金型製作から金属プレス加工までを一貫して手掛ける山口製作所は、現社長の山口貴史さんの父親が1968年に創業。父親の急逝を受けて、87年に23歳で会社を承継した。そこから同社のデジタル化、IT化、IoT化がスタートし、会社が飛躍する原動力となった。成功のキーワードは、「トップダウン」「内製」「IT人材」だ。
ITの内製化をトップダウンで推進
山口貴史さんが入社した当時の山口製作所は、発注元の費用で金型製作を外注してプレス部品を製造し、発注元が決めた納期に従って納品する賃加工が主な収入源だった。当時は自動車部品のプレス加工が主力だったため、自動車会社の「ジャスト・イン・タイム」に対応しなければならず、「帳票類が膨大な数になっていた」と山口さんは振り返る。そこで、会社に眠っていたパソコンを使って、納品書発行システムの開発に乗り出した。
納品書発行システムが動き出すと、今度は受注管理をしてみよう、請求書の発行をしようと欲が出て、専門知識を持つ友人の協力を得て受注管理システムを内製。その後、OS(基本ソフト)がウィンドウズ95に変わり開発がしやすくなり、ネットワーク対応も進んだため、受注管理システムを一新、社内ネットワークを導入するなど、トップダウンでデジタル化、IT化、IoT化そしてペーパーレス化を進めていった。
同社のシステムはほぼ内製だ。「手づくり感満載ですが、必要な要素をどんどん取り入れているので、使い勝手は非常にいい」と山口さんは内製の利点を強調する。
FA(ファクトリー・オートメーション)も進めた。1998年にCNC制御(コンピューターによる数値制御)による自動測定へ移行、2000年に金型の内製化に踏み切って、山口さんが入社当時から目指していた高付加価値経営にかじを切った。CAD/CAM(コンピューター支援による設計・製造)に移行して手書きによる製図を禁止した。ロボット導入やAI開発、AGV(無人搬送車)による材料や金型の自動搬送の導入も進めている。
それでも出荷時の検収作業のように人が介在する作業ではミスが起こる。ダブルチェックで対応していたが、現場の「スーパーのレジのような仕組みがつくれないか」という声を受けてQRコードによる検収システムを開発、一人で確実な検収作業ができるようになった。
山口さんのIT化は硬軟の使い分けが特徴だ。「硬」は、人の介入を徹底して減らす強い意志を持って、あらゆる工程で自動化を実行すること。ミスが減るし、効率が向上する。例えば生産計画の作成。以前は、各部門のリーダーが“経験と勘”を基にエクセルを使ってつくっていたが、今のシステムは過去の納品データ、製品在庫、部品在庫、材料在庫のリアルタイム状況や受注残などの数値を独自の計算式に当てはめて需要を予測して自動で生産計画を作成する。
「軟」は、柔軟な対応ができること。需要予測=AIという発想に陥りがちだが、「AIを使おうとすると急にハードルが高くなる」ため、ごり押しはしない。生産計画作成システムの場合は、「現場の経験と勘を数式化して予測する方式にしました。それでも精度は十分に高いし、万が一、答えに違和感を覚えたら人が見直せばいいのです」。経験と勘を数式化する作業は、当人の頭の中を整理することに役立つし、属人化していたノウハウの共有にもつながる。その結果、優秀な人材の時間を創造的な仕事に振り分けることができるようになった。
IT人材に向く三つの条件
同社のIT化、DX化を担っているのは、ITチームと呼ばれている業務管理部情報技術のメンバーだ。最初からITチーム所属ではなく、生産現場で働く人材の中から山口さんが適性を見抜いて引き抜いた。係長の嶋優仁さんはファナックの多関節ロボット「ゲンコツロボット」を検査工程に導入したり、ピッキング装置を内製したりという成果を上げているが、「そもそもは素人。分からないところは調べたり、メーカーから学んだり、工技総研(新潟県工業技術総合研究所)のアドバイスを受けたりして少しずつ解決していきました」。このように「自学ができること」はIT人材の重要な条件だ。
廣井奈緒子さんは、生産現場でオペレーターとして働いた後、嶋さんのサポートをするようになった。「自分の時間軸を持ち、できないことはできないと見切りを付けることができる」と山口さんは評価する。自学、時間軸、加えて謙虚が社内でIT人材を見つけるキーワードだという。
中小企業の場合、IT導入はトップダウンがスムーズだが、現場に任せるのなら、「担当者に責任とともに、権限を与えるべきです」と山口さんはアドバイスする。経営者に対しては、「ITは投資対効果では答えが出ません。競争に勝つためのインフラ構築の覚悟で導入しなければだめ」。
その覚悟を今、経営者は求められている。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 1980年代は膨大な量の紙の帳票を手書きしていた。
・ 賃加工の形態だったため付加価値経営が難しかった。
・ 生産の現場でも人が介在する部分でミスなどが起こっていた。
導入したITシステム
・ 生産管理システムなどを内製。
・ 工場の自動化を徹底した。
・ ペーパーレスを推進。
IT化後の状況
・ 高付加価値経営を実現。生産効率が向上。人材の能力を適材適所で生かせるようになった。
・ 人を介する工程を大きく減らし生産ミス、検収ミス、出荷ミスなどがほぼゼロに。
・ ペーパーレス化により手入力作業がなくなった。
会社データ
社名:株式会社山口製作所(やまぐちせいさくしょ)
所在地:新潟県小千谷市片貝町10245-1
電話:0258-84-2308
代表者:山口貴史 代表取締役
従業員:28人
【小千谷商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
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