国土交通省はICTの全面的な活用を建設現場に導入する取り組みを進めているが、建設業全体で見るとDXやIT化の意欲は低いといわれる。その中でDXを推進しなければ生き残れないという危機感を持つ会社もある。「全国中小企業クラウド実践大賞2022全国大会」で「クラウドサービス推進機構理事長賞」を受賞した総合建設業・後藤組である。
生き残りを懸けて取締役会でDX戦略を決議
総合建設業・後藤組は、代表取締役の後藤茂之さんが先頭に立ってDXを積極的に推進している。2021年12月の定時取締役会では「DX戦略」を決議した。その背景には、「2025年の崖※」が迫っていることに加え、「顧客や市場に関する膨大なデータを持つ企業がそのデータを活用し、既存産業に新たな付加価値をもたらして市場全体を席巻している」こと、「建設業の深刻な労働力不足により5年後、10年後には施工体制の確保が難しくなる」という後藤さんの危機感がある。この変化に対応し、同社が生き残っていくため、「DX戦略」ではDXにおける基本的な方針を掲げた。それはライバルに差をつけるため、
・デジタルツールの活用により既存ビジネスの生産性を改善する
・データ活用により新たな顧客価値を創造する
この2点を実現するため、全社的な取り組みとして六つをプロジェクトの柱に据えた。
①業務システムの全体最適化
②リアルタイム経営
③業務効率化
④組織体制の変革
⑤次世代型建設DXの推進
⑥内製的IT人材の創出
このうち、主に①と②における成果として発表したのが、「全国中小企業クラウド実践大賞2022全国大会」で「クラウドサービス推進機構理事長賞」を受賞した「中小企業が目指すデータドリブン経営」だ。
60年前からシステム導入データの非連携が課題
同社は、1962年に東北で初めて電算処理による建設業管理システムを導入した先進的な企業だ。その精神は引き継がれ、勤怠管理・原価管理・伝票管理などの自社専用のシステムを導入してきた。しかし当時はデータ連携の仕組みがなく、データの保存場所が分からない、データ同士が複雑に絡み合っていて利用できないという課題を抱えていた。また現場には、情報共有は電話、日報をはじめとする書類は手書きしてFAX送信というアナログな習慣が根強く残っていた。
後藤さんは、勘や経験などに頼るのではなく、収集・蓄積されたデータの分析結果に基づいて戦略・方針を決める業務プロセス「データドリブン経営」を目指し、社内業務のデジタル化を決断した。情報システム担当の笹原尚貴経営管理部課長に対し、「痛みを伴ってもいいから、システムをゼロベースで見直せ」という指示を出し、「クラウドをベースに、もっと身軽でスピード感のあるシステムに再構築すること」「データの蓄積・集約、データドリブンな組織に変革すること」という目標を示した。
データドリブン化の重点方針は、(a)クラウド型業務アプリ開発プラットフォームの「キントーン」による業務サービス作成、(b)データを集めて分析し、迅速な意思決定を助けるGoogleダッシュボード(一覧表示画面)の作成、(c)プログラミング言語Python(パイソン)によるデータ分析、(d)RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務自動化・データ収集だ。これらの導入効果として、(a)では、エクセルの書式を「キントーン」に置き換えたことで、それぞれの現場代理人に属していたノウハウがチームで共有できるようになったという。
しかし、経営トップが明確にDX推進を掲げても、現場がすぐに反応するとは限らない。そこで後藤さんは、「それを使わないと業務ができないというアプリから導入していきました。例えば稟議(りんぎ)書や日報ですね。紙の稟議書では受け付けてもらえないとなればアプリを使わざるを得ない」。実際に使ってみると、現場は日報を書くために帰社する必要がなくなるといったメリットを実感して、紙からデジタルに置き換わっていった。
同時にDXの社内勉強会、チーム対抗の全社行事・データドリブン大会、報奨金付きの社内資格制度といったスキルアップを支援する仕組みを導入した。
「DXの推進には、DXを理解できる人材の起用が重要になる」と後藤さん。「かといってコンピュータサイエンスを学んだ人材を採用できるかというとそれは難しい。社内で適性を持った人材を見つけて育成するしかありません」
後藤さんが目指すデータドリブン経営は「部門によりまだ濃淡がある」ものの、確実に"濃"が増えている。「2025年の崖」は同社の脅威にはならないだろう。
※経済産業省が2018年の「DXレポート」の中で示した言葉。既存システムが複雑化・ブラックボックス化しているという課題を克服できない場合、DXが実現できず、25年以降、最大年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告した。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・60年前から開発した自社システムに社員が便利になるようにとさまざまな機能を付け足した。その結果、データが分散、データ連携も難しかった
導入したITシステム
・クラウドサービスの「キントーン」でアプリをつくり、勤怠、経費精算、原価などを管理
・必要なアプリは個々の社員がつくる
・作画ソフトなど業務特化アプリは従来通りオンプレミス(自社で保有し運用する)
・データはDWH(データウェアハウス)に集約。DWHはさまざまなシステムからデータを集めて整理する「倉庫」
IT化後の状況
・クラウド利用は2019年から
・21年5月期と比べて22年5月期は総残業時間20%減、営業利益44%増
会社データ
社名 : 株式会社後藤組
所在地 : 山形県米沢市丸の内二丁目2番27号
電話 : 0238-23-3210
HP : https://www.gto-con.co.jp/
代表者 : 後藤茂之 代表取締役
従業員 : 150人
【米沢商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
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