斬新な発想を持ち、新分野へ挑み、グローバルに活躍するスタートアップ企業に大きな期待が集まっている。特集では、スタートアップの最前線に迫るとともに、スタートアップを生み育むエコシステムの創出に向けた取り組みを追った。
京都、大阪、神戸の3商工会議所が連携し、2021年度からスタートアップ企業の支援事業を本格的に展開している。情報を共有し、各都市のイベントや企業間マッチングに"越境"して参画できるなど支援メニューの相互活用で、若手起業家やスタートアップ企業の事業展開支援につなげている。各都市の強みを生かしたスタートアップ・エコシステムの形成が進む。
"越境"により活躍の場交流の輪を広げる
京都・大阪・神戸の3商工会議所連携のきっかけは、2019年6月、内閣府が掲げた「世界と伍(ご)するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」にある。翌年の20年に「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」がグローバル拠点都市に選定され、商工会議所においても21年度よりスタートアップ連携支援事業が本格化した。
各商工会議所でも、スタートアップ・エコシステムの構築が進む。地域を越えて連携することで、各地域を拠点とするスタートアップ企業の販路拡大・事業展開を支援するだけでなく、スタートアップ企業の技術を活用した各地域の既存企業の生産性向上なども狙う。
「京セラ、オムロン、村田製作所、ニデックなど電子部品メーカーがこぞって創業した第一期ベンチャーブームの後、京都ではベンチャー企業があまり育ってきていません。そこで、100年後の京都経済を担う企業を発掘・育成するため、スタートアップ支援に注力することになりました 」 そう語るのは京都商工会議所の特別プロジェクト推進室の佐々木暁一さんだ。20年度からスタートしたK-CAP(京都・知恵アントレプレナー支援プログラム)では①事業プレゼン会「京商イブニングピッチ」、②先輩起業家との交流会「起業家ひざづめ交流会」、③先輩起業家の経験を通して1年間学ぶアクセラレータープログラム「KYOTO INNOVATION BASE」、さらに22年度から「京都・知恵アントレ大賞」を実施。京都の優秀なスタートアップ企業の社会実装を地元グローバル企業などがサポートする機会を創出している。
京商イブニングピッチは23年3月までに13回を数え、そのうち複数回にわたり大阪・神戸のスタートアップ企業も登壇。京阪神の連携事業が組み込まれている形だ。
京阪神から全国へスタートアップの事業展開を支援
「最近はSaaS(インターネットを通してシステムやアプリケーションを提供するサービス)系のビジネスモデルやソーシャルイノベーションに取り組む起業家が増えてきており、大阪だけでなく全国への事業展開を希望するスタートアップ企業も多いです」
そう説明するのは大阪商工会議所産業部の浅田圭佑さんだ。18年には大阪工業大学と共に都心型オープンイノベーション拠点「Xport」を開設し、オープンイノベーション促進の仕組みづくりを進めてきた。22年には高い加工技術やノウハウを持つ大阪の中小ものづくり企業とスタートアップ企業をマッチングし、新規事業開発を目指す「町工場×スタートアップ コネクト」も立ち上げている。
地域の特色を生かした取り組みの実績と、京阪神連携強化のリソースを生かして、今、注力しているのが、商工会議所のネットワークを活用したスタートアップ企業の他地域への事業展開支援だ。22年度には東京、名古屋、福岡の商工会議所や支援機関と連携してスタートアップ販路拡大支援プログラム「COLUMBUS」を展開。各地域の中小企業とのビジネスマッチングを図り、23年度には札幌、仙台、広島などの地域にも同様のスキームを広げる。
「昨年、京阪神連携で大学発スタートアップ アクセラレートプログラム『U-START UP KANSAI』を開催し、全国からエントリーがありました。25年の大阪・関西万博を契機に、全国のスタートアップがビジネスチャンスを求めて大阪・関西に集う機運も醸成していきたいです」と意気込む。
協業ニーズや活動拠点のチャンスが増加
京阪神の強みはバイオやヘルスケア、ライフサイエンス、ものづくり、情報通信分野だが、特に神戸は医療産業都市として注目されている。
「『ひょうご神戸スタートアップ・エコシステムコンソーシアム』において神戸商工会議所では、ライフサイエンスの領域を中心にスターアップ企業の育成・支援に努めてきました。ピッチイベントの開催や地元企業との懇談会、試作品のテスト利用の促進、オープンイノベーションの推進などさまざまな活動を実践しています」と語るのは神戸商工会議所産業部の竹下竜介さん。管内にスタートアップの活動拠点が続々と誕生しており、SDGsや脱炭素、遠隔医療の課題解決など地域を担うスタートアップ企業の新事業、新ビジネスは多彩かつ勢いがあるという。
「地元企業との協業や連携だけでは限りがあります。京阪神の連携で、京都の食用コオロギの研究開発を進めるベンチャー企業が、兵庫の廃校を活用してコオロギ飼育を始めるなど、県境を越えた新たな展開が広がっています」(竹下さん)
地域の枠を越えた連携を通して、世界に伍するエコシステムとして、着々と精度を上げつつある。
会社データ
商工会議所名 : 京都商工会議所
所在地 : 京都市下京区四条通室町東入 京都経済センター
電話 : 075-341-9755
HP : https://www.kyo.or.jp/kyoto/
商工会議所名 : 大阪商工会議所
所在地 : 大阪市中央区本町橋2-8
電話 : 06-6944-6300
HP : https://www.osaka.cci.or.jp/
商工会議所名 : 神戸商工会議所
所在地 : 兵庫県神戸市中央区港島中町6-1
電話 : 078-303-5806
HP : https://www.kobe-cci.or.jp/
※月刊石垣2023年5月号に掲載された記事です。
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