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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 アジアの宇宙開発ブーム

2019年1月、月探査任務に成功した「嫦娥4号」着陸機(1月11日撮影) 写真提供:中国国家航天局/新華社/共同通信イメージズ

アジアで宇宙開発ブームが起きている。先頭を走るのは中国で、今年1月、史上初となる月の裏側への無人月面探査機「嫦娥4号」の着陸に成功した。中国は、2020年代前半には有人の月面着陸を目指している。成功すれば、1972年12月の米アポロ17号以来、半世紀ぶりの人類の月面到達となり、月探査の面でも中国が米国と肩を並べることになる。

一方、注目すべきはインドだ。インド宇宙研究機関(ISRO)は6月、今年7月15日に月面探査機「チャンドラヤーン2号」を搭載したロケットを打ち上げると発表した。これは月の軌道を回る衛星、着陸船「ビクラム」、月面を走る探査ローバー「プラギヤン」で構成され、米国、ロシア、中国に次ぐ月面着陸四番手を目指している。インドの月探査は米国や中国の10分の1以下の低予算で賄われており、アジア各国を勇気づけている。

中国、インドほどではないものの、タイやインドネシアなど東南アジア各国でも米国や中国、日本などのロケットに搭載した自国の人工衛星を次々と宇宙空間に送り出している。最近、注目されたのはベトナムが1月に宇宙空間に送り出した初の純国産人工衛星「マイクロドラゴン」で、日本のイプシロン・ロケットで打ち上げられた。重さ50㎏と本格的な衛星で、海水の水質や海洋資源の探査などを主に行うもので、36人のベトナム人科学者・エンジニアが製作した。

インドネシアは、これまでも通信衛星を他国のロケットで打ち上げているが、現在、自前のロケット開発を進めている。タイも、通信用や気象観測用の人工衛星を早くから宇宙空間に送り出している。

アジアで宇宙開発ブームが起きているのは、米国のスペースX社のように低コストで衛星を宇宙空間に運べる環境が整ってきたこともあるが、アジア各国の科学技術のレベルが上がり、自前で人工衛星を製作できる能力が付いてきたことが大きい。アジアでは台風や地震・津波、火山噴火など自然災害が多く、自国の気象観測、自然現象の解析などの必要性が高いという事情もある。日本は中国、インドほど派手ではないが、「はやぶさ2」など宇宙開発では大きな実績を上げていることに加え、東南アジア各国の衛星打ち上げに協力し、宇宙空間の平和利用の面でも信頼を得ている。

宇宙への関心が高まることは、その国の科学技術が高まり、産業国家としての基盤が拡充することも意味する。それは、日本にとって注目すべき〝変化の芽〟と言えるだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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