戦争と平和は対比するものではあるが、二者択一の概念ではない。日本では、この両者が歴然と分かれた現象であるがごとき議論がよく見られる。だが国際情勢の実際、あるいはある国と対立する別の国との間に横たわる事情はもっと複雑である。すなわち戦争状態ではないが平和な状態でもないグレーゾーンが広いのが通例である
▼むろん戦争は絶対に避けねばなるまい。自ら仕掛けるのは憲法が禁じるが、巻き込まれるような事態をいかにして防ぐのか。それが昭和の戦争から学んだ教訓である
▼政府が言うように、確かに日本を取り巻く国際情勢は緊迫の度を増している。ロシアのウクライナ侵攻が、民主主義体制と専制主義体制とに世界を二分し、おのおののリーダーたる米中間の対立が一層あらわになった。皮膚感覚で平和が危うくなっているのを誰もが感じる昨今である
▼日本も予期せぬ戦争を回避するために政策を転換した。トランプが示したように、米国の大統領次第で米軍が駐留し続けるわけでない事情もある。国土と国民を守るためとはいえ、憲法を逸脱しかねない危うい政策転換にも見える。最新の兵器体系を目指すのはよいが、開戦前後のサイバー攻撃でミサイルなど高度な兵器システムは作動しなくなる。発電所などイン フラへのサイバー攻撃も開戦初動の定石である
▼ならば、日本が強化すべきなのはサイバー攻撃に対処しうる体制と、情報収集分析能力を備えた高度な人材育成であるだろう。情報戦、サイバー戦などハイブリッド戦争が普段から頻発しているのが現代の戦争の実態である。いまの自衛隊の サイバー部隊はあまねく国土と国民を守るのでなく、自衛隊自身の戦闘能力を守るものに過ぎない。
(コラムニスト・宇津井輝史)
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