事例3 積極的に女性を登用することで三代目社長が革新を起こす
光機械製作所(三重県津市)
昭和21年の創業以来、工作機械や切削工具の製造を行ってきた光機械製作所。業種柄、かつては男性従業員が大半の典型的なものづくり工場だったが、西岡慶子社長が就任以降、性別に関係なく能力のある人材を積極的に採用してきた。適材適所の実践により、女性の割合が向上し、高い顧客満足と業績アップを実現している。
夫の急逝により事業承継を決意
三重県津市にある光機械製作所は、研削盤や切削工具などを製造する工作機械メーカーである。創業者が会社の基盤をつくり、二代目が事業を拡大して、中小企業庁から「中小企業合理化モデル工場」にも指定された優良ものづくり工場だ。そうした業種柄、かつては社員の大半を理系・男性人材が占め、女性は男性の補助と位置づける社内風土が根付いていた。平成13年、そんな同社の三代目を継いだのが西岡慶子さんだった。
「もともと父(現会長の寅之助さん)は、娘3人の誰かの夫に会社を任せたいと考えていたようです。私は長女なので、いずれお婿さんを迎えることになるんだろうなと、漠然と思っていました」と振り返る。
一方、寅之助さんは「これからの時代は英語が必須」との考えから、西岡さんに英語の勉強を奨励した。その意向を受けて、西岡さんは英語を学び、やがて外資系企業で秘書通訳として働き始めた。 「とてもやりがいを感じていましたし、通訳は天職だと思いました。また、それが縁で外国人の夫と出会い、結婚したんです」
ところが結婚8年目のある日、夫が心筋梗塞で急逝してしまう。現実を受け入れられないまま2~3カ月が過ぎたころ、会社をよく知る人から「あなたの夫はあなたを育てて、お父さまに返したんでしょう。光機械製作所はあなたが継ぐといいと思う」と言われた。予想だにしなかったが、その言葉で西岡さんの中に覚悟が芽生え、社長を継ごうと決意した。
社内改革に取り組んだ大きな成果
社長就任後に取り組んだのは、レトロフィット事業への参入だ。レトロフィットとは、新規に設備投資を行うのではなく、今ある設備を生かして、製造現場の生産性を高めることで、エコにつながる点が参入を決めた理由だった。それと並行して、女性の活用にも力を入れた。
「IT化やグローバル化が進行し、世の中が大きく変革している時代に、旧態依然とした組織のままでは生き残れないと思いました。仕事のクオリティーに性差はありません。潜在能力は高いのに補助的な仕事しかさせてもらえず、くすぶっている女性に来てほしいと思ったんです」
また、社内で不正が発覚したことも、女性の活用を進めた理由だ。男性主導の縦社会では、上の者から言われたことには逆らいにくい。そんな風土を変えて、持てる能力を適材適所で発揮できる社内環境づくりが急務と考えたのだ。
手始めに、男性しかいなかった生産管理部門に女性を配属した。当初は男性社員から反発があったが、その女性社員は徐々に一目置かれる存在となっていった。同様に設計部門に配属された女性社員も、異なる視点で、従来品とは違うデザインと、熟練の技術や腕力がなくても使える機械の設計に加わり、高い顧客満足を得て業績アップに貢献した。今では各部門で女性社員が活躍し、全社員に占める割合も30%近くにまで増えている。
こうして西岡さんが次々と新しい方針を打ち出し、実行しているのを目の当たりにして、「女性社長など長くは続かないだろう」と思っていた社員や取引先の意識も実績が出始めると次第に変化していった。
「周りからすれば、いきなり素人の女性社長が来て戸惑ったことでしょう。しかも私は思ったことは言葉にするタイプ。男性からすれば、面倒だったかもしれません。でも、会社をマネジメントする上でコミュニケーションは欠かせないので、言葉や態度、実績を見せながらコツコツとやり続けたことで、少しずつ社風が変わっていったのだと思います」
人材教育にも力を入れ一人のプロを目指す
また、西岡さんは人材教育にも力を入れてきた。きっかけはリーマンショックだ。受注が激減し、工場をフル稼働できなくなって空いた時間を、社員の勉強に当てることにしたのだ。西岡さんは社長に就任する前、大学院に通ってMBA(経営学修士)を取得している。それを生かして、社員向けの「経営塾」を開催した。ほかにも、長年培った熟練の技術を次世代に伝える「ものづくり道場」、今後の社会や技術の動向を学ぶ「トレンド研修」、若手社員向けに生き方や働き方のヒントや気付きを与えるための「LOVE ME講座」など、さまざまな人材育成プログラムを実践している。
「世の中は常に変革し、スピードも速くなっています。その進化に対応するために技術力を高め、新しい時代に合ったものを提供できるようにしなければいけません。それには人材の確保と教育が重要です。そのキーワードが『Be Professional(プロ意識に徹する)』です」
こうした一連の取り組みが実を結び、26年に「ダイバーシティ経営企業100選(経済産業省)」を、27年には「APEC女性活躍推進企業50」に選ばれた。同社の認知度も高まり、現在も新しい取り組みにより世界市場を見据えたビジネスを進めている。
「私は自分を女性経営者と思ったことはありません。女性ではなく、一人のプロでありたいですね」と柔和な表情を浮かべながら言い切った。
会社データ
社名:株式会社光機械製作所
所在地:三重県津市一身田中野8-1
電話:059-227-5511
HP:[http://www.hikarikikai.co.jp/(http://www.hikarikikai.co.jp/)
代表者:西岡慶子 代表取締役社長
従業員:100人
※月刊石垣2018年5月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!