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テーマ別誌上セミナー 何ができる?どうすれば成功する? AI入門講座

昨今、AI(人工知能)が大きな話題となっている。すでに将棋をはじめとするゲームの世界ではAIの利活用が目覚しい。しかし、ビジネスの世界では何が変わるのか? 何ができるのか?特に中小企業ではどんな変化が起きようとしているのか。

城塚 音也

NTTデータ先端技術 エバンジェリスト、NTTデータ エグゼクティブR&Dスペシャリスト、名古屋大学非常勤講師・米国SRI Internationalインターナショナルフェロー

城塚 音也(しろつか・おとや) NTTデータ先端技術 エバンジェリスト NTTデータ エグゼクティブR&Dスペシャリスト 名古屋大学非常勤講師・米国SRI Internationalインターナショナルフェロー 昭和63年東京大学文学部言語学科卒業。同年日本電信電話へ入社。平成元年からNTTデータ通信(現NTTデータ)で音声対話システムやテキストマイニングなどのAI技術の研究開発に従事する。米国スタンフォード研究所客員研究員なども歴任。29年より現職。著書に『決定版AI 人工知能』(東洋経済新報社:NTTデータ樋口晋也氏と共著)がある

AI(人工知能)の導入により、産業界は業務効率・生産性向上と新規業務・事業創出という恩恵を受けるとされる。しかし一方で誤ったやり方でAI導入を進めると、中小企業にとって致命傷となる危険性をはらんでいる。日本最大の情報サービス事業会社でAIの研究開発を指導してきた城塚音也さんにAI導入の現状、中小企業に対する影響や導入する場合の方法などを聞いた。

Q1

まず、AIとはなんですか。

A

機械により人間の知的活動を再現したものと考えてください。ディープラーニングと呼ばれる脳の神経細胞にヒントを得た機械学習技術が注目されていますが、機械学習だけがAIではなく、その他多数存在するアルゴリズム(計算方法)の総称がAIです。AIを実現するためにはハード(コンピューター)、アルゴリズム、データの3要素が不可欠です。

Q2

現在、AIはどのようなところで利用されているのですか。

A

それを「領域」として捉えると、フロントオフィス領域、ミドル・バックオフィス領域、社会基盤領域が代表的です。 フロントオフィス領域とは対人サービスの部分のことで、接客や顧客サービスにAIを導入し、これまで人が担当していた応対やサービスをAIに置き換えたり、人の仕事のサポートにAIを活用する例が増えています。金融機関の顧客に投資のアドバイスを行うロボアドバイザー、顧客の注文を受けたり、顧客の相談に乗ったりするチャットボット(Chatbot※1)などです。話題になっている音声でリモート操作ができるスマートスピーカーの「アマゾンエコー(Amazon Echo)」などもそうです。 ミドル・バックオフィス領域は、事務業務や専門家のデスクワークの領域です。例えば銀行における融資の審査のような専門性のある業務や医師の診断サポートなどに使われています。社会基盤領域では、社会インフラの中にAIが組み込まれていくでしょう。AIが道路、送電網、水道などのインフラを最適に制御することにより、スマートシティ(環境配慮型都市)が実現します。

Q3

最近話題のあらゆるモノがネットでつながるIoTとAIの違いは何ですか。

A

社会基盤領域の例で解説すると、社会基盤においてはAIを入れただけでは何もできません。社会で発生する大量の情報が必要なのです。送電の分野では、家庭、店舗、工場などに設置されたIoT機器によって電力消費の情報を収集し、AIが「このエリアの電力が不足しそうだから、余っているエリアの分を回そう」と判断して停電を未然に防ぐというスマートグリッド(次世代送電網)に生かせるでしょう。また道路上の車の流れをIoTによって把握し、渋滞が最も少なくなるようにAIが信号機の点灯時間を制御することで、車に乗っている時間もガソリンの消費も減らすことができます。これはIoTとAIが連携するからできることで、人間ではできません。全ての交差点に監視員を配置することは現実的ではないし、仮に配置できても電話で状況を伝えて信号機を調整することは不可能です。

