相変わらず全国各地で自然災害が起きているが、2011年に発災した東日本大震災から14年がたつ。東北の被災地の完全復興にはまだ時間がかかるが、新たなビジネスに挑戦している企業は少なくない。今号では、東北各地で頑張る企業の取り組みを紹介し、今、復興に取り組む各地の被災地へ元気を届けたい。
日本最大級の体験型観光農園でさらなる交流人口の増加を目指す
仙台駅に開業したショッピングセンター「S-PAL」の運営会社として発足した仙台ターミナルビル。同社は東日本大震災で被災した仙台市荒浜地区の復興の一助を担うべく、2021年に「JRフルーツパーク仙台あらはま」を開業した。1年を通して旬の果物を栽培・出荷するだけでなく、来園者が収穫できる体験型観光農園としてにぎわいを生み出している。
農園事業で地域を活性化 震災復興の一助に
仙台市中心部から10㎞ほど離れた太平洋沿岸部に位置する荒浜地区は、東日本大震災発災時に10mを超える大津波に襲われ、壊滅的な被害を受けた。大震災から10年後、その地に誕生したのが「JRフルーツパーク仙台あらはま」だ。イチゴ、ブドウ、リンゴなど8品目150種類以上の果物を栽培し、1年を通して旬の果物の摘み取り体験ができるほか、カフェ・レストランやマルシェなどを擁する。JR東日本の連結子会社で、東北各地でショッピングセンター(SC)事業やホテル事業などを展開する仙台ターミナルビルが運営する観光農園だ。 「鉄道会社がなぜ果物づくり? と思うかもしれませんが、宮城県は農業県でもあります。1次産業が沈んでいくと地域経済も元気を失って、旅行にも来てもらえなくなってしまいます。地域と連携して農園事業、それも観光農園を展開することで、少しでも震災復興のお役に立てればと思ったことがきっかけです」と、同社社長の松崎哲士郎さんは説明する。
事の発端は、2012年にJR東日本グループが打ち出した地方創生と活性化への構想だ。同社は、それを受けて農園事業に乗り出し、16年より「せんだい農業園芸センター みどりの杜」の運営を開始した。同施設ではトマトのほか、5種類の果物を栽培しており、旬の味覚狩りが楽しめる。園で収穫した新鮮な果物を使ったジェラート工房やレストラン、交流エリアなどもあり、市民をはじめ多くの人の憩いの場となっている。
その実績が評価され、同社は市が公募していた防災集団移転跡地利活用事業に採択される。これは津波被害により条例で住むことができなくなった荒浜地区に新たな魅力を創出する取り組みで、18年からおよそ11 haにも及ぶ土地の開発に着手した。 「当社がここに観光農園をつくろうと思ったのは、隣の山形県や福島県と比べて宮城県には果樹園が少なく、大規模な観光農園もなかったからです。そこで地域の農家さんや、復興に関わる方たちとの連携を模索しながら整備をスタートさせました」
数々の課題を一つずつ解決 震災10年の節目に開業
もともと住宅地だった土地を農業地に転用するには、土質・土壌改良が必要だ。同地は塩害も受けているため、市が土の入れ替え作業を行っている間に、農園で使用する井戸水のボーリング調査や塩分濃度の調査などを行った。また、この辺りは基本的に砂地のため、水や肥料などを蓄えておく能力が低い。そこで土壌へ適切に水を補充するために暗渠(あんきょ)(地下に設けた水路)を設けた。さらに、海風対策として防風ネットを設置したほか、風の影響を受けにくいジョイント栽培を取り入れることにした。 「ジョイント栽培というのは、果樹同士を接ぎ木でつなげて1本の樹木のように仕立てる栽培技術です。成長度合いが均一になって果実の品質も一定になるほか、樹高が低く抑えられて摘み取りもしやすいというメリットがあります」
さまざまな整備を行った後、20年冬の開業を目指して果樹1万2300本、イチゴ1万3000本の苗の移植を開始した。作業は同社のホテルやSC事業社員から希望者を募って行った。 「社員を動員したことは結果的に良かったと思っています。コスト面もありますが、普段のデスクワークと違って土を耕したり、苗を植えたりすることを楽しんでいましたし、何より“私たちが農園をつくる”という意識も芽生えて、作業は順調に進みました」
ようやく開業できると思った矢先、襲ってきたのが新型コロナだ。人の往来が制限され、輸入資材の調達が遅れるなどのイレギュラーもあり、開業の延期を余儀なくされたが、震災10年の節目という意義を込めて21年3月18日、オープンにこぎ着けた。