銅や真鍮(ちゅう)、アルミ製品の加工から製造販売まで一貫生産体制で手掛ける石垣商店。銅加工の技術力と短納期には定評があり、多種多様な加工の解決提案を得意とする。創業から70年を超えた2019年、創業者の孫に当たる石垣雅裕さんは、33歳で三代目に就任し、新規開拓を狙う。
「いずれ継ぐ」からこそ一度は違う道に挑戦
石垣商店が創業したのは1948年で、銅板・真鍮(ちゅう)板専門の卸問屋としてスタートした。地元大手の電力用変圧器メーカーの部品加工の要望に応えるうち、問屋業より加工業の需要が伸び、電力業界の発展に伴って金属加工業にシフトした。
「事業の基盤や取引先とのつながりは創業者である祖父あってのことですが、事業を軌道に乗せ、発展させたのは先代の父ですね。というのも祖父は心臓病で早逝して、父が26歳で二代目になり、91年38歳の時に今の本社工場を新設しました。それが加工業者としての石垣商店の経営改革ギアを一段上げたターニングポイントだったといえます」
三代目を継いだ代表取締役社長の石垣雅裕さんは3人兄妹の長男。当時はまだ4歳で、働く父の姿を身近で見ながら成長し、高校生、大学生の頃には「いずれは継ぐ」という意識は漠然とあったと振り返る。
だが、だからこそ違う道に走った。憧れたのは芸術性に富んだ世界トップレベルのヘアメークアーティスト。大学で経営学を学んだものの、卒業後、美容師専門学校の門戸をたたいた。その時も父、廣憲さんは一切反対することはなかったという。
「猛勉強しましたが狭き門。そのまま勉強すれば美容師にはなれたかもしれませんが、それは望んだ将来ではありません。中途半端に夢が終わるなら、家業を継ぐ未来に本気で向き合おうと思いました」
違う道を全力でやり切ったからこそ見切りがついたと語り、石垣さんは2010年、24歳で石垣商店に入社した。
スムーズな事業承継で狙うは新規顧客の獲得
「もともと手を動かすのが好きなので、現場作業は今でもやりたいぐらいです。営業、取締役を経て、33歳で社長に就任しました。親戚筋の税理士を間に入れて1年かけて事業承継をしたので社内外に波風立つことはありませんでした。父と子の確執? ないですね」と笑う。
もともと親子関係は良好で、経営方針や価値観の違いで言い合うこともない。事業承継の成功のカギを「我を出さないこと」とさらりと言い切る。
「父も私もワンマンではない点が共通しています。社風も至って穏やかなのが特徴です」
事業もコロナ禍で一時は業績が下がったものの、先代からここ10年の売り上げは総じて一定だ。だが、売り上げが変わらないことを「安定」とするか「停滞」とするかで、石垣さんは後者と捉えた。そして新たに打ち出したビジネス戦略が、新規顧客の獲得だ。
「売り上げを伸ばすには、新たなお客さまとのつながりが必須です。16年から出展している展示会では、『銅の遊園地』をコンセプトにブース演出を工夫していましたが、さらに見せ方をブラッシュアップして新規顧客増に導きました。社内の取り組みとしては、社長就任の翌年からはワンオンワンミーティングを導入し、個々の目標や"考えて働く"という意識を持ってもらうようにしました」
21年には数値目標を大々的に掲げた。「売り上げ5億5000万円を達成したら、石垣島に行こう」。社名とかけた旅先に社内が湧いた。
「銅のことなら石垣商店」と思われる企業を目指す
こうした取り組みは「OKR」(Objective and Key Result)がベースにある。OKRを直訳すれば「目標と主な結果」で、「売り上げアップ」などの目標に対して、求められる主な結果を明確に測定できる指標にして、会社の目標と社員の目標をひもづける目標管理方法だ。世界有数の企業が取り入れていることでも知られており、前述した石垣商店の目標も5億5000万円、石垣島と具体的に示しているのは、このOKRに基づいている。
「この10年間の売り上げは4億5000万円から5億円で、決して無謀な目標ではなく23年には達成できます」と目を細める。
ホームページで銅製品に関する相談を広く受け付けたことも、今まで関わったことのない業界、業種との接点になりつつあり、「これまでお付き合いのないお客さまにも銅のことなら石垣商店、と覚えてもらえれば」と意気込む。
名古屋商工会議所の異業種交流団体「若鯱(しゃち)会」に先代から継続して参画して地域経済に貢献するとともに、再生可能エネルギー分野の開拓にも積極的だ。直近では今年3月開催の「第10回 WIND EXPO風力発電展」に出展している。
「風力も波力も変電所は必要で、銅を使ったモノづくりで地域に貢献する余地が十分にあります。世界の潮流である脱炭素社会に適応した企業でありたいですね。会社を大企業にしたいとか創業家が継承し続けてほしいという思いはなく、100年後も石垣商店の穏やかな企業文化、マインドを受け継ぎつつ、地域に求められる社会課題に貢献する企業であればと思います」
会社データ
社名:株式会社石垣商店
所在地:愛知県名古屋市守山区瀬古1-629
電話:052-793-3080
代表者:石垣雅裕 代表取締役社長
従業員:24人
【名古屋商工会議所】
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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