Q4

人間とAIの違いはどんなところにあるのですか。

A

人間とAIの違いを比較した図(31頁)を見てください。人間は一度教えれば覚えますが、AIは大量の学習データが必要になるので何回も教えないと覚えてくれません。

人間は大量の情報を覚えることができませんが、AIは覚えられるし、覚えれば忘れにくいという特徴があります。また人間は長時間働くと疲れますが、AIは24時間365日働くことができます。AIの判断スピードは速く、例えば株取引であればミリセカンド(1000分の1秒)単位の時間で売買の判断ができます。

その一方でAIは人の気持ちを理解することが難しいし、教えたこと以外の判断ができません。未体験の出来事を「常識で判断する」ことは無理なのです。

AIはコピーができるので、労働集約的な事業には向いています。そのような事業を拡大するためには人員を増やさなければなりませんが、AIに置き換えればコピーを増やすだけで済み、人件費がかさむことがありません。

例を挙げましょう。自家用車に乗客を有料で乗せるライドシェア(相乗り)の米大手・ウーバーテクノロジーズは、車の保有者と乗客をマッチングさせるビジネスを行っています。人を雇って、顧客の要望をマッチングさせるビジネスだったら、人の確保が問題となってしまいますが、AIにより完全に自動的にマッチングさせることができることで急成長し、ユニコーン企業(評価額10億ドルを超える非上場企業)になれたのです。

Q5

将来、AIに仕事を奪われるようになりますか。

A

そういう時代は来るでしょう。ITの登場により多くの人の業務がITに置き換えられました。しかし、中には置き換えることのできない業務がありました。文章を読んで理解する、人間と会話をする、専門家の知識による判断といったものです。ところが、AIの登場で、それらも置き換えることができそうな状況です。一例を挙げればメガバンクは行員の仕事をAIに置き換え、行員を削減する(※2)と発表しています。

「日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能やロボットなどにより代替できるようになる可能性が高い」という推計(※3)があります。それが正しいかどうかは分かりません。専門性の高く良質なデータがそろっている医師の診断という仕事をAIに置き換えることは不可能ではありませんが、医師は病気だけをみて治療方針を決めているわけではありません。患者の気持ち・価値観まで含めた総合的な判断により治療方針を決めたりアドバイスをしたりします。AIが苦手なコミュニケーション能力、共感能力を使っています。

AIに置き換えやすい業務に携わっている人は職を失う可能性がありますが、半分の仕事が置き換えられてしまうのかという点には懐疑的です。ここ数年は、AIに置き換わるというよりはAIのサポートを受けて業務が効率化される方向だと思います。

手厚いサービスを求める日本の顧客は、きめ細やかな対応ができないAIでは満足しないでしょう。ただ手厚いサービスは不要、価格さえ安ければよいという人が増えてくれば、置き換えが早く進むかもしれません。

Q6

中小企業にとってAIは敵となるのでしょうか。

A

AIを敵か味方かで区別するとすれば味方です。ある中小企業が「ルート営業中心で新規顧客の発掘ができていない」という悩みを持っているとします。「接客ロボットやバーチャル営業マンが、モノを売ってくれる時代はまだ先の話」ですが、「AIによる営業力強化」(営業ナレッジの見える化、営業ターゲット設定)ならできるでしょう。営業力強化を実現するソリューションのSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)にAIが入ることで、新人でも熟練営業マン的な振る舞いができるようAIがサポートしてくれるようになるでしょう。「人手不足、中途採用が多くノウハウ継承が困難という課題」であれば、工場に協働型ロボットを入れて、熟練労働者の動きをコピーさせてノウハウを継承する。

コールセンターでは、ベテランの会話を分析してセールストークのナレッジを「見える化」させて新人に受け継ぐことができるはずです。

チャットボットやRPA(ロボットによる業務自動化)は中小企業の人手不足を補う手段になるでしょう。RPAはパソコンを使った人手による(コピー&ペーストのような)定型作業を自動化する技術で、AIを入れることでかなりの事務業務が自動化できそうです。

Q7

中小企業でもAIを導入できるのでしょうか。

A

大企業でもAIを活用できる人材が少ないのが実情です。中小企業が一からAIを構築することは費用の面も含めてかなり難しいと言わざるを得ません。

簡単な方法は、AIが組み込まれているソリューションを購入することです。例えば私の会社ではAIを使ったメールによる問い合わせ対応ソリューションを販売しています。このソリューションは、AIがメールの内容を理解して、FAQ(よくある質問とその回答)の中から該当するものを抽出し、自動的に回答メールをつくってくれます。これがあれば大幅に顧客対応の効率化が実現します。

