昨年はインバウンドも含めた旅行客がコロナ禍前まで戻ってきた。旅先で欲しくなるのは、なんといっても買って帰りたくなる土産品。新年号は、もはや全国区となったあの商品の開発秘話や、地域の新名物を目指し“お土産”づくりに奮闘する企業の挑戦と自信作をお届けする。
飲んでよし、使ってよし 佐賀酒を有田焼で堪能できるカップ酒
佐賀県伊万里の地で、1909年から日本酒を醸し続けてきた古伊万里酒造。同社が2006年に発売した「NOMANNE(ノマンネ)」は、有田焼の器に純米酒を充填(じゅうてん)したカップ酒で、「魅力ある日本のおみやげコンテスト」や県民が選ぶ佐賀土産「S-1アワード」などにも選ばれ、土産や贈答品として人気を博している。
東京・新橋で着想を得た 「カップ酒×有田焼」
焼酎王国として知られる九州において、佐賀は日本酒県だ。全国有数の米の産地であり良質な伏流水にも恵まれ、古くから日本酒づくりが盛んに行われてきた。そのような歴史を受け、佐賀県では「日本酒で乾杯しよう!」という全国でも珍しい条例を制定し、県内の酒蔵をアシストしている。
この地から誕生したのが「NOMANNE」だ。日本を代表する磁器「有田焼」の器に、県産米を用いた純米酒を充塡したプチ贅沢(ぜいたく)なカップ酒である。2006年の発売から、「牡丹(ぼたん)唐草」「蛸(たこ)唐草」「橘」といった伝統柄が採用され、飲んだ後はコップや花瓶、ペン立てなどにも使えるとあり、土産や贈答品として重宝されている。ちなみに「ノマンネ」とは佐賀の方言で「飲みませんか」という意味だ。
同商品が生まれたきっかけは意外にも東京・新橋だと、製造元の古伊万里酒造四代目、前田くみ子さんは切り出した。 「有田で焼き物の商社をしている親戚が、新橋のガード下にある飲み屋に行ったら、店内にカップ酒がずらっと陳列されていたそうなんです。直感的にあの容器がガラスではなく焼き物だったらすごくきれいだし目立つだろうと考え、うちでつくってみないかと持ち掛けてきたのが始まりです」
日本酒の需要は、1970年代前半をピークに減少傾向に推移している上、当時は本格焼酎ブームの真っ最中だった。しかし、その陰でひそかにカップ酒にも注目が集まっていたという。 「ちょうど蔵開きが終わって新酒があるので、器をつくって5月の有田陶器市でテスト販売しようという話になりました。陶器市には毎年120万人くらい訪れるので、新商品を見てもらう絶好のチャンスだと思いました」
当初から土産物需要を想定して販路を獲得
早速、付き合いのある窯元に円筒形の器の製作を依頼し、そこへ有田焼の伝統柄を転写しようと考えた。ところが、思いの外製作は難航した。既成のシルバーキャップは直径64㎜と決まっているが、磁器は焼くと収縮するため、キャップとサイズが合わないものも出てきてしまうのだ。ある程度、規格外品が出ることを織り込みながら、何とか陶器市販売用に200個をつくり上げた。 「当時、有田焼に食品が入った商品はほとんどなかったので、いくらで売ろうか悩みました。コップとして売れば3000円の価値があっても、お酒が入ると食品扱いになって2000円くらいに価値が落ちてしまう。とはいえ、通常は200~300円のカップ酒を2000円で売ったらどう思われるのか。考えた末にまずは1000円で販売することにしました」
販売に先立って各メディアにリリースを送ったところ、西日本新聞が大きく取り上げてくれた効果もあり、何と初日の午前中で完売した。会場でいくつか酒漏れが見つかった商品を除外していたが、「それでもいいから売ってくれ」という人さえいたという。予想を上回る反響を受け、同社は商品化に向けて佐賀県産品ブランド化支援事業アイデアコンテストに応募。銅賞を受賞し、1本1500円(現在は2000円)で販売を開始した。 「一般の酒屋さんでの取り扱いは難しいでしょうから、当初から土産物としての需要を想定していました。そこで情報発信力の高い新宿伊勢丹に営業をかけ、扱ってもらえたことがその後の販路拡大につながりました」
見た目のインパクトもあり、その後、同商品は土産物店やこだわりの酒屋などから引き合いが来たほか、企業の記念品に採用されるなど、付加価値のある土産物として人気を博していく。
インバウンドの需要喚起や海外展開にも注力
年間約6000本を売り上げる看板となった同商品に、22年、2種類の新柄が加わった。佐賀酒を中心とした県産品を扱う「SAGA BAR」公式通販や佐賀空港内の土産物屋「sagair(サガエアー)」で限定販売され、注目を集めた。 「16年ぶりの新柄は、わが家の倉庫にあった器の柄を職人さんに描いてもらったオリジナルです。珍しさも手伝って大変好評です」
新柄は2本セットのみの販売で5000円と安価ではないが、佐賀県民が魅力ある佐賀土産を選ぶ「S-1アワード2024」厳選30選の一つに選ばれ、売れ行きは好調だ。日本酒の需要低迷の新たな突破口を切り開いた前田さんは、今後どのような展望を描いているのだろうか。 「去年の米不足に端を発してお米の価格が高騰している中、小さな酒蔵が農家と一緒にやっていくには、原料の見直しやつくり方を工夫して売れるお酒をつくらなければなりません。『NOMANNE』の経験を生かしてさらに土産物需要を喚起しつつ、海外展開にも力を入れていきたい」と語る。
会社データ
社 名 : 古伊万里酒造有限会社(こいまりしゅぞう)
所在地 : 佐賀県伊万里市二里町中里甲3288-1
電 話 : 0955-23-2516
代表者 : 前田くみ子 代表取締役
従業員 : 10人
【伊万里商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。
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