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テーマ別企業事例 なるほど!ココが違う「後継ぎ」女性社長の繁盛経営

先代から事業を承継し、業績を上げ続けている女性の「後継ぎ」がいる。男性中心の職場といわれたものづくりの現場で、女性経営者が変えなかったこと、大きく変えていったこととは何か?「後継ぎ」女性社長の一味違う経営に迫る。

事例1 思い切った経営改革で町工場から世界へ展開

手島精管(群馬県館林市)

医療注射針用精密ステンレスチューブメーカーの手島精管は、国内だけではなく輸出を積極的に展開し、今や世界トップクラスのグローバル企業として成長している。それをけん引するのが二代目代表取締役社長の手島由紀子さんだ。男性の比率が高い製造業の中で、優れた経営手腕で世界と対等に渡り合う。

家業を継ぐことを条件にボストンへ留学

分福茶釜ゆかりの茂林寺で知られる群馬県館林市。そのほぼ中央に位置する館林駅から車で10分ほどの距離に、館林北部第三工業団地がある。田んぼに囲まれたのどかな風景の中、大手メーカーの工場が建ち並び、そこに手島精管の本社工場も肩を並べる。2013年に新設した工場で、完成の翌年、手島さんは二代目代表取締役社長に就任した。

「入社したのは02年、29歳のときです。私が経営に関わるようになったのはその7年後で、それまでは役職なしの一従業員でした」

そう苦笑する手島さんは、5人姉妹の長女でいずれは継ぐことになると思っていたものの、「私の同級生は、年代からして、銀行やIT業界に就職していたので、製造業に就職することにためらいがあり、継ぎたくない」と20代前半までは家業から目を背けていたという。短期大学の英文科を卒業後、3年間は東京の商社に勤め、そこで自分の英語が通用しないことを痛感すると、語学留学を決意する。だが、大反対したのが父の二三男さんだ。語学留学の条件に家業を継ぐことを持ち出され、渋々承諾してアメリカのマサチューセッツ州・ボストンに飛んだ。

ボストンといえば、アメリカ最大の学園都市で、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、バークリー音楽大学など名門大学が多いまちとして知られている。手島さんは、私立大学の名門、ノースイースタン大学の門をくぐった。

「大学にはプロフェッショナルやキャリアアップを目指す向上心のある学生が多く、とても刺激を受けました。それにアメリカのトップクラスの医薬品メーカーが集まっていて、メーカー間で頻繁にディスカッションしているんです。MBA時代には、デモキャンプというプレゼンテーションする場があり、面白いアイデアならその場で投資会社が投資してくれて話がスピーディーに進む。ホームパーティーも盛んで、まち全体が活気に満ちていました」

大学在籍中には、インターンシップでハーバード大学医学部の主要機関の一つ、ダナ・ファーバー癌(がん)研究所で働き、語学力だけではなくアメリカの医療現場での経験も積んでいく。そして帰国し、覚悟を決めて入社したのだ。

会社はISO9001を自身もMBAを取得

手島さんの仕事は、経理を担当していた母のアシスタントから始まった。まだタイムカードをアナログ集計している状況で、手島さんは早速パソコンの導入を提案したという。

「ここでまた父が大反対です。ウィンドウズ95が発売されて7年が経っているというのに。半年かけて説得し、ようやく1台を入れてもらえました」

アメリカとのビジネス環境やスピード感の違いにジレンマを感じつつも、まずは自分ができることから進めようと、手島さんは積極的に行動する。社員マナーの強化とアプリケーションソフトの導入、取引先の企業だけではなく、地元大学にも足しげく通って顔をつないでいった。

「弊社には外径0・127㎜の注射針を製造できる世界有数の技術があります。それを継承する人材確保が必須です。そのためにも大学とのつながり、そして品質マネジメントシステム(QMS)認証のISO9001の取得が急務だと思いました」

世界トップクラスの製品をつくる技術力はすでにある。ならば、次の手として高い技術力をいかに守り継ぐか、つくり続けるためのシステムをどう構築するかに、手島さんは注力したのだ。そして2006年、同社は世界基準の規格であるISO9001を取得する。さらに、会社を変えるならまず自分からと、コンサルタントに頼らない経営力を身に付けるべく、優良グローバル企業の最高責任者の多くが取得するMBA(Master of Business Administration)、日本語では経営学修士と呼ばれる学位に挑戦する。

「国内でも取れますが、海外で取った方が学ぶべきことが多いと判断しました。総合大学付属のビジネススクールで2年間学ぶのが一般的ですが、そんな長期間会社を離れたくありませんでした。それで1年で取れる所を探したら私が留学したボストンにあったんです。TOEFL(英語能力試験)はノースイースタン大学を卒業していたので免除され、それより難しいといわれるGMATという入学適性テストをパスして入学しました」

授業では企業に出向いてプレゼンすることもあった。良案なら実際に企業に採用される実践形式で、物おじしている場合ではなかったという。

「私の意見をはっきり言う性格は、この時期につくられました」と手島さんは快活に笑う。

プロセス改革を推進しさらに輸出に本腰

MBAホルダーになって帰国した手島さんは、その後専務となり先代の集大成ともいえる本社工場が完成した翌年に社長に就任する。同時に先代社長は会長となり、経営から完全に手を引き、手島さんに全てが任された。

「私も相当な覚悟を持って就任しました。第2の創業と言ってもいいぐらいで、会社にかける思いは父と同じ、いえそれ以上です。今では、先代も私の経営手法を理解してくれていると思います」と語る手島さんには、経営者としての気概が感じられる。だが、先代とは経営の手法は違った。町工場から始まった創成期は、社長と工場長がツートップとなって寝る間を惜しんで会社を引っ張ってきた。そのスタイルを一新し、組織を部門ごとに分け、部門長としてチーフオペレーターを立てた。技術習得も先輩の背中を見て学ぶのではなく、学習期間を設け、新卒者でも学んだ1週間後には作業できる体制にしていく。

社員のスキルアップにも余念がない。入社3年後には「スキルマップ」を作成し、社員にマネージャー、スペシャリスト、ゼネラリストなど目指す方向性を選択、決断させる。能力に応じてレベル1、2、3と分け、ランクアップ後の給料も開示した。こうした可視化した生産管理システムで海外出荷比率を3%から10%強に押し上げていく。

また環境保全の視点から業界に先駆けて、有機溶剤による金属の洗浄を水洗浄に切り替えた。 「国内の製造業では、有機溶剤を用いるのが当たり前で、有機溶剤でないと落ちないとさえいわれます。でも、ドイツをはじめとしたヨーロッパの企業から見れば、『まだ有機溶剤を使っているの?』というレベルです。日本の常識ではなく、世界基準に合わせる必要性を感じましたし、また社員の健康面への危惧からも水洗浄を決断しました」

17年9月、開発に2年半かけて導入した新設備の稼働を開始。製造工程改革を実施し、設備投資した分を今年下半期で取り返そうと躍起だ。ゆくゆくは中東やアセアンへの輸出も視野に入れ、医療分野で世界に貢献したいという思いを募らせる。同社の第2章はこれからが本番だ。

会社データ

社名:手島精管株式会社

所在地:群馬県館林市下早川田町306-1

電話:0276-73-1173

HP:http://www.teshima.co.jp/

代表者:手島由紀子 代表取締役社長

従業員:50人

※月刊石垣2018年5月号に掲載された記事です。

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