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テーマ別誌上セミナー 地方企業でもできる「越境EC」 という次の一手

越境ECの最大のメリットは、現地の代理店や小売店を介さないので、地方の企業でも比較的安価に海外展開できることだ。しかし、安易に手を出すとトラブルや赤字を出してしまうこともある。自らも越境ECを実践している専門家に越境ECを始めるための準備と注意点を解説してもらった。

*EC(電子商取引)とは、自社の商品やサービスをインターネット上のウェブサイトで販売すること。

村田 光俊

プリンシプル代表

村田 光俊(むらた・みつとし) プリンシプル代表 前職の船井総研時代にはECとWEB集客のコンサルティングに従事。神戸拠点の株式会社プリンシプルを2013年に創業し、フリースピリッツというメンズの革小物とかばんを中心としたセレクトショップを国内ECサイト、実店舗(神戸に2店舗)、越境ECの三本柱として立ち上げる。また実業とコンサルティングの両方ができる「実務型コンサルティング」を展開する

海外の消費者に通信販売でモノを売る越境EC(電子商取引)を活用すると、対象国に現地法人や事務所・店舗を開設したり、大規模な設備投資したりしなくても、国内の拠点からインターネットを通じて海外の消費者に商品を販売できるようになる。そこで、越境ECの経験が豊富でコンサルタントやセミナー講師としても活躍している、プリンシプル代表の村田光俊さんにビジネスのコツと注意点を聞いた。

中国向け越境EC市場は「爆買い」需要よりも大きい

越境EC、つまり海外消費者向けネット通販の対象国としてまず浮かぶのは、人口約13億8000万人の中国だろう。経済産業省による平成28年度「電子商取引に関する市場調査」によると、インターネット普及率はまだ約5割に過ぎず、8割を超える日本や米国には及ばないが、インターネット人口は7億2000万人を超える。しかも、日本のネットショップから中国の消費者が購入した商品の金額(28年)は、1兆366億円(前年比30・3%)に及ぶ。米国の6156億円(同14・4%)に比べても金額・伸び率ともに中国の方がはるかに大きい。中国人観光客の「爆買い」金額7832億円(買い物代のみ。観光庁「平成28年訪日外国人消費動向調査」)だから、中国の消費者向けの商売は越境ECの方が売れる可能性が高いといえるかもしれない。

とはいえ爆買い目当てであれば、自社の店舗に中国人観光客を呼び込めばそれでいいが、越境ECでは、いくつかのステップを踏む必要がある。ビジネスを立ち上げるための要点について、中小企業庁は次の5つを挙げている。

①事業環境の調査 ②販売サイトの立ち上げ ③広告などのプロモーション ④決済環境の整備 ⑤配送業者の選定

この中で何が最も重要なのか。村田さんは「セミナーでは言葉、関税、決済、配送に関する質問が目立ちますが、それらは優先事項ではない」という。

「最も重要なのは、現地の消費者の気持ちになりきることです。それはどのような商品を、どのくらいの価格帯で欲しいと思っているのかということ。自社で製造したり仕入れたりした商品を売りたいという気持ちは分かりますが、その気持ちが現地の人の気持ちとズレていることが多いのです」

先のステップにならえば、④や⑤は後回しでよく、まずは、①を徹底的に実施するということだ。

「自社で製造している商品にぴたりと合う国があればいいのですが、通常は商品企画から考える必要があるでしょう。例えば経済が急成長しているアジアの国々を対象とするのであれば、国内向け商品よりも性能を落としてでも価格を下げた方がいい。日本の高度成長期を思い出してください。あのころの消費者は高くていいものではなくて、そこそこの品質でも手が届く値段の物が欲しかったはず。今、国内でブランド品や高品質な品が売れているのは、経済が成熟期を迎えているからです」 そこでまずは相手国の経済のライフサイクルを念頭に置いて事業環境を調査し、商品を企画すべきだと、村田さんはアドバイスする。

ここで外せないポイントは「その国に顕在化したニーズがある」こと。ニーズの顕在化前に他社に先んじて商品を投入すれば市場を独占できると考えがちだが、ニーズが顕在化しなければ、ネット通販の場合はGoogleのような検索エンジンで商品の検索がなされず、商品を探してもらう機会すら与えられない。顕在化したニーズの有無は、Googleのような検索エンジンの検索キーワード数を調べれば、おおよその見当が付く。

②販売サイトの立ち上げでは2つの選択肢がある。自社で独自ドメイン(自社だけのインターネット上の住所)のECサイトを立ち上げるか、ショッピングモール(国内で言えば楽天のようなモール)に出店するかだ。

「自社サイトでやりたいという相談を受けますが、独自サイトが成功する条件は信用です。日本ではある程度知られた存在でも、海外の消費者はまず知らない。制約や手数料が掛かりますが、モール出店のほうがいいでしょう」

