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テーマ別企業事例 発想を変えて"季節外れ"をなくす

事例2 規格外野菜を有効利用して世界初の野菜シートの生産に成功

アイル(長崎県平戸市)

ニンジン、ダイコン、カボチャなどいろいろな種類のシートがつくれる。イトーヨーカ堂では海苔(のり)売り場に並んでいて、価格は1パック(5枚)378円(税別)

長崎県平戸市のアイルが生産する野菜シート「VEGHEET(ベジート)」の販売が急速に進む。野菜でつくった「海苔(のり)」風食材という斬新なアイデアが国内外で評判となって生産に追われている。さらに、原料には流通ルートに乗りにくい規格外野菜を使うため、農家からも熱い視線が送られている。平戸に新しい産業が生まれた。

大学と共同で食感を改良し製造設備を独自開発

野菜を原料にしたシート状の「ベジート」。その形はまさに板海苔だが、色は日本の伝統色という表現がぴったりする。ダイコンが原料のシートは黄色より淡い「芥子(からし)色」、ニンジンのシートはまさに「人参色」そのままだ。海苔よりも薄く、手に取るとつかんでいる指が透けて見える。食感は口に入れた瞬間はパリッとしているが、すぐに溶けて、野菜の風味が広がる。

「この口溶け感をつくり出すところが難しかった」と社長の早田圭介さんは振り返る。

早田さんが野菜シートと出合ったのは1998年、地元の海苔メーカーが地元野菜と海苔の製造設備を使ってつくった試作品だった。「これは必ず世の中のためになる」。当時、食品卸の会社を経営していた早田さんは、海苔メーカーなどと共同出資会社を立ち上げ、野菜シートの製造・販売をスタートさせたが、評判は芳しくない。紙のような食感と野菜の風味の抜けた味だったからだ。

野菜には旬の時期があり、また生産量が天候に左右される。しかし、早田さんは野菜シートに、季節にとらわれない“新しい野菜”の可能性を見出していた。

①多くは廃棄処分にされる規格外野菜(形や色などが市場流通の規格に合わない野菜)を有効利用できるため、地元農家を支援できる

②特殊な加工方法により、野菜シートの中に野菜の栄養分がほとんど残り、繊維質も豊富

③賞味期限が生野菜よりもはるかに長くなり(ベジートは約2年)、保存食や非常食になる といった特徴があったからだ。

野菜シートはほとんど売れなかったが、早田さんは可能性を信じて、新たにアイルを立ち上げて改善に取り組んだ。2005年に長崎県が推進していた産学官連携事業に応募し、地元の大学と商品の共同研究を開始した。

「特別な加工方法により繊維質を軟らかくすることで口溶けを良くし、寒天によってパリッとした感じを出すことに成功しました」

しかしそれよりも苦労したのは、世の中に存在しない製造設備の開発だったという。海苔の製造設備の流用では薄くできず、食感が劣る。早田さんは厚さである0・1㎜にこだわり、ついに技術を確立した。

VCから資金調達し無借金経営を実現

次は事業化資金の調達だ。日本商工会議所青年部が主催する「ビジネスプランコンテスト」に応募、「野菜海苔製造販売事業計画書」で08年度のグランプリを獲得して助成金を得た。さらに日本ニュービジネス協議会連合会の「第11回ニッポン新事業創出大賞」(16年)で最優秀賞・中小企業庁長官賞を受賞して事業性へのお墨付きをもらったことから、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達がしやすくなった。

「VCからは事業性・具体化の手順・販売方法といった事業の可能性についての詳細な説明を求められます。プレゼンテーションの準備には大変な時間がかかりますが、出資を受けることができれば経営は楽になりますからね」

同社の株主には三菱UFJキャピタル、ひびしんキャピタル、佐銀キャピタルといったVCの名前が並ぶ。本格生産のための投資が先行しているにもかかわらず、実質無借金経営だ。

ヨーカ堂から販売を始めコンビニや海外にも拡大

販売はBtoBに特化している。生産体制が整ったばかりの今は、販売先を関東地方を中心に展開するイトーヨーカ堂に絞り込み、試験販売を経て、6月からは本格的に販売される予定だ。生産能力が高まれば関西エリアのスーパー、地方の有力スーパー、大手コンビニ、食品加工メーカーなども販売先になる。

売上高は18年3月期が700万円(テスト販売が3月16日に始まったばかりのため)、19年3月期は1億円を見込む。

海外販売にも積極的だ。ヨーロッパは有力な問屋と提携した。イタリアで販売を始め、次はフランスへ広げて、ドイツ、イギリスというように市場を開拓していく。その先はグルテンフリー、ソイフリー、ローカロリーといった健康志向の強いアメリカ市場へと、工場を建てて一気に販売数を増やす。

「会社の成長イメージはIPO(新規公開)前の売上高が20億~30億円、IPOで調達した資金でアメリカに工場をつくり3~4年で100億円規模、10年後には1000億円を目指します」

ISOの知見を地元に蓄積食品加工で産業を興す

早田さんはある壮大な計画を実現するため、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格である「ISO22000」を早々に取得した。取得には当初から在籍する4人の従業員が中心となり、書類づくりのサポートは地元の行政書士に依頼した。工場の設計・建設も地元の設計会社、建設会社だ。誰もがISO取得は未経験のため中小企業基盤整備機構の専門家派遣などを活用して一から徹底的に学んだ。なぜそれほどまでに地元にこだわったのか。

「平戸には製造業はありませんが、原料となる一次産業が盛んですから、食品の加工工場をつくることが可能です。当社がテストケースとなってISOを取得したことで、地元にISO取得の知見が蓄積されました。当社の周辺に食品加工メーカーを誘致することができれば産業が興ります」

産業を興して「このまちを元気にする」。その遠大な計画は、野菜シートの成功で実現に向けて動き出している。

会社データ

社名:株式会社アイル

所在地:長崎県平戸市田平町小手田免419-1

電話:0950-57-0808

HP:http://vegheet.com/

代表者:早田圭介 代表取締役

従業員:7人

※月刊石垣2018年6月号に掲載された記事です。

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