武雄温泉駅(佐賀県武雄市)と長崎駅(長崎市)を結ぶ西九州新幹線が2022年9月23日開業する。長崎・博多間の所要時間は、乗り換え時間も含めて最速約1時間20分、始発となる武雄温泉駅と長崎駅はわずか23分でつながる。人口減や経済の停滞に悩む西九州各地の地域活性化への起爆剤として期待は大きい。西九州新幹線開業直前、沿線の商工会議所の会頭・副会頭に取り組みについて聞いた。
西九州新幹線開業を長崎創生のさらなる起爆剤に
異国情緒漂う港町で、複数の世界遺産も擁する有数の観光都市・長崎市。その一方、歯止めのかからない人口減少や、基幹産業の衰退などの課題がある。課題解決の起爆剤として期待を寄せているのが、西九州新幹線の開業だ。長崎創生に向けてさまざまな取り組みを進めており、まちは今、大きく変貌を遂げようとしている。
人口減少のまちに交流人口拡大は欠かせないテーマ
「わからん文化」という言葉をご存じだろうか。鎖国時代、日本で唯一、海外に港が開かれていた長崎では、さまざまな人や文化が行き交った。そうして日本の「和」、中国の「華」、オランダの「蘭」が融合し、醸成されたのが独特の和華蘭文化だ。そんな異国情緒あふれる長崎市は、人気の観光地として多くの人が訪れ、また核兵器による被爆都市として多くの修学旅行生を受け入れてきた。
そんな活気あるイメージとは裏腹に、人口減少という現実に直面している。ピーク時には約50万人だった人口は1985年ごろを境に減少に転じ、現在は約40万人。近年では、全国ワースト1・2位を競うほど人口流出が加速している。その要因として、基幹産業である造船業や水産業の衰退に伴う雇用の減少や平地が少ないという地勢上の問題などの理由で企業誘致が進みにくいことなどが挙げられる。
「人口減少は地方都市に共通の課題で、交流人口の拡大は大きなテーマです。長崎はもともと人を呼べる大きなポテンシャルを秘めていますが、そこに西九州新幹線開業は大きな追い風になります。このチャンスを生かそうと、かねてより受け入れ態勢の整備を進めてきました」と長崎商工会議所の宮脇雅俊会頭は説明する。
大型プロジェクトの実施でまちは大きく変貌
実際、長崎のまちは今、大きく様変わりしている。例えば、新幹線と在来線が一体となった長崎駅は、テント地の流線型の屋根で覆われた先進的なデザインの駅舎に変わった。駅西口前には国際会議やイベントなどが開催できる「出島メッセ長崎」が2021年11月に誕生。東口側には高層の駅ビルやホテルの建設が進められている。さらに、長崎に本拠地を置くJリーグチーム/V・ファーレン長崎の親会社、ジャパネットホールディングスの投資による「長崎スタジアムシティ」も建設中だ。これはサッカースタジアムとともに、アリーナや商業施設、オフィスビル、ホテルなどの複合であり、24年の完成を目指している。
「交流人口の拡大を目指したまちづくりに官民一体となって取り組んできましたが、特に商工会議所として要望してきたのが出島メッセ長崎です。長崎は、さまざまな観光資源に恵まれていますが、富裕層から見た魅力に乏しいのがネックでした。そういう意味で、国際機関や学術団体が展示会や博覧会などを開催できる場所の必要性を感じていたので、ようやく念願がかないました。また、それに合わせて高級ホテルを誘致し、すでに一つは開業しています」
また、インバウンドの呼び込みにも力を注いできた。具体的な施策として、クルーズ客船の増加や船の大型化に対応するため、松が枝国際観光船埠頭に2隻同時に接岸可能となる「2バース化」が進行中だ。25年に完成を予定しているが、クルーズ客船の寄港数が増えることで、港を中心とした産業形成と雇用の創出、インバウンドによる消費拡大などに期待を寄せている。
長崎が誇る食材をブランド化して全国区に
まちの進化と並行し、地域に人を呼ぶ仕掛けとして、同所は「食」にも注目している。長崎を代表するグルメといえば、卓袱(しっぽく)料理や、すし、ちゃんぽん、皿うどんなどが有名だ。
