今まで廃棄していたものを有効活用し、新しい価値を付加する「アップサイクル」。これまでとは異なる視点で捉え直した"創造的再利用"で食品ロスや環境負荷の削減のみならず、ヒット商品にまで押し上げている地域企業の取り組みを紹介する。
工場の"厄介者"から生まれた「今治のホコリ」が大人気
国内生産量の約5割を占める日本一のタオル生産地・今治市。同地で1954年に創業した西染工は長年、繊維製品の染色加工を手掛けてきたが、近年では自社ブランドの製作にも力を入れている。中でも、染色工場から発生する綿ぼこりを活用した着火剤が、キャンプ好きの間で話題になり売れ行きを伸ばしている。
火災の誘因となる綿ぼこり燃えやすいなら着火剤に
まさに逆転の発想である。今治市の老舗染色加工会社・西染工が開発した「今治のホコリ」のことだ。これはタオルを染色加工後、乾燥工程で使用する乾燥機のフィルターに付着した綿ぼこりでつくった着火剤である。ほこりを放置しておくと電気系のショートなどで火災を誘引するため除去する必要があり、その量は実に1日で120lの袋2個分にも及ぶという。
「昔なら工場の敷地内で焼却処理ができましたが、今はそうもいきません。以前から有効活用法を模索していて座布団やクッションの中に入れるなどしてみましたが、繊維長が短いので生地の隙間から出てきてしまう。結局、産廃として捨てていました」と同社社長の山本敏明さんは説明する。
燃えやすいなら、逆に着火剤をつくったらと思いついたのが、同社商品事業部部長の福岡友也さんだ。趣味のアウトドアに親しんできた経験がヒントになった。
早速、本当に燃えるのか、どれくらい燃え続けるのかを確かめた。量と燃焼時間を何度も検証した結果、10gで4~5分燃え続け、火口(ほくち)として使うのに十分だと判明する。既存の透明ケースに4回分40gの綿ぼこりを、圧縮しながら詰めるところまで決まった。
「全て手詰めで行っていますが、ポイントは見せ方です。当初は私がやっていたんですが、どうしても迷彩柄のようになってしまい不評でした。20代の女性社員にやってもらったところ、ポップな色彩になり、皆の感想も『かわいい』と好評だったので、それを商品化することになりました」と福岡さんは説明する。
商品名は、そのものずばり「今治のホコリ」とし、2022年2月に1個550円(23年から660円・ともに税込)で販売を開始した。
収入を安定化させるため自社商品開発に力を入れる
同社がこうした自社商品を開発・販売するようになったのは、15年ほど前からだ。それまで同社は、クセの強い天然素材を均一な品質で大量に染め上げる技術を強みに、さまざまな繊維製品の染色を請け負ってきた。染色には、製織準備の前処理としての染色と糊付け、製織後の後処理として糊抜きなどの工程がある。それがタオルの手触りや風合いを左右するため手を抜けないが、手間と時間がかかる。
「この業界は10年周期で波があります。受注が減ると生産効率が落ちて、資金も回らなくなります。収入を安定化させるため、自社商品を開発してコンスタントに売っていこうと考えました」
最初にインクジェットプリンターで、タオルにオリジナルプリントをした商品をつくり始めた。さらに織機、整経機、縫製用ミシンなどを導入し、一貫生産体制を整える。「染まるものは何でも染めてみる」をモットーに、自社商品開発に本腰を入れ、社員からアイデアを取り入れながら、機能性に優れたオリジナル商品を考案していった。例えば、プラチナナノ加工を施し、高い抗菌・防臭効果のある「プラチナウェットタオル」シリーズ、同じくプラチナの力で雑菌の繁殖を抑制した「におわないタオル」シリーズなどだ。前者は30色という豊富なカラーバリエーションとスタイリッシュな容器が好評で、18年度に「OMOTENASHI SELECTION」金賞を受賞、後者は使用後の放置臭や生乾き臭を嫌う現代人に喜ばれ、売れ行きを伸ばしている。
「今治のホコリ」は環境保護につながる取り組みの一環
自社商品開発と並行して進めてきたのが、環境負荷を減らす取り組みだ。高温の染液に生地を浸し、機械乾燥して色を定着させる染色は、大量のエネルギー資源を必要とする。配管を断熱材で覆う、熱効率のいい機械を導入するなどして、省エネ対策を進めた。さらにボイラーの天然ガス化に踏み切り、床の油や黒煙の出ないクリーンな環境を実現した。
「工場内の整備はやり尽くした感があり、環境保護につながる次の取り組みと考えて、着目したのがアウトドアでした」
具体策として、瀬戸内海の大自然がつくり出す豊かな色彩をコンセプトにしたアウトドアブランド「マジックアワー」を立ち上げる。屋外での使用を念頭に置いたコットンブランケットやタオルブランケット、シュラフをクッションとして使用できる収納カバーなどをラインナップした。
実は「今治のホコリ」も、同ブランド商品の一つだ。カラフルで目を引くことから、起爆剤になればと他商品に先行して発売した。すると予想以上に注目を集め、専門店のバイヤーから引き合いが来るようになり、販路を広げていく。一つとして同じ柄のない一点物であることや、季節ごとに詰める綿の色を工夫したことで、特に若い女性の心をつかんだ。
「ただ、これは企画段階から社内でも議論があったんですが、廃棄物を有効活用したサステナブルな商品なのに、プラスチック容器を使っていることに対して、一部消費者から意見が寄せられたんです。その解決策として紙袋入りの詰め替え用をつくり、今年の1月から販売を始めました。これならケースを繰り返し使え、詰め替え用のリピート買いにもつながっています」
現在、同商品の月間売り上げは発売当初の20倍以上に伸びているという。
消費者が望むものを提供できる会社に
バブル崩壊後、外国産の安価な製品が大量に輸入されるようになり、日本の繊維産業は大きなダメージを受けた。今治タオルの生産量も、91年をピークに減少の一途をたどった。その後、リブランディングに成功し、高品質のJAPANブランドとして売り上げがV字回復している。
「しかし、タオルは売れていても繊維加工業は相変わらず厳しい。だからこそ自社商品をトータルに製造できて、消費者が望むものを提供できる会社にならなければなりません」と表情を引き締める。
幸い同商品の人気により、今では「こんなものはつくれますか?」という問い合わせや注文が増えている。現在、事業全体に占める自社商品の売り上げは10%ほどになっている。今後はそれを3割程度に増やしていきたいという。そのために今後さらに国内外に向けて広く発信していく予定だ。
「東京やパリの展示会にも出展しましたが、予想以上に反響がありました。また、小ロットの受注にニーズがあることに確信が持てたことも大きな収穫です。これまで以上に自社商品開発とブランディングに力を入れ、直営店やオンライン販売に注力していきたい」と山本さんは静かな闘志をのぞかせた。
会社データ
社名 : 西染工株式会社(にしせんこう)
所在地 : 愛媛県今治市南大門町4-5-1
電話 : 0898-22-2588
代表者 : 山本敏明 代表取締役
従業員 : 60人
【今治商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
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