事例2 間接的な人員を増やさず多品種・少量生産の注文に対応
飯山精器(長野県中野市)
長野県中野市の飯山精器は、切削部品加工を主な業務とする削りのスペシャリスト企業だ。同社が生産管理システム「is-PRO」とIoTを活用した「is-LOOK」を自社開発した背景には、中堅メーカーからの多品種・少量生産の注文が増えたことがある。見積件数の増加と回答の迅速化、短納期という要望に応えるためには自社開発しか道がなかった。
頻発する見積もりや問い合わせをICTで解決
大手取引先が撤退して大量品の仕事は減ったものの、中堅メーカーからの発注が増えて、仕事自体は十分に確保できていると社長の寺坂唯史さんは言う。
「ただ、その仕事は多品種少量生産のため、段取り替えに時間がかかるだけでなく、見積もりを出す回数や問い合わせに答える機会がとても多くなった。間接要員を増やさなければ仕事が回らなくなっていたのですが、将来を見据えると、むやみに人を増やすより、ICT投資により合理化を目指すべきだと判断しました」
過去には生産管理システムをパッケージで導入したこともあったが、自社の生産工程には合わず、十分に使いこなせていなかった。そこで自社開発を決め、中小企業庁の「ものづくり補助金」を利用し、3年以上の時間をかけて、部品加工業に特化した中小企業のための生産管理システム「is-PRO」を完成させた。
「まずはお客さまからの納期の問い合わせに対し、担当がすぐに答えられる進捗(しんちょく)管理システムを、次に在庫管理を目指しました。大量生産時代に比べて在庫が何十倍にも増えたため管理が徹底できず、在庫があるのに新たに材料を発注するといった無駄が生じることがありました」
「is-PRO ERP3」に発展したシステムは、受注・出荷から生産進捗管理、売り上げ・請求、仕入れ・買い掛け管理まで主な業務をカバーしている。
「例えば見積もり機能では材料費、加工費、工程納期を自動計算し、過去の類似の見積もりを流用できるため、すぐにお客さまに提出できます。受注が決まれば、材料手配や現場への指示表が出る。以前はPCがある場所まで出向いていた進捗管理は、作業者がiPadminiを使い現場でできるようになりました」
入力効率向上のため、バーコード、QRコードを活用している。作業者がQRコードを読むと工程表が画面に出るので、自分の工程の部分をタッチして作業開始。作業が完了し再びタッチすると、その時刻、良品数、不良品数などが記録されて、管理用PCにも反映される。リアルタイムで進捗管理ができるわけだ。不良品を出さない工夫として、過去トラと呼ばれる過去トラブル管理機能がある。同じような工程で過去に発生した異常やクレームを作業者が一読することで、トラブルの再発防止になる。トレーサビリティー機能により素材の追跡ができるようになり、調査工数の大幅削減も可能だ。 また、進捗に遅れが生じるとリストが赤く表示されるなどして注意を促す仕組みのため、納期遅れを大きく減らすことができた。
「大量生産から多品種・少量・短納期の仕事に変わった頃の納期順守率は80%に届きませんでしたが、is-PROを使うようになって92、93%まで向上しました。残りの部分のほとんどは、そもそも無理なリードタイムの発注だったり、材料が入手できずに遅れたりしたケースです」
三色灯から機械設備の稼働状況を読み取る
IoT稼働監視システム「is-LOOK」は、機械の稼働状況が見たいという要望から始まった。NC旋盤などにつく赤黄緑の三色灯の点灯・点滅・消灯を光センサーが感知して、Wi-Fi経由でデータサーバーへ飛ばし、管理PCで状況を見ることができる。インターネットを経由すれば遠隔地や海外にある拠点の機械の稼働状況も監視できる。肝は三色灯から稼働データを得ている点だ。設備の種類、メーカー、新旧型を問わず設置できる。製造業には導入メリットの高いIoTシステムであると考え、外販を決めて他社へ売り込むと、「現場の担当者には好評でしたが、見積もりを出しても決裁者(社長)の承諾が得られない。社長の立場では、稼働状況が分かるというだけでは導入の意味があまりなく、機械が停止したのであれば、なぜ止まったのかという原因まで知りたい意向なのです」
そこで、稼働状況や出来高の一覧表示や収集したデータからガントチャート(生産管理、工程管理で用いる表)やグラフを作成し、稼働率の分析や設備稼働時間の見える化を可能にする機能も付加した。集計した稼働データをエクセルへ出力して分析が可能なので、稼働率を向上させるための具体的な検討ができるようになり、「さらにデータが蓄積していけば、利用価値の高い情報になるはずです」と寺坂社長は語る。
「is-LOOK」の情報を元に、1日8時間稼働するNC旋盤の稼働状況を改善した例では、1日平均のアラーム時間は0・85時間から0・5時間へ0・35時間短縮。平均回数は9回から5・5回へ3・5回減少したという結果が得られている。
このシステムの導入費用はサーバー18万7000円、ソフト47万円、端末(センサーとのセット)4万7000円、サーバー1台・ソフト1つ・端末10台を一式として約110万円。低コストに抑えた理由を寺坂さんは「地域の事業者の皆さんに低コストで導入していただいて、地域に仕事を呼び込みたいため」と説明する。寺坂さんにはICT、IoTを活用した新たなアイデアもあるという。その実現を楽しみに待ちたい。
会社データ
社名:飯山精器株式会社
所在地:長野県中野市草間1162-15
電話:0269-26-7851
代表者:寺坂唯史 代表取締役社長
従業員:72人
※月刊石垣2018年5月号に掲載された記事です。
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