「地域一体型オープンファクトリー」とは、従来の「オープンファクトリー」がいわゆる工場見学を中心とした1社型だったのに比べ、地域内のものづくり企業が連携して、一体的に見せていく取り組みである。この活動を通してイノベーションや地域活性化につなげようと奮闘する商工会議所がある。
幅広い業種の中小企業が集積する堺商工会議所は、オープンファクトリープロジェクト「FactorISM(ファクトリズム)」と連携して、「さかいオープンファクトリー推進事業」を実施。2022年10月27~30日までの期間中、堺地域の21社が工場を一般に公開して、「ものづくりの現場」の魅力と強みを発信した。
ものづくりのまちという意識が薄れてい
古くは「種子島」と呼ばれた火縄銃や、刃物、自転車、線香、手織緞通、昆布、注染(ちゅうせん)・和晒(わざらし)―中世の時代から堺地域は先進的な文化・技術の発信地として栄えた。それは現在も同じだ。堺市によれば、市内の産業は多岐にわたるが、中でも金属製品製造業と生産用機械器具製造業の2業種が多いという。
しかし、課題も抱えていた。ファクトリズム実行委員会事務局の野村範仁さん(ジョイントメディア)によると、「ものづくりの現場」の魅力を発信する機会が少なくなり、地域住民との間に距離が生じていたという。
「昔は工場と住民の距離が近く、子どもたちが工場に遊びに来るといった交流があったのですが、今は安全や騒音などの問題で距離が生まれ、『ものづくりのまち』というアイデンティティーが薄れてきている。それにより、ものづくりに携わる人も減っているのではないかという問題意識があり、堺市、八尾市、門真市、東大阪市などのものづくり企業が参画して、2020年にファクトリズムがスタートしたのです」
ファクトリズムのコンセプトは、「こうばはまちのエンターテイメント」。副題は、「アトツギたちの文化祭」だ。ファクトリズムは、住民や取引先に広く工場を見てもらうことで地域の理解を深め、工場のファンづくりを目指しているが、期間中どこで何を見せるかといったイベントの内容は事務局主導ではなく、それぞれの企業が文化祭のように楽しみながら自由に、自主的に考えて決める。オープンファクトリーを自分事として捉えてもらうためだ。
堺商工会議所は、22年度の「ファクトリズム」から「協力」という立場で参加している。同所は、これまでも産業観光という切り口で地元企業の支援を続けてきた。同所の広報・サービス課長の有馬洋一さんは、「私の個人的感覚かもしれませんが」と断った上で、「産業観光の場合、企業側は自社のためというよりも、地域貢献のために工場を開放する(観光資源を提供する)という感覚が強かったと思います。工場開放を通じて自社の強みを発信するという意識は残念ながら薄かったし、そういう仕組みもできていなかった。そこで当所としては、「ファクトリズム」と連携して、そのスキームとノウハウを活用させていただきながら、地元に詳しい商工会議所が畑を耕し、ものづくり企業が活性化する環境がつくれればいいと考えています」
そこで同所は、地元企業が「ファクトリズム」に参加しやすい環境をつくるため、22年に次の四つの支援を行った。
①4月7日に参加説明会開催=53社・団体71人が参加した
②ライター取材補助=参加企業が情報を的確・効果的に公式HPに掲載するためにライター取材費(1社当たり6.6万円)を補助。
③先輩企業視察実施=堺支部参加企業21社のうち13社が初参加であることから、ノウハウを学ぶ機会として、堺支部企業を対象とし た先輩企業2社の視察会を6月に実施
④マップ・ポスター制作=参加全60社の中で堺支部21社にビジターの注目を集め参加促進を図るため、マップ・ポスターを独自に制作。堺市各部局や各区役所、関係外郭機関、郵便局、日本政策金融公庫の配布協力を得て、全8万3000部を制作。中でもマップは堺市教育委員会を通じて堺市立小中学校全校児童・生徒に配布した。
このような同所の動きに堺市などの行政も呼応し、「後援」の立場以上の協力が得られたという。有馬さんは、「官と民の中間に位置する商工会議所が積極的に動いたことで、官も協力がしやすくなったのではないか」と話す。
工場見学が社員の意識を変え社内を活性化
「ファクトリズム」の開催により、さまざまな効果が表れた。例えば、参加した堺の企業間で生まれたプロジェクトの例では、170年以上の歴史を持つ老舗つぼ市製茶本舗がなんば店のリニューアルを機に企画した手ぬぐいエコバッグは、注染と呼ばれる染めの技法を使って染織加工を行っているナカニとのコラボで実現した「にじゆら」ブランドの限定品だ。
同所広報・サービス課係長の内藤麻紀子さんは、つぼ市製茶本舗とナカニのコラボ製品のように、「ファクトリズム」を通じて企業が出合い、新しい製品が生まれる素地ができたことを喜ぶ。
「堺の企業は中間部品の製造が多く、取引先からの発注を受けて製品をつくることが多かったのですが、地域の企業同士が出合うことによって、自社ブランドの製品を企画・開発・生産する機会が生まれました。堺のものづくり企業が発展を続けるために欠かせないことだと思います」
もう一つ、とても大きな収穫があったと、野村さんは語る。
「終了後、経営者に感想を聞くと、『社員の顔つきが変わった』など、(従業員の会社に対する理解が深まる)インナーブランディング的な効果が得られたという声が多く集まりました。職人さんにとっては当たり前の作業が一般の人にはかっこよく映る。それが工場見学を通じて伝わるので、イベントとは距離を置いていた人が、『あそこは整理しないと危ないですよ』と意見を言うようになったり、どんな質問にも答えられるように自分の受け持ち以外の工程を知ろうという姿勢に変わったりした。そこからコミュニケーションが生まれ、社内が活性化した例もあります」
その他にも、工場開放を機に、工場の騒音やトラックの出入りに関する苦情が和らぐこともある。なぜなら地域の人が、「この音はあの職人さんが部品を削っている音かもしれない」「このトラックはあの部品を積んでいるのだ」と理解を示し、騒音が生活音に変わっていくからだ。
企業同士の交流、新規取引、自社ブランディング、インナーブランディング、リクルーティング……オープンファクトリーの効果は数え切れない。同所は今後も「ファクトリズム」への協力を続けながら最適な支援策を打ち出し、地元企業の持続的発展を支えていく。
会社データ
堺商工会議所
所在地 : 大阪府堺市北区長曽根町130番地23
電話 : 072-258-5581
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!