家具のまちとして有名な福岡県大川市にある家具メーカー、モーブル。1986年に創業し、2012年、二代目として創業者の息子である坂田道亮(みちあき)さんが継いで現在に至る。創業以来の売り上げダウンや価格競争を脱し、新ブランドの創出と新市場の開拓で業績を上げる。
「とりあえず3年」から始まった家業入り
阿蘇山から有明海へと注ぐ筑後川。その河口にある福岡県大川市は、木材の集積所、海上交通の要衝として栄え、国内有数の家具産地として古くから発展してきた。家具づくりのインフラが整い、協同組合に百数十社が加盟するこの地で、1986年創業のモーブルはかなりの"若手"だ。
「創業者である父(現会長・重行さん)は元銀行マンで、結婚後に母の父が経営していたモリタインテリア工業の総務・経理を担当していました。その後、一部の工場とともに分離独立して立ち上げたのがモーブルです。私が中学1年生の頃で、まだ景気のいい時代で業績も右肩上がりだったようです。私も家業に全く興味がなかったわけではありません」
しかし、若者には刺激がないまちだったと振り返る、二代目で代表取締役の坂田道亮さん。高校進学も福岡市を選び、早々に大川を飛び出したという。
「いつかは戻って継ぐことになるだろうなとは思っていました。大学時代はバックパッカーで東南アジアやインドを巡り、バイトをしてはよく旅に出ていました」
旅行代理店への就職を考え、入社前に研修という形でアルバイトをするものの、「稼げない」「性に合わない」と判断し、その後の就職活動ものらりくらりだったという。父が声を掛けてきたのはそのころだ。
「『継ぐか継がないかは別として、3年うちで働かないか』と言ってきました。いつかはやらねばとは感じていたこともあり、とりあえずという、なんとも気乗りしない状態で承諾しました」
だが、一度入社すると周囲からは「社長の息子」として見られる。一部の従業員からは冷遇されるなど、決して歓迎ムードではない。
「年齢と実績を重ねて、結果を見せていくしかないと思いました」
製造工場で1年、事務・営業で数年経験を積み、入社3年目には社長室の室長に選任される。気付くと、とりあえずの3年は過ぎていた。
特許技術で水洗いできるマットレスを開発
「社長直々に財務全般の知識をたたき込まれました。文系の私が経営上の数字を読めるようになったのは父のおかげです」と坂田さん。
副社長を経て2012年、36歳で二代目に就任する。だが翌年、創業始まって以来の売り上げ20%ダウンを経験する。これは家電エコポイント制度の終了と、地上デジタル放送化によるテレビの買い替え需要が落ち着いた時期と重なっていた。
「特需でテレビ台が飛ぶように売れ、その後、急落することは分かっていました。無策だった私の責任です。社内外から批判され、辞める人も現れて、ようやく目が覚めました」
社長と副社長では99対1ほどの責任の重さ、決断の覚悟が違うと語る坂田さん。第2の創業のつもりで優れた経営者に会い、名著を読み、貪欲に会社経営を学んでいった。
「そこで出会ったのが『家業を継いでも事業は継ぐな』という言葉でした」(坂田さん)
そして、新規事業に乗り出す。着目したのは、ポリエチレンを網状に立体成型したマットレスコア材「ライトウェーブ」だ。特許を有する企業と国内唯一の正規ライセンスを締結し、水洗いできるマットレスブランド「リテリー」を立ち上げる。13年には製造工場を建設し、急ピッチで巻き返しを図った。
目指すは唯一無二の競争しないものづくり
「当時はOEM製品とあわせて、自社ブランド『モーブル』のテレビ台や食器棚が主力商品でした。マットレスなら一家に一台ではなく家族分だけ需要があります。新しい人材を採用するなどして開発を進め、私も率先して異業種に営業をかけました。それでも初年度は鳴かず飛ばず。参りました」
家具のまち・大川の知名度も、都市部に行くほど弱まる。特に東京との距離の遠さを痛感し、18年に東京ショールーム開設に踏み切る。
「時代のニーズ、ライフスタイルに合ったものづくりを追求するため、自社商品を全て見直した。同時に過度に多かったバリエーションや機能性を減らし、無駄な作業工程を省いて生産性を上げることにも注力します。『新しい快適をつくる。』をコーポレートスローガンに、木製家具とライトウェーブを製造できる唯一の企業という強みを生かしたソファの開発など競わないものづくりへの転換です」
会長になった先代は気が気でなかったかもしれない、と苦笑する坂田さん。だが、「最悪ゼロベースでもいいから」と背中を押されたとも言う。売り上げ低迷も5年ほどで止まり、ホテルでの採用や異業種との協業開発、非食用米を活用したバイオマスプラスチック仕様の「ライスウェーブ」の開発など、新機軸を次々と打ち出し、今期は年商15億円となった。
「従業員が公私共に充実することで、お客さまに喜びや感動を与えるものづくりができると気付きました。100年後、モーブルは家具ではなく違う何かをつくっているのかもしれません。しかし、持続可能な世界のために役立つ企業であり続けたいです」と坂田さんは力強く語った。
会社データ
社名 : 株式会社モーブル
所在地 : 福岡県大川市中古賀956-1
電話 : 0944-88-1955
HP : https://www.meuble.co.jp/
代表者 : 坂田道亮 代表取締役
従業員 : 65人
【大川商工会議所】
※月刊石垣2023年4月号に掲載された記事です。
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