「卓袱料理は長崎発祥の宴会料理で、和・華・蘭のミックスした献立を大皿に盛って円卓で提供するものです。献立の一つひとつに意味があり、おもてなしの心が込められていますが、何でもありで少し特徴に欠けるかもしれません。ちゃんぽんや皿うどんもおいしいですが、今や全国どこでも食べられます。わざわざ長崎に食べに行きたい、食べたらSNSに投稿したいと思ってもらうには、たとえ伝統料理でも見直しは必要。それは私たちの役割だと思います」
同様のことは土産物にもいえる。長崎土産といえばカステラが定番だが、それに続く特産品として「かんぼこ」を推している。かんぼこは長崎の方言で水産練り製品のことだ。長崎県は水揚げされる魚種が日本で最も多く、かんぼこの生産者数も一世帯当たりの支出額も全国トップクラスだが、知名度が低いのが現状だ。同所では、10年から水産練り製品のブランド化に取り組んでおり、官民が連携して「長崎かんぼこ王国」を結成、PR活動を展開してきた。
「一般的なかまぼこは、スケトウダラのすり身を原料につくることが多いですが、長崎のかんぼこはアジやイワシ、エソ、タチウオなど、さまざまな種類の魚を使い、それぞれの素材の味を生かしてつくるのが特徴。ですから『アジのかんぼこ』『イワシのかんぼこ』なんて言い方をします」
新幹線開業を見据えて、さらにかんぼこの認知を高めようと、キッチンカーを導入したり、サッカースタジアムやイベント会場などにテントを設置して、県外客に揚げかんぼこや長崎おでんを提供したりしてきた。また、ホテルの朝食で揚げたてを提供してもらえるように働き掛けをしているという。土産物売り場でも大きなスペースを設け、かんぼこの自動販売機を置くなど露出を高めている。
県庁舎跡地の活用で地域の魅力を堪能する仕組みを
コロナ禍では、新幹線開業の機運を高めるイベントを十分に行うことができなかったが、今年の4月末から「かもめ」の車両をイメージしたラッピングバスの運行を開始した。3年ぶりに開催された「みなとまつり」では、来場した市民が一緒になって開業をお祝いするイベントを行った。また、県外各地にも積極的に出向いてPRを展開している。
「市民の関心は高まってきましたが、今回は武雄温泉と長崎区間のみの開業ということもあり、全国から注目されているとは言えません。だからこそフル開業するときを見据えて、長崎の魅力をもっと発信したい」と宮脇会頭は強調する。
そう語る背景には、「長崎は魅力の宝庫だが倉庫に入っている」といわれる現状がある。同市にはバラエティー豊かな観光資源が点在しているが、それらを効率よく巡る仕掛けが乏しく、宝の持ち腐れになっていると言う。その打開策として期待するのが、県庁舎跡地の活用だ。ここは長崎発祥の地であり、歴史的にも商業的にもまちの中心を担ってきた場所だが、庁舎の移転に伴い、その跡地利用に注目が集まっていた。同所では、この跡地を交流、情報発信、交通の拠点として機能させ、同市を訪れた人がここを起点にまちを堪能できる仕組みづくりを提案している。
「市内の回遊性を高め、さらには佐世保や平戸、諫早、雲仙など、県内全域を回遊する仕組みを構築していきたい。新幹線開業に合わせて、大村湾と有明海沿いをぐるり1周する観光列車『ふたつ星4047』がデビューしますが、島原鉄道や松浦鉄道でも観光列車の導入を目指しています。せっかく長崎まで来たなら、連泊して各地の多様性や食を楽しんでもらい、交流人口や観光消費の拡大につなげたい。長崎はまだまだ進化します」と宮脇会頭は力強く語った。
会社データ
長崎商工会議所
所在地:長崎県長崎市桜町4-1
電話:095-822-0111
HP:https://nagasakicci.jp/smarts/index/0/
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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