長引くコロナ禍により、規模や業種を問わず多くの企業が苦境にあえいでいる。その一方で、一足早く新型コロナとの共存を見据え、時代に合わせたサービスを開発し提供することで、新たな需要を開拓している企業もある。苦しい時こそ見習いたい企業の取り組みと戦略に迫った。
“海”の安全をサポートする実績を“陸”に生かして高齢者の安心を支える
日本有数の国際拠点港湾の一つ、徳山下松港。そのポートラジオ局を運営する周南マリコムは、港湾の電気通信工事業で実績を上げる。福祉事業へと発展させ、今や主力事業として展開。緊急通報システムや、IoTを活用した高齢者見守りシステムを独自に開発・運用し、一般ユーザーのほか、全国の62自治体と契約を締結している。
24時間365日体制で海の安心・安全をサポート
2022年2月に開港100周年を迎えた徳山下松港は、「カーボンニュートラルポート」として、脱炭素化に配慮した高度な港湾機能を目指す全国6港の一つに数えられる。東南アジアや韓国、中国などの外貿コンテナ航路の就航が多い、国際拠点港湾だ。そんな港湾を利用する船舶の安全・安全をサポートするのがポートラジオ局で、山口県から受託され運営しているのが周南マリコムだ。きっかけは1966年に同社の創業者であり、現取締役会長の堀信明さんが、ポートラジオ局の必要性を提言したことに始まる。当時、出光興産で26万t超のマンモスタンカーの一級無線通信士を務めていた堀さんは、世界の大きな港湾はどこもポートラジオ局があるのに対し、国内には22カ所しかなく、徳山下松港にはまだなかったことを危惧してのことだ。
「社内ベンチャー的に活動して、地元企業である周南コンビナート31社とポートラジオ局設置推進協議会を立ち上げ、県へ陳情、周南4市へ働き掛けを行いました」
堀さんの努力が実を結び、89年に早期退職して国際港湾無線局の運営を担う同社を設立する。91年には24時間365日体制でポートラジオ局を開局した。そして設立から8年後の97年、新規事業に乗り出したのが異業種の福祉事業である。
緊急時も平時も寄り添い柔軟かつ迅速に対応する
「何か新しいことができないかと、手探り状態で、県主催の異業種交流会に参加したり、県と山口大学共催のベンチャービジネス講座を1年間受講したりしました」
見えてきたのは超少子高齢化時代と、それに伴う高齢者福祉関連市場の拡大、そしてIT、IoTなどのテクノロジーの急速な発展だ。8年間の港湾で培った実績を〝陸〟に置き換えることはできないかと、堀さんは緊急通報システムの開発に着手する。通信インフラ事業の強みを生かし、99年に発売したのが緊急通報・生活サポートシステム「さすがの早助」(以下、サスケ)だ。これは加入した高齢者世帯に端末機を設置し、緊急時および介護や病気の予防など平時のサポートも対応するというもの。端末操作も「相談」「取消」「緊急」の三つのボタンのみというシンプルな設計だ。
「一人暮らしの高齢者は増加傾向で、緊急時に110番、119番に連絡してもうまく状況を説明できなかったり、一方で誤通報も多かったりします。消防署や病院の橋渡しも、24時間365日体制の弊社なら迅速かつ細やかに対応できます」
このシステムが特徴的なのは〝在宅支援型〟であること。日々の悩み事の相談相手となり、時には米の配達やタクシーの手配にも応じる。
「最初に1件ごとに訪問して丁寧に聞き取り調査し、自治体や介護支援センター、病院や民生委員、ご家族と連携して平時から信頼関係を築き、もしもの時に備えます」と堀さん。家族や友人と電話でつながらないことがあっても、サスケはボタン一つでいつでもオペレーターにつながる。それもオペレーターは看護師や社会福祉士、栄養士などの有資格者ばかりだ。加入者はもちろん、毎日訪問できない家族や民生委員の安心感にもつながった。
距離感や操作性を考慮した使う人目線のサービスを提供
「開発には各種助成金や補助金を活用し、普及には高齢者や民生委員対象のセミナーや出前講座を開くなど地道な活動を続けました」
サスケに興味を持つ自治体も現れる。2002年には宮崎県の市町村との契約を皮切りに九州、中国地方に拡大し、今では全国62の自治体との契約に至る(22年8月現在)。
「端末機の生産が追いつかなかったり、改良して価格を下げたり、オペレーター研修にも苦心しました。今でも従業員の資質向上に向けて、研修を月1回ペースで実施しています」と語る。
さらにサスケで得た知見とノウハウ、IoT技術を活用して20年には見守るセンサー「Sobamii(ソバミー)」を発売する。テレビなどの家電製品とコンセントの間に取り付けることで、通常時と使用頻度や時間が異なる場合に、登録されたスマートフォン、最大5台にショートメールが届く。サスケと併用すればサスケセンターにも連絡が入る仕組みで、高齢者はボタンを押す手間も、監視されているというストレスもなく、離れて暮らす家族にとっては安否確認が気軽にできるのが魅力だ。
「追求しているのは見守りサービスの〝質〟。警備会社の参入もある事業領域ですが、お客さまの日々の不安にまで寄り添う、サービスの視点そのものが違います」と、堀さんは言い切る。
実際に取り組みは高く評価され、経済産業省から06年には「IT経営百選」の最優秀賞企業に、20年、21年には「地域未来牽引企業」「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定されるなど数々の賞に輝いている。さらに評価に甘んじず、21年7月よりやまぐち産業イノベーション促進補助金に採択され、現在、気温や湿度などの環境データをAIが検知する次世代見守りサービスを開発中だ。4年後の発売を目指し、安心・安全の追求は止まらない。
会社データ
社名:周南マリコム株式会社(しゅうなんまりこむ)
所在地:山口県周南市入船町2-3 Maricomビル
電話:0834-21-0367
HP:https://www.maricom.co.jp/smarts/index/0/
代表者:堀 学明 代表取締役社長
従業員:82人(パート含む)
【徳山商工会議所】
※月刊石垣2022年10月号に掲載された記事です。
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