「2023年は過去12万5000年で最も暑い年になった」。国連機関の観測データから、専門家はこう分析する。確かに日本でも11月に「夏日」が連続するなど、異常さは際立っていた。「24年も今年と同レベルの高気温になる」との予測が既に出ており、私たちは高温、豪雨、干ばつなど気候変動と共存しなければならない時代となった。
気候変動で最も大きな打撃を受けるのは、地球上の人口の約60%が住むアジアである。22年にはパキスタンで大規模な洪水が発生した。国土の3分の1以上が水没するという大災害になり、1500人以上が亡くなった。今年は高気温、渇水で、アジア各地が穀物の収穫に打撃を受けた。世界のコメ輸出の40%近くを占めるインドは、国内のコメ需給逼迫(ひっぱく)に備え、7月に高級米以外のコメ輸出の制限に踏み切った。ロシアのウクライナ侵攻以降、安全保障を理由にした食料輸出規制は世界で頻発しているが、気候変動による減産リスクはより大規模に起きる可能性が高まっている。
台湾では、少雨による別のリスクが主力産業を襲った。洗浄工程で大量の水を必要とする半導体産業が、生産停止の瀬戸際に追い込まれ、軍が工業用水をトラック輸送した。工業用水の不足は世界的な現象だが、降雨が比較的安定しているアジアのモンスーン地域は、渇水の影響が欧米、アフリカに比べて小さい。
水に恵まれた日本は、台湾のTSMCの熊本進出、同じ台湾のPSMCの宮城進出など、半導体産業誘致に優位性を発揮している。水が豊かといっても、先端半導体の生産を目指して北海道千歳市に工場を建設中のラピダスは、自社向けの工業用水の送水管新設に198億円を負担せざるを得なかった。隠れた気候変動との闘いである。
海水面の上昇は、特定の国にとって深刻な気候変動。日本のアパレル業界が依存を深めているバングラデシュは、国土の約60%が海抜5m以下という平坦な国土である。海水面の上昇とヒマラヤ氷河の溶解による河川流量の増大で、国土の水没リスクが高まっている。国連の予測では、2080年には現在の国土の40%が海面下になる可能性が高い。豊富な労働力など工場進出では有望な国だが、気候変動がのしかかりつつある。
グローバルな気候変動は、日本の中小企業にとっても原料調達、工場進出などで現実的なリスクになってきている。事業戦略で気候変動への意識を高めていく必要がある。
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