グローバル企業や大手投資ファンドの視線が今、インドに向いているのは間違いない。だが、インドの明るい未来を全面的に確信している人はまだ多くないだろう。世界最大の人口大国は確かに成長の勢いを感じさせるが、「世界の工場」と呼ばれ始めた頃の中国のような「発展への一本道」が明確に見えてはいない。「脱中国」の必要性とインドの潜在力に多くの企業は賭け、足を踏み入れつつある。
久しぶりに訪れたデリーは昔と変わらぬ「カオス」だった。気が遠くなるような道路の渋滞と人を拒むような大気汚染と高温、腐臭漂うスラム、道路脇に寝そべる牛たち。成長の成果は各所で見える建設ラッシュと走る車の新しさ、高架鉄道などにはっきり表れてはいるものの、取り残され、解決を待つ人々や物事の巨大さに重い未来も透けている。
対照的に、“インドの広東省”ともいうべき西部のグジャラート州は、成長街道を疾走していた。スズキを柱とする自動車産業はもちろん、州南部のドレラ特別投資地域には半導体産業の誘致が進み、ソフトウエアやシステム開発に偏っていたインドのICT産業は、いよいよハードウエアの製造に進み始めた。
グジャラート州最大の都市、アーメダバードには米欧のホテルチェーンが進出するなど、外国人の生活環境は一変した。筆者が十数年前に訪問した時には同州に居住する日本人がわずか3人だったことを考えれば、隔世の感がある。市中心部ではムンバイに向かう高速鉄道の建設が進んでいた。
ムンバイ中心部にリライアンス・グループが昨年開業したショッピングモール「ジオ・ワールド・プラザ」にはグッチ、ルイ・ヴィトンなど世界のラグジュアリーブランドが並ぶ。2003年あたりから上海、北京に開業した高級ショッピングモールとほぼ同じ雰囲気で、客はまだ少ないが、いずれはブランドに大きな売り上げ貢献をする予感を漂わせている。
ムンバイは人口密度が世界トップクラスである一方、港湾都市ゆえの開放感があり、交通渋滞もデリーよりはましだ。中央銀行であるインド準備銀行が立地し、二つの証券取引所は時価総額が急成長している。
デリーに行けばインドの複雑性が分かり、グジャラート州ではインドの可能性、ムンバイではインドの潜在力が見えてくる。日本の多くの中小企業にとってインドはまだはるか遠い国だが、2、3年後には現実的な進出先となることを想定しておいてもいいだろう。
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