AIを利用する知識があれば、無料で公開されているAIを使う方法もあります。ある個人農家は、グーグルのディープラーニングTensorFlow(テンソルフロー)を使い、キュウリの自動選別機をつくりました。人がキュウリの大きさや形を見て9等級に選別していた作業をAIにやらせたのです。AIの3要素のうち、アルゴリズムは無料のものを使い、AIを動かすハードも普通のPCです。ただデータに関しては、AIに学習させるため、等級別に分類した7000枚のキュウリの画像を用意する必要がありました。

AIのアルゴリズムを理解できていなくても、AIの作成ツールの使い方を学んで、学習データを用意すればAIはつくれます。完全にAIを理解している専門要員は必要ありません。

Q8

AIの導入に失敗しないためには何に気を付ければよいですか。

A

失敗しがちなのは、とりあえずAIを入れる、というように目的を持たないケースです。何が課題なのか、AIを使ってどう課題を解決したいのかを明確にすることが必要です。

大企業でもトップから「うちもAIを導入せよ」と指示されて、現場が「とりあえず入れたい」とAIベンダーに相談するケースは多々あります。こうしたケースでは、しばしばAIの導入は失敗します。またAIの導入計画が明らかになると、仕事を奪われる現場がナーバスになって必要なデータが収集できないこともあります。費用がかかった割にAIの効果が薄いことも珍しくありません。

要は適材適所なのです。1年に1回しか発生しない仕事に多額の費用をかけてAIを導入する必要があるでしょうか。明確なルールのある作業はAIではなくて、ITによる自動化や業務プロセスの見直しで間に合うと思います。明確なルールがなく「なんとなくこんな感じ」という人間の暗黙ナレッジを使っている作業にはAIが向いています。

Q9

AIの導入費用を抑える方法はありますか。

A

自分でAIをつくらない方法として、自社が保有するデータをAIベンダーに提供し、交換条件としてAIシステムを作成してもらうということが考えられます。

AIの3要素のうちハードウエアは安く買えるし、アルゴリズムは無料で使えるものもあります。しかし簡単に手に入らないのはデータです。もし、中小企業が貴重なデータを大量に保有しているのであれば、それが「お金」になるからです。

Q10

貴重なデータを提供してしまうと他社に使われてしまいませんか。

A

他社が利用した場合、利用料を徴収する契約にすればよいのです。AIベンダーの中には販売を代行してくれるところもあります。そうしたエコシステム(ビジネスの生態系)の中に入れば、気軽にAIを使ったサービスを始められる可能性があります。キュウリの画像のように、社内にある有効なデータを発掘して整理する能力と、キュウリの選別をAIでやらせるという発想力がある会社なら、チャレンジする価値があります。

Q11

今後、AIを使わないと生き残ることができませんか。

A

AIに置き換えることができる業界の仕事は、AIの導入が進むにつれて減っていくでしょう。その業界を活動の場としている企業は、ビジネスをシフトさせる必要があると考えられます。AIが不得意な対人スキルや創造性を発揮させるビジネスなどがシフト先となります。

例えば顧客企業のコア業務以外の一連の業務を受託するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)企業は、顧客がAIを導入すると仕事を失うかもしれません。しかし、その前に自らがAIを導入してBPOを低コストで提供すれば競争力が高まり、仕事を失うどころか、より多くの仕事を受注できるでしょう。反対にAIと補完関係にあるビジネスへ転換するという方法もあります。学習データを作成するビジネスやAIで作成した作品をカスタマイズ(AIに作成させた作品を人間が売れる形に変更)するビジネスなどが考えられます。

将来的には、AIにより創出される新しい仕事に従事する人が増えていくでしょう。

※1 文字を入力して会話を交わす「チャット」とロボットの「ボット」を掛け合わせた言葉。顧客の質問に対し、 AIが受け答えをする。

※2 みずほフィナンシャルグループ(FG)は平成29年11月13日、AIを活用して単純な事務処理などの作業を削減するといった構造改革計画を発表した。

※3 野村総合研究所と英オックスフォード大学のマイケルA・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究による、国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボットなどで代替される確率を試算した。

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