米国の有力紙ニューヨーク・タイムズが昨年の「世界の行くべき52カ所」の2番目に岩手県盛岡市を選び、東北6県の夏祭りが一堂に会する「東北絆まつり」も初夏を彩る風物詩として定着してきた。東日本大震災から13年。コロナ禍を乗り越え、今こそ魅力的な東北の観光資源を国内外へ強く発信すべき時だ。東北観光の〝いま”を追った。
オール東北でプロモーションを継続し東北の魅力を国内外に発信し続けていく
東北6県では毎年、各県の県庁所在地が持ち回りで「東北絆まつり」を開催している。これは東北の夏祭り(青森ねぶた祭、盛岡さんさ踊り、仙台七夕まつり、秋田竿燈(かんとう)まつり、山形花笠まつり、福島わらじまつり)が一堂に会するもので、東日本大震災から4カ月後の2011年7月に仙台市で開催した「東北六魂祭(ろっこんさい)」として始まった。さらに現在では、東北各県が連携して東北観光の魅力を国内外に発信している。これらの取り組みについて、東北六県商工会議所連合会の会長を務める、仙台商工会議所の藤﨑三郎助会頭に話を聞いた。
熱気あふれる夏祭りの実演で東北の活気ある姿を発信
──震災からわずか4カ月後に開催した「東北六魂祭」ですが、当時の状況や開催の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
藤﨑会頭(以下、藤﨑) 震災後は全国的に自粛ムードが広がり、花見や宴会などを控えたり、イベントが中止・延期になる動きが相次ぎました。そのような中、4月に当時の鎌田会頭が過度な自粛の見直しを求めるとともに、仙台七夕まつりの開催を全国に向けて宣言したのです。
東北では、毎年8月上旬に各県庁所在地で夏祭りが開催されます。その前の7月に六つの夏祭りが初めて一堂に会し、熱気あふれる実演を通して震災から立ち上がる東北の姿を発信する。そして、東北各地で震災1年目から元気に夏祭りが開催されることをアピールし、多くの人に東北に足を運んでいただくために、東北六魂祭が企画され、第1回を仙台で開催することになりました。
─このような大きな祭りを4カ月未満という短い準備期間で開催できたのは、どうしてでしょうか。
藤﨑 実は震災前から東北6県で「東北夏祭りネットワーク」が組織されており、それが大きな役割を果たしました。このネットワークは東北6県の県庁所在地で開催される夏祭りの主催団体と6商工会議所が2009年2月に設立したもので、東北6県45商工会議所のうちの35商工会議所と38の夏祭りによる連携体制が構築されていました。それに加えて各県庁所在地の市長たちによる強いリーダーシップや広告代理店の協力もあり、短い期間で準備を進めることができたのです。
震災から4カ月しかたっておらず、福島の原発問題もあったので、2日間の来場者は7万人ほどだろうと予測していました。しかし実際には、予想を大きく上回る30万人以上の人たちにおいでいただきました。
国内外のイベントに参加し東北の観光と物産をPR
─11年から6年かけて東北6都市を一巡した「東北六魂祭」は17年から「東北絆まつり」として再出発し、定着しました。また、活動の場は全世界に広がっていると伺いました。この
祭りは、東北同士の絆と観光振興に向けた取り組みに、どのような影響を与えましたか。
藤﨑 この枠組みで培われてきた東北6市の絆は、東北一体となったプロモーションなどの基礎となり、国内外で観光PRを行っています。15年のイタリア・ミラノ万博では、ジャパンデーにおいて、絆まつりを中心とした「東北復興祭りパレード」を行い、世界中の人々に向けて、被災地支援に対する感謝の気持ちと復興に向かう東北の元気な姿を発信しました。
14年から16年にかけては、観光誘客と東北産品の販売促進を目的に、米国4都市のショッピングセンターで観光物産販売フェアを開催し、夏祭りを通じた東北の魅力もPRしました。また17年からはタイ・バンコクの「ジャパン・エキスポ・タイランド」や「バンコク日本博」に参加し、夏祭りのパフォーマンスを披露しています。 国内では16年11月の「東京新虎まつり」、19年12月の国立競技場の一般向けオープニングイベント、昨年11月には大阪の御堂筋で開催された「御堂筋ランウェイ2023」に参加し、ステージイベントやパレードで夏祭りの演舞披露や観光PRを行うなど、東北の魅力を国内外へ発信し続けています。
──オール東北の広域連携のプロモーションは副次的効果を生んでいるのですね。
藤﨑 東北は各県のみならず県内各エリアによっても独特の文化を有し、世界の各地域に勝るとも劣らない四季折々の魅力があると確信しています。それを丁寧にPRしていけば、よりダイナミックに東北の魅力を伝えることができる。「東北絆まつり」により県の垣根を越えて連携したプロモーション展開をできるようになったのは大変意義のあることで、これが観光の枠にとどまらない地域振興につながっていると考えています。
インバウンド拡大へ 韓国・台湾にトップセールス
