昨年はインバウンドも含めた旅行客がコロナ禍前まで戻ってきた。旅先で欲しくなるのは、なんといっても買って帰りたくなる土産品。新年号は、もはや全国区となったあの商品の開発秘話や、地域の新名物を目指し“お土産”づくりに奮闘する企業の挑戦と自信作をお届けする。
青森県産の農産物から生まれた県民に愛され続ける万能たれ
近年、多数のメディアやSNSなどで取り上げられ、全国的に知名度が上がっている「スタミナ源たれ」。1965年の発売以来、青森県内の家庭の多くが常備し、県内でシェア1位を誇るロングセラー調味料である。当初はジンギスカンのたれとして発売されたが、「どんな料理に使ってもおいしい」と評判になり、現在では万能調味料として親しまれている。
農業協同組合として設立し羊肉推進のたれを開発
「スタミナ源たれ」は、地元青森県では親しみを込めて「源たれ」という略称で呼ばれている。このたれを製造販売する上北農産加工は、1951年にめん羊農業協同組合として設立。防寒衣料が十分でなかった時代に羊毛加工事業を行っていた。
その後、時代のニーズに合わせ、53年に上北農産加工農業協同組合と改称し、しょうゆ醸造および販売事業を開始した。このしょうゆは当初、農協の専売品として販売されていたという。
さらに65年、当時の日本の食生活改善の一環で、動物性たんぱく質摂取の取り組みが実施され、地元産の羊肉をおいしく食べられるようにという願いの下、「スタミナ源たれ」を開発し、販売開始した。発売当初のボトルには「成吉思汗(ジンギスカン)たれ」とも書いてあるこの商品は、羊肉の臭みを消すため、同社(当時は組合)が以前からつくっていたしょうゆに、青森県産にんにくやリンゴをはじめ、国産のタマネギやしょうがなどを配合した調味料だ。肉を焼いた後のつけだれというよりは、焼く前に肉にもみ込んでもらうため、粘り気の少ないシャバシャバした液状のたれである。 「たれのベースとなるしょうゆも自社でつくっているというのが、当社の最大の強みです。もともと農業協同組合ですから、農家さんとのつながりが強く、当時から地元でつくられていたにんにくやリンゴを使って、商品を開発しました。農家さんと共に歩む姿勢は、現在でも変わりません」と話すのは、同社事業部部長の三浦良行さんである。青森県産を中心とする国産の農産物を使用しているが、同社が規格外の野菜などの受け皿となって加工し、付加価値を高めて販売することで、農家の利益に貢献するという役割もあるという。野菜などの下処理は、機械で行うと実の部分までそぎ落としてしまうため、現在も手作業で丁寧に行われている。
発売直後からこのたれは、地元で「おいしい」と評判になり、販売数は年を追うごとに倍増したという。ほどなくして製造工場も手狭となり、同社は新工場を建設するなど、生産体制を拡充した。70年代後半には、県内でこのたれのテレビCMを流すなど、広告にも力を入れ、販売数は右肩上がりに伸びていった。
県民に愛される万能調味料 テレビ番組に登場し全国区
同社は94年頃から「スタミナ源たれ」をシリーズ化し、オリジナルのほかに塩だれなどを開発した。現在は「ソフト」「甘口」「減塩」など11種類あり、年間で計400万本が出荷されているヒット商品に育っていく。 「スタミナ源たれ」が評判となったのは、ジンギスカンや焼き肉のたれとしてだけではなく、牛バラ肉と大量のタマネギを甘辛いたれで炒めたご当地グルメ「十和田バラ焼き」をはじめ、あらゆる料理に使われるようになったからだと、三浦さんは説明する。 「家庭料理として一番人気なのは、鶏のから揚げです。肉の下味を付けるために使っていただいています。ほかにも、イカやサンマなどの竜田揚げ、炒めもの、鍋料理、炊き込みご飯など、いろんな料理に源たれを使っていただいています。当社からも使い方を提案していますが、使ってくださる皆さんがアイデアを考えてくれる感じですね」。三浦さんによれば、ユーザーに愛されている源たれは、今や青森県内の多くの家庭に常備される万能調味料となった。家庭だけではなく、県内の学校給食やホテル、飲食店などでも使われているという。
