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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 米中対立により迫られるアジア製造業の大転換

2018年12月、会談に臨むトランプ米大統領(右端)と中国の習近平国家主席(左端)(ブエノスアイレス) 写真提供:ロイター=共同

米中経済戦争は、ついに両国がお互いの輸入品の大半に25%の追加関税を課す段階までエスカレートした。両国首脳が突然、和解する可能性はあるが、米中間は貿易だけでなく、産業競争力、先端技術、グローバルリーダーシップなど全面的な対立と言ってよい。今の米中関係を最も適切に表現する中国のことわざは「一山不容二虎」。「一つの山には二頭の虎はすめない」という意味である。米中の対立は覇権争いであり、追加関税の有無にかかわらず、今後長く続くものとなる。

では、経営者は今、何を見るべきなのか。ビジネスに最も大きな影響を与えるのは前にも本欄で触れた中国からの生産拠点の流出と、それがもたらすアジア全体のモノづくりの新陳代謝である。すでに中国から電子・電機・機械を中心に工場流出が現実化している。スマートフォン、パソコン、カラーテレビなどのグローバル市場向けの生産拠点は中国から移転するだろう。「追加関税が撤廃される可能性があるなら、工場を中国に残したまま様子見をする」という考え方は危険だ。追加関税がいったん撤廃されたとしても、その効果を知った米国は再び、その〝武器〟を使う可能性が高いからだ。

産業集積の転換は不可逆的な変化であり、その波に早く乗った者が勝ち残る。ミャンマーであれ、バングラデシュであれ、先に進出した企業が交通の便のいい土地、優秀な人材、地元政府との良好な関係を得るものだ。インフラが未整備なうちに進出することにはリスクがあるが、遅れて進出するリスクに比べれば、それは小さいものだ。

1985年9月のプラザ合意以降の日本企業の東南アジアへの転換を思い出していただきたい。急速に進む円高が止まることを期待して日本にとどまった企業にはその後、厳しい試練が待っていた。

新陳代謝はチャンスももたらす。90年代、日本の自動車メーカーのタイへの工場進出に先行して、いち早くバンコク郊外に進出した東京都の零細金属加工メーカーがあった。日本での事業に限界を感じた二代目が世界を回り、どうやらチャンスがありそうだと見定めたのがタイだった。当初、受注に苦しんだものの、加工メーカーを探していた日本の自動車メーカーへの納入に成功、好循環が始まり、今や東南アジア最大級の金属加工メーカーになった。 「企業家とは変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する者である」(ピーター・ドラッカー)

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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