相変わらず全国各地で自然災害が起きているが、2011年に発災した東日本大震災から14年がたつ。東北の被災地の完全復興にはまだ時間がかかるが、新たなビジネスに挑戦している企業は少なくない。今号では、東北各地で頑張る企業の取り組みを紹介し、今、復興に取り組む各地の被災地へ元気を届けたい。
地方発オリジナル文具を世界へ発信 本屋ブランディングで個性を発揮
全国的に苦境に立たされる書店が多い中、創業330年余りの老舗書店・八文字屋は好調だ。書籍の販売だけではなく、オリジナル商品の開発・販売を強化し、今や全国にファンを持つ。2024年8月に出展した、ニューヨークの世界的な文具の展示会「Stationery Fest 2024」でも好評を博した。山形から世界へ、その勢いに拍車を掛ける。
「本+α」で客足を絶やさない
今や「書店ゼロ」という自治体は、全国の27・7%に上る(24年3月現在。出版文化産業振興財団調べ)。その中で、1695年創業の八文字屋は、黒字経営を続ける。山形県に本店を含めて8店舗、宮城県仙台市に2店舗を構え、客足を絶やさない。 「書店が減り続けている時代で、うちも売れる店、そうでもない店はあります。しかし、総じて好調です。工夫しているのは、立地やお客さまに合わせた店づくり。例えば、中心市街地にある本店は、郊外に大型ショッピングセンターができて客足が減ったことがありました。そこでサイン会や文具フェス、ジャズライブなど多種多様なイベントを企画して、県外から足を運んでもらえる新たな流れをつくっています。本を買う以外に、空間やコミュニケーションを楽しむ場として機能しています」
そう語るのは代表取締役副社長の五十嵐勇大さんだ。本+αの世界観を大切にし、八文字屋で本を買うことがステイタスになるブランディングを意識しているという。
同社は江戸時代から続く老舗だが、その歴史は変化の連続だ。和紙問屋に始まり、特産の紅花や青苧(あおそ)、漆などの荷受問屋、上方で人気の八文字屋本という浮世草子(挿絵入りの大衆小説)の貸本業、そして明治時代にはいち早く西洋文具と書籍の小売り、印刷業に乗り出した。1950年代には地元の老舗企業らと「丸久デパート」(2000年閉店)を開業するなど、いつの時代も地域活性化を軸に、業態を変えながら事業を展開してきた。
山形の風景や観光施設を作家起用しブランド化
その八文字屋が5年ほど前から注力しているのがオリジナル文具の開発・販売だ。五十嵐さんもMD(マーチャンダイジング)として中核を担う。「サブMD」と謙遜するが、25歳までカーレーサーとして活躍後、サンフランシスコのベンチャー企業の出版事業に携わり、その後、その親会社である小学館集英社プロダクションの通販事業部でバイヤーとして商品企画・販売を数多く手掛けた。12年の実績が即戦力となり、オリジナル商品の販売強化につながっている。
オリジナル文具の人気をけん引したのがオリジナルインクだ。万年筆インクブームの火付け役といえば、07年にパイロットコーポレーションが発売した、日本の風景をモチーフにした万年筆インク「色彩雫(いろしずく)」がある。それを参考に、山形の四季の彩りをモチーフにしたインクを販売した。インクは、鶴岡市にあるクラゲ展示数世界一の加茂水族館のクラゲドーム、長井市の樹齢1200年の久保ザクラ、銀山温泉の冬景色などを細やかに表現し、インパクトを与えた。これが〝インク沼〟〝万年筆沼〟と呼ばれるブーム再燃の波に乗る。同色のオリジナル万年筆も注目を集め、山形在住のイラストレーター・mizutamaさんとコラボしたマスキングテープも人気を博した。以来、インクや手帳、トートバッグなど横展開し、八文字屋ブランドの柱の一つになっている。
ブランドの認知拡大に活用したSNSも奏功した。発送遅延を知らせるためにも利用するなどの誠実な対応と、オリジナル商品のデザイン性、地域性が、商品購入者を中心に拡散され、インスタグラムのフォロワー数は、1万4000人を超える(25年1月現在)。県外、海外のフォロワーもいて、24年3月には、ニューヨークで開催される世界的な文具の展示会「Stationery Fest 2024」から、出展依頼の声が掛かった。
米国の文具フェスでほぼ完売の人気を博す
「フェスは3日間の開催で、初日はオープン前から長蛇の列。米国の文具熱の高さを目の当たりにしました。うちの商品を、イベント関係者やほかのブースの方も購入してくれて、初見の現地のお客さまも『キュート、キュート』と言ってくれて、ほぼ完売。海外でも通用する手応えを感じました。時間を見つけて書店巡りをしましたが、どの店も独自性があって、にぎわっていたのが印象的でした」
現在、同社の万年筆の一部は、紀伊國屋書店のニューヨーク店で取り扱われており、25年8月にはサンフランシスコ国際ペンショーへの出展を予定している。 「ゆくゆくは現地のパートナー企業を見つけて、海外店舗を持てたらと考えています。米国、台湾、シンガポール……、場所はまだ漠然としていますが、イベント出展を通して現地リサーチしながら絞り込んでいきます」と五十嵐さん。自分自身がワクワクする商品かどうか、遊び心の延長上にあるものづくりをブレずに続け、世界中にファンを増やしたいと、次の一手のさらに先へ、思いをはせる。
会社データ
社 名 : 株式会社八文字屋(はちもんじや)
所在地 : 山形県山形市本町2-4-11
電 話 : 023-622-2150
HP : https://www.hachimonjiya.co.jp
代表者 : 五十嵐太右衞門 代表取締役
従業員 : 53人
【山形商工会議所】
※月刊石垣2025年3月号に掲載された記事です。