2008年、このたれが全国放送のテレビ番組で「青森県民の味」として紹介され、全国的に注目されるきっかけとなった。全国のスーパーなど流通関係者の目に留まり、引き合いが相次いだため、同社は一時、営業所を増やすなどして対応した。
県内外の食品メーカーとの数多くのコラボ商品が誕生
ちょうどこの頃、同社では新工場を建設しており、09年に新工場が完成した。源たれは、青森県内ではさまざまな料理に使われるため大瓶(390g入り)が主流だが、全国的なニーズを踏まえ、同社では中瓶(280g入り)の増産体制を整えた。さらに、販路も拡大し、県内外のスーパーなどのほか、鉄道の駅や空港、道の駅などでも販売されるようになった。県内のスーパーでは、正月やお盆など帰省客が多い時期になると、源たれの20本入り箱が陳列され、箱ごと買って行くという。「青森の味、青森のお土産として認知されるようになったと思います」と、三浦さんはうれしそうに語る。
「青森の味」として知名度が上がった源たれは、他社とのコラボレーション企画商品も開発されるようになった。きっかけは、11年に東北各県の味をポテトチップスにした商品が、期間限定で販売されたことだったそうだ。その後も、スナック菓子やおつまみ、インスタントラーメン、パスタソース、缶詰、コンビニのお弁当など、大手メーカーから地元の中小メーカーまで、多様なコラボ商品が企画され、県内外で販売されている。その多くは期間限定だったが、好評のため、販売期間が延長されたものもある。 「県内では『源たれは何にでも合う』といわれてきましたが、県外では焼き肉のたれという認識が強かったようです。でも、コラボ商品がいろいろ出たことで、源たれはさまざまな物に合う、ということが全国的にも知られるようになったと思います」と三浦さんは、意外な広がりに驚きながらも、自社商品の高評価に胸を張る。
廃棄される地域農産物から付加価値のある調味料へ
17年、同社はさらなる販売力の強化と売り上げ拡大を図るため、農業協同組合から株式会社へ組織変更した。翌年には、経済産業省「地域未来牽引(けんいん)企業」に選定されている。さらに令和元年となった19年には、平成の約30年間、食を支え、発展の責務を果たしたとして、日本食糧新聞社が制定し、農林水産省が後援する「食品産業平成貢献大賞」を受賞した。
同社ではこのほど、源たれシリーズの新商品として「たべるスタミナ源たれ」を発売した。これは、源たれのような液状ではなく、いわゆる「食べるラー油」のようなもので、ごはんなどにのせて食べる商品だが、固形部分には大豆ミートを使っているのが特徴だ。さらに、21年頃には調味酢「赤酢」を発売。これは青森県内の酒蔵から出る酒かすを使った商品である。 「残念ながら、酒かすの多くは廃棄されている状況です。これは規格外の農産物にも通じることなのですが、廃棄されるような物の受け皿となって、それらを加工し付加価値を高めて販売するというのは、当社の得意分野であり、他社がまねできないことだと思います」と三浦さんは、同社のこだわりを強調した。今後についても同社では「日本一の生産量を誇る青森県産のにんにくやリンゴを使い、そのほかも国産の原料を使用して、安心・安全でおいしいというのがキーワード」と話しており、青森県産を中心とする国産の農産物から生まれた調味料のおいしさを、さらに広めたいとしている。
会社データ
社 名 : 上北農産加工株式会社(かみきたのうさんかこう)
所在地 : 青森県十和田市大字相坂字上前川原76
電 話 : 0176-23-3138
代表者 : 小山田春夫 代表取締役
従業員 : 49人
【十和田商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。