十日町で1931年から続く、メガネ・補聴器・時計・宝石の専門店ミヤコヤ。四代目で代表取締役社長の高橋雅人さんは、ネットでの発信やイベント企画、自身の「えんぴつ彫刻」の展示会など〝来店きっかけ〟に工夫を凝らす。県内初の最新機器導入で、地域密着店ながら商圏外からの注目度も高い。
父親からの1本の電話で突然決まった家業入り
「店名の由来が気になって、10年ぐらい前に調べたことがあります。創業者の人柄や店の成り立ちが分かり、自分自身の役割や店の在り方が明確になりました」
ミヤコヤの四代目を継いだ高橋雅人さんが店の歴史をひもとくと、創業者の髙橋兵吉さんが隣まちで兄とともに起業し、東京出店を夢見て「都屋兄弟商会」と名付けたことが分かった。その10年後の1931年、兵吉さんが十日町に移り、時計やメガネ、レコード、カメラ販売店を始めた年が創業年となり、56年に法人化。バイタリティーある行動に驚愕(きょうがく)したという。 「曽祖父は頑健な人で、卵売りや自転車・バイクの修理など、地域のニーズをくみ取って扱う商品やサービスを広げたようです」
高度経済成長などの時代の変遷、消費ニーズに即して扱う商品も変わり、店名も83年にミヤコヤとなる。その3年後に高橋さんが生まれたが、店に興味を示すこともなく育った。 「4人兄弟の長男ですが、家を継げと言われたことはなく、群馬の大学に進んで遊びまくっていました」と笑う。トム・クルーズ主演の映画『カクテル』を見て、バーテンダーになりたいと思っていた大学4年の5月、父・俊之さんの訪問で人生が一変した。 「父は当日、何も言わずに帰ったのですが、その日の夕方電話で『修業先にあいさつして来たから』と。頭の中は『?』だらけ。何と知人のメガネ店で働いて修業しろということでした。ここで断っても話がついている修業先を困らせるだけと、モヤモヤした気持ちのまま仕方なく承諾しました」
同年9月、高橋さんはミヤコヤからの出向扱いで、メガネ店のアルバイト店員になった。
熟練の職人技に触れてメガネ店の魅力に開眼
ふに落ちないまま働き始めた高橋さんだが、修業先は温かく迎え入れてくれた。人に恵まれ、働く楽しさを見いだすものの、相変わらずメガネには興味が湧かない。それが変わったのは働いて約1年が過ぎた頃だ。 「メガネの国際展示会に連れて行ってもらった際に目にした、職人技で生み出された精巧なつくりのメガネがきっかけです。技術のある職人がつくったメガネ、その過程の難しさ、面白さについて、気が付いたら前のめりで見聞きしていました。このメガネを売りたい! そう強く思いました」
修業先を半年かけて説得し、職人が生んだメガネの販売が承認されると、高橋さんは売り上げトップセールスを達成。「熱量で売った」と語るが、メガネの知見や技術を急速に吸収し、その魅力に目覚めたのは言うまでもない。 「家を継ぐことは『恩返し』だと思えたのもこの頃です。代々家業があって、自分は生かされている。親や修業先、生まれ育ったまちへの恩返しが、良質なメガネを届けることと合致しました」
2011年、25歳で帰郷した高橋さんはメガネと補聴器の売り場を任され、先代は宝石と時計を扱う別店舗に専念する。19年に2店舗統合の改装を機に、先代から経営や店舗運営を全面的に任され、その流れで高橋さんは社長に就いた。
人口減を気にせずやり切る記憶に残る店づくり
「商圏の人口が毎年1000人規模で減っていく中、どう売り上げを立てるかが課題でした。経営コンサルタントの助言で、1日も欠かさずブログに商品情報や日常をつづり、動画配信で店の認知拡大を図りました」
また、来店のきっかけづくりにと、メガネ供養祭や縁日を企画。持ち前の手先の器用さを生かして鉛筆の芯に彫刻を施した「えんぴつ彫刻」の展示会も開催した。 「入ったことのない店は近寄り難く、加えてメガネ店は入ったら買わないといけない印象があります。とにかく来店してもらいたい一心で始めました」 供養祭で集まったまだ使えるメガネは、地元の人脈を頼り発展途上国に届ける道筋をつけるなど、積極的に地域交流を図り、活動を展開した。
一方で、ものづくり補助金を活用し、最新鋭の精密検査機器を導入するなど、目の状態や見え方を細かく調べられる体制も整える。 「ネットでの発信のかいもあって、商圏外からの来店者も増えました。福岡県からメガネ修理を依頼してくれる人もいて、メガネ修理の需要が伸びています」
創業から90年を超え、100年を見据えた今、「お客さまのニーズに応え、満足度向上」に力を入れたいと語る。20年、30年と地域に必要とされる店づくりへの意気込みは、創業者から脈々と受け継がれているようだ。 「100年後、まちがどうなっているか、次の代に引き継げるか分かりません。だからこそ今を大切に、自分らしく楽しく、お客さまに喜んでもらえる店づくりをやり切るのが目標です。記憶に残る店なら、この先どんな形でも続きますから」
不確定な未来を見据えて今をやり切る。人口減を憂慮せず、言い訳にせず、人との縁を大切にしながら、店の歴史を刻み続ける。
会社データ
社名 : 株式会社ミヤコヤ
所在地 : 新潟県十日町市高田町6丁目 妻有ショッピングセンター内
電話 : 025-752-0177
HP : https://www.megane3858.com
代表者 : 高橋雅人 代表取締役社長
従業員 : 10人
【十日町商工会議所】
※月刊石垣2023年12月号に掲載された記事です。
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