─東北夏祭りネットワークはどのような活動をしているのですか。
藤﨑 「東北夏祭りネットワーク」は12年3月、四季の祭りに拡大して「東北まつりネットワーク」に進化しました。東北6県45商工会議所の地域で行われる約100の四季の祭りを国内外に紹介するポータルサイト「東北のまつり」を運営するほか、JR、航空会社、東北観光推進機構などの協力を得ながら、東北の祭りを共同でPRしています。そのベースの一つとなったのが東北6県の商工会議所ネットワークでもあります。
─商工会議所としては、どのような取り組みを行っていますか。
藤﨑 東北全体で風評被害の払拭と観光客、特にインバウンドの受け入れ拡大をより積極的に行っていくため、東北六県商工会議所連合会の事業として、韓国や台湾へのミッションを継続的に実施しています。そのほか、東北観光推進機構をはじめ他団体が主催する広域連携事業にも積極的に参加し、オール東北によるプロモーションを行っています。
こうした取り組みが実を結び、世界的に人気の旅行ガイドブック『ロンリープラネット』による「Best in Travel 2020」の訪れるべき地域で東北が第3位に、雑誌『ナショナルジオグラフィック』でも2020年世界で訪れるべき旅先「Best Trips」の冒険部門に選出され、昨年はニューヨーク・タイムズ紙で「2023年に行くべき52カ所」で盛岡市が2番目に紹介されるなど、東北が旅先として世界から注目を集める存在に成長してきています。引き続きそのポテンシャルに磨きをかけ、交流人口の拡大に力を入れていきたいと考えています。
今年は6月8・9日に開催 新たな一歩を踏み出す
─「東北絆まつり」も「東北六魂祭」から数えて3巡目に入り、今年は仙台市で開催されます。今年の祭りの位置付けとテーマについてお聞かせください。
藤﨑 昨年で「東北六魂祭」と「東北絆まつり」がそれぞれ一巡し、新たな一歩を仙台から踏み出します。6月8・9日の2日間、六つの祭りのパレードやステージイベントなどを展開し、45万2000人の来場者を見込んでいます。3巡目も継続して東北の魅力を広くPRしていくことで、東日本大震災からの復興と東北ブランドの強化、活力ある東北地域の発展を図るとともに、東日本大震災を経験した東北として能登半島地震の被災地に心を寄せ、未来への勇気と希望を少しでも感じていただける祭りにできればと開催に向け準備を進めているところです。
─インバウンドについては、どのような対策を行っていますか。
藤﨑 コロナ禍で運休した東北の各空港の定期便やチャーター便が22年末から次々に再開しました。台北便をはじめ、ソウル便、大連・北京便、上海便、バンコク便など、おおむねコロナ前まで路線回復したものの、東北を訪れる外国人の国内シェアはわずか1・4%(23年11月末現在)にとどまっています。初めて日本に来る外国人が最初の訪問地として東北を選ぶことは少なく、4回目以降にようやく東北を訪れるという調査結果があります。
東北へのさらなるインバウンド拡大には、国による地方への誘客重視の方針を取り込みながら、東北の魅力である自然や歴史、文化、食などさまざまなコンテンツを磨き上げ、認知度を高めていく取り組みを関係者が一丸となってさらに推し進めていかなければなりません。さらに、連泊や滞在時間を増やすよう、域内周遊も促進していく必要があると考えています。
─最後に、今後は「東北絆まつり」をどのように発展させながら、東北の観光振興を推進していくのか、展望も含めてお話しください。
藤﨑 来年の「大阪・関西万博」に参加し、世界各国に東日本大震災での支援に感謝を示すとともに、東北各県の食や特産品、伝統工芸品などもアピールし、東北への誘客につなげたいと思っています。そして、東北各地の夏祭りという共通する文化などを「東北絆まつり」というコンテンツでつなげ、デジタルツールも活用しながらオール東北でプロモーションを継続し、ほかの地域にはない東北のとがった魅力を国内外に発信し続けていくことが重要であると考えています。
これまで東南アジアからの人たちは、雪が多い冬の東北に魅力を感じて来訪いただいておりましたが、これからは四季を通した東北の魅力を多くの方々に体験いただけるとうれしいですね。
東北絆まつり2024仙台
開催日時 ※時間は予定
イベント:6月8日(土)10:00~20:00/6月9日(日)10:00~17:00
パレード:6月9日(日)13:30~16:00
開催内容
東北県庁所在地6市祭りのパレード、ステージイベント、東北地方の観光・飲食・物産PRブースほか
連合会データ
連合会名 : 東北六県商工会議所連合会
事務局 : 宮城県仙台市青葉区本町2-16-12(仙台商工会議所)
電 話 : 022-265-8181
※月刊石垣2024年3月号に掲載された記事です。
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