明治25年に民芸品や工芸品の製造・販売で創業した、こけしのしまぬき。同社のメイン商品の一つであるこけしは、大地震が発生すると倒れてしまい、消費者の買い控えが起きていた。しかし、それを逆手に取ったアイデアを思い立ち、倒れると明かりがつく防災機能を搭載したこけしを開発。じわじわと注目を集め、SNSでも評判になっている。
地震で倒れにくい伝統こけしを目指して試行錯誤
こけしには大きく「伝統こけし」と「創作こけし」の2種類がある。前者は、東北地方の湯治場で土産物として売られるようになったもので、ろくろをひいてつくる木製の人形玩具を指す。産地によって異なる製作技法や形状・模様は代々師弟間で受け継がれ、宮城県では鳴子、作並(さくなみ)、遠刈田(とおがった)、弥治郎の4系統がつくられてきた。一方、後者は地域とは関係なく発展したもので、特徴や形状にとらわれない自由なデザインでつくられたものだ。こけしのしまぬきが扱ってきたのは、前者の伝統こけしである。 「こけしは200年ほど前に生まれたといわれ、何度かブームがありました。1度目は戦前で、2度目は団体旅行が盛んだった高度経済成長期です。さらに、この辺りの地域には入学や卒業、新築などのお祝いに伝統こけしを贈る文化があって、どの家庭にも一つや二つはあると思います」と同社社長の島貫昭彦さんは説明する。
こけしを飾っていて困るのが地震だ。震度4以上になると倒れてしまい、立て直すのが面倒だからと買い控える人が増えて、売れ行きが徐々に減少。そんな矢先に発生したのが、2008年の「岩手・宮城内陸地震」である。 「それ以前からずっと倒れにくいこけしを考え続けてきました。胴体の下の方を太くしたり、高さを低くして安定感を出したり。しかし、倒れないことを優先すると、形状が伝統こけしからどんどん離れていきます。それならばいっそ形はそのままで、倒れたら役に立つものにしたらどうかと考えたのです」
特許製品との出合いで新しいこけしを思い立つ
逆転の発想に至ったきっかけは、知的財産を商品化に生かすための特許庁のイベントだった。横浜市の自動車部品メーカー、セプト・ワンが製造した、45度以上傾くとLEDライトが点灯する傾斜ユニットを見た瞬間、「これだ!」とひらめいたという。 「これをこけしに内蔵すれば、地震で停電が発生したときにライトとして活用できるとセプト・ワンに伝えたところ、明かりこけしの開発へ商談がトントン拍子に進みました」
傾斜ユニットを伝統こけしに内蔵するために、こけしには直径3・3㎝、奥行き約10㎝の穴を開けることになった。それを工人(こうじん)にお願いしたが、「難しい」と反応は微妙だったという。工人とは、こけしの材料となる木の選定、乾燥、加工、絵付け、仕上げまで1人でこなす職人のことだが、こけしの内側に穴を開けた経験のある人はほとんどいなかった。島貫さんは、技術があって引き受けてくれそうな工人を探して、まずは作並系こけしで試作した。 「穴を開けること自体は面倒だけれど、さほど難しいわけではありません。技術が要るのは、電池交換の際にユニットをスムーズに取り出せる絶妙な太さに開けることです。さらに、ユニットを中で固定するワイヤー用の溝も設ける必要があり、完成するまでに1年ほどかかりました」
同商品は「明かりこけし」と名付け、09年6月に販売を開始した。こけしは大量生産ができず、1種類だけでは欠品が出てしまいかねないため、鳴子系、遠刈田系、弥治郎系も順次製作し、4種類が勢ぞろいした。
「防災グッズとして使えるこけし」と評判を呼ぶ
島貫さんは発売に向けて周知を図るため、地元の新聞やテレビに取り上げてもらえるようアプローチした。また、店舗を訪れる客にも、こけしに搭載された機能について説明を心掛けた。とはいえ、実際のところ平時ではなかなか必要性を感じてもらいにくく、反響は薄かったという。しかし、発売2年後に東日本大震災が起こると、ライトが付いたこけしが再認識されて注目が集まった。 「東日本大震災のときは本当にいろいろな人から支援をいただきました。また、そのお返しの品にと、『明かりこけし』を選んで購入してくれる人たちがたくさんいて、万一大地震が起こったときのために、離れて暮らす子どもや孫が、おじいさんやおばあさんに贈るというケースもありました」
同商品はコンスタントに売れるものではないが、現在までに累計で3000~4000個ほどを売り上げたという。これまで、島貫さんは停電による真っ暗闇での不安な気持ちに思いをはせながら地道につくり続けてきた。折に触れて改良を重ね、当初は8時間程度だった連続点灯時間も、現在では50時間にまで延びている。大地震が起こるたびに注目され、21年2月に宮城県と福島県で震度6の地震が発生した際には、ツイッター(現X)上で「防災グッズとして使えるこけし」として評判が拡散し、同社のECサイトでは品切れになった。 「今後も明かりこけしをはじめ、この地に伝わる伝統工芸品を扱っていくつもりです。ただ、ほとんどが手仕事なので大量生産ができず、後継者不足も年々深刻になっています。そんな状況を打開するためにも、新しいデザインを考えたり、他の地場産業や製造業との協業を進めたりして、異なる工芸品の要素をうまく組み合わせるなどして、今後につなげていきたい」と島貫さんは展望を語った。
会社データ
社 名 : 株式会社こけしのしまぬき
所在地 : 宮城県仙台市青葉区一番町3-1-17
電 話 : 022-223-2370
HP :https://www.shimanuki.co.jp
代表者 : 島貫昭彦 代表取締役社長
設 立 : 明治25年
従業員 : 8人
【仙台商工会議所】
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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