録事業所数が24社でしたが、今年3月末時点で75社にまで増えています。このサイトで若者に今治の産業と企業に関心を持ってもらうとともに、市内の雇用創出を支援しています」
また、市民の人たちに郷土の魅力を再認識してもらい、全国に向けて地域情報を発信することを目的とした「いまばり博士検定」を09年に開始。タオルの知識とスキルを持つプロフェッショナル人材の育成を目的に07年に始めた「タオルソムリエ検定」では、今治だけでなく東京と大阪にも試験会場を設置し、繊維業界をはじめ販売店や商社などの関係者を中心に多くの受験者を集めている。
自転車レースの開催で地域経済活性化の起爆剤に
コロナ禍の影響により今治市の祭り「おんまく」は2年連続で中止となったが、今治商工会議所120周年記念事業として計画を進めてきた自転車レース「第1回今治クリテリウム2022」は、今年10月29日の開催に向けて動いている。クリテリウムは市街地の公道に短い周回コースを設けて行うレースで、当初は海外のプロ選手も招待する予定だったが、コロナ禍でそれが不可能となり、国内選手のみでの開催となる。
「今治市にはサイクリストの聖地と呼ばれる瀬戸内しまなみ海道があり、日本だけでなく世界中から多くの自転車愛好家が集まります。この強みを生かし、自転車に興味を持つ市民を増やし、まちににぎわいをもたらすために、この自転車レースを計画しました。この大会が地域経済の活性化に大きく寄与することを期待しています」と、阿部会頭は目を輝かせる。
コロナ禍以前は、しまなみ海道でのサイクリングも含めて今治を訪れていた観光客も、コロナ禍によりその数が減少し、海外からのインバウンド客は姿を消してしまった。そこで現在は、コロナ後を見据えた観光やワーケーションの取り組みを行っている。
「市内の大型ホテルでは修学旅行客を積極的に受け入れてインバウンドの減少分を取り戻す対策を取っています。ワーケーションや移住促進については、今治市が大手旅行会社と提携したり補助金を出したりして推進していますが、まだ少数にとどまっています。しかも、移住者が多いのは瀬戸内海の島しょ部が中心なので、商工会議所の地域にも来てもらうためにどうするかが課題となっています」
小規模事業者に対して商品の販路拡大も支援
事業者に対する支援についても、同所ではさまざまな事業を行っている。その一つが17年に始めた小規模事業者販路開拓支援事業「販路開拓セミナー」で、小規模事業者の自社商品をブラッシュアップし、全国に販路を開拓する支援を行っている。
「当地域は人口減少が著しく、既存の商圏だけで商売を繁栄させるのは困難なので、地域外に販路を広げる必要があります。そこで、地元の優れた商品を選定し、専門家が味やパッケージを磨き上げて売れる商品に仕上げていきます。また、小規模事業者は商談の経験が少ないので、プレゼンテーション能力の向上も図っています」と阿部会頭は説明する。
ブラッシュアップさせた商品は、バイヤーとの商談会を設定したり、都内での商談に同行したりするなどして、消費者の多い大都市圏に販路を広げていく手伝いをしている。
「19年度は都内9バイヤーに対して延べ73商品が成約しました。事後調査では、事業者の売り上げが平均5~10%増加しています」
また20年からは、島根県・松江と広島県・尾道を結ぶ「やまなみ街道」としまなみ海道沿線の4商工会議所(松江・尾道・今治・松山)の連携事業「やまなみ・しまなみ観光展・個別商談会」を毎年開催し、毎回成約につながっている。
「同時に、創立120周年記念事業として環境アクションプランを策定し、経営改善や生産性向上への取り組みの中に省エネの視点も加味しながら経営課題を解決していく新たなスキームを推進していきたいと考えています。また、次の100年に向けて、SDGsの取り組みを広く発信していきます」と、阿部会頭は熱く意気込みを語った。
会社データ
今治商工会議所
所在地:愛媛県今治市旭町2-3-20
電話:0898-23-3939
HP:https://www.imabaricci.or.jp/
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!