①の販売商品を決めて、②をモール出店と決めれば、④と⑤はほぼ自動的に決まる。通常はモールが指定する決済業者や配送業者と契約することになるからだ。

勝てる商品・場所・対象で丁寧な対応を心掛ける

再び①に戻ろう。越境EC進出を決めたらまずやるべきことは勝てる商品・勝てる場所・勝てる対象を決めることだ。

「『商品』は現地の消費者の視点で企画する。『場所』は市場の大きいところを目指したくなりますが、その分、競争が激しくなります。市場の大きい中国は、調べれば調べるほどライバルが多く、勝算が低いことが理解できるでしょう。『対象』として富裕層を狙いたいという声をよく聞きますが、富裕層に属する人がパソコンやスマートフォンで商品を検索して、ECサイトを見つけて、オーダーを出すでしょうか。日本の富裕層の行動を想像すればネット通販向きの層ではないことが分かります」

もちろん村田さんは、中小企業や小規模な商店が越境ECに挑戦することを否定しているわけではない。

「中小企業や商店の地域密着の姿勢はすばらしい。商店であれば地域の人が何を欲しがっているのかをきちんと把握している。お客さまの家族構成まで頭に入っていて、適切な時期に適切な商品を勧めています。そうした丁寧な販売姿勢を越境ECに取り入れることが大切なのですが、海外消費者に対してはなぜか自分が売りたい物を誰彼構わず売ろうとして失敗するのです」

村田さんの指南は、自身の失敗の経験に基づく貴重で実践的なアドバイスだ。

「当社でも中国を対象とした越境ECを手掛けたことがあります。商品・場所・対象は理解していたのですが、そこに期待が入り込んでいて、何となくうまくいきそうに思えた。結果は失敗でした」

そこで1年ほどのリサーチ期間を設けた。現地の人に話を聞き、情報メディアが扱うデータ、ライバルの存在などを調べ上げて、再挑戦の国をタイに決めた。

販売サイトの見せ方は国によって異なる。現地の人に好まれる色、敬遠される色があるし、商品解説文に使う文字にしても、日本語に明朝体やゴシック体があるように、海外にもいろいろなフォント(書体)があり、受け止められ方が違う。村田さんがタイ向けサイトやツールをつくるとき、タイ語に何種類ものフォントがあることに改めて驚き、タイ人のデザイナーに教えを請うた。

「どの場所にどのフォントを使えばいいのか、日本では文字を小さくして余白を目立たせると高級感が出てきますが、その感覚はタイ人も同じなのかというようなことを聞きました。色もそう。赤は中国では好まれますが、タイでは良い印象をもたれないそうです。説明文では、財布の場合、日本ならコンパクトなサイズの中に機能が詰まっていることをアピールしますが、タイではどっしりと大きくて良質な革をたくさん使っていることを訴えた方がいいと言われました。ライバル社の販売手法を研究することも勉強になりました」

1000万円の投資を覚悟しエース級人材を投入する

③のプロモーションに関するテクニックはいろいろあるが、その前に「根本の価値」を明確にすることが重要だ。「自社、お客さま、競合他社を想定し、お客さまが欲していて、競合他社が提供できず、自社が提供できる価値が『根本の価値』です」。それを明確にできれば、広告やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス )などを通じて根本の価値を発信すればよい。国内の顧客から高い評価を受けている企業や商店であれば、無意識のうちに根本の価値を顧客に提供し、顧客もそれを受け止めているはずだ。海外の顧客には「あうんの呼吸」や「以心伝心」が通用しないので、明確にする必要がある。

越境ECに進出するためには、どのくらいの初期投資が必要になるのか。

「実は10万円程度でもできるのですが、費用について質問されれば1000万円と答えています。実際に1000万円かかるかどうかは別にして、世界に打って出るのだから、国内で店舗を構えるくらいの投資の覚悟が求められるということです」

さらに専属担当者には社内のエースを充てて、商品企画や販売戦略の策定に全力を挙げるべきだ。 「社員の片手間仕事では絶対に成功しないし、軌道に乗ってからエースを投入しようという考えでもうまくいきません」

見えない海外消費者と競合他社を相手にする越境ECは、経営者が本気になって取り組まなければ成功はおぼつかない。

村田さんが代表を務めるプリンシプルでは国内の通信販売サイトも運営しており、顧客の評価も高い。それなのになぜ越境ECに再挑戦するのか。海外に向けたリソースを国内に戻せば、もっと国内販売が増えるはずだが……。

「確かにそうなのですが、プリンシプルのミッションは、『働く』を『楽しく』、『働く男』を『かっこよく』です。それを実現するためには社員やお客さまの未来が明るくなくてはならない。海外の成長市場での販売に成功すれば、自分たちの未来は明るいと思ってもらえ、ひいては経済も活性化するでしょう。その先駆的役割を私たちが果たせる位置にいるのだから『やろう』ということです」

越境ECはハードルが高い事業ではない。経営者が志を持ち、主導して、「お客さまのために」という原点に戻った商品を企画することができれば、その他のハードルは比較的容易に乗り越えられる。成功の鍵は経営者が握っている。

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