いわゆる3K労働とは、「きつい・汚い・危険」の頭⽂字を取った⾔葉で、建設業界周辺で言われてきた。しかし近年、社内環境の整備やDX導⼊といったイノベーションに挑み、「給与・休暇・希望」を備えた“3K企業”に変貌し、人材確保や業績アップにつなげている企業もある。このような企業の考え方や手法は、他業界にも通じる部分があるのではないか。
“公衆トイレ”に人が集う 経営改革×地域おこしで交流を促進
半世紀以上、水道工事業を展開してきた石和設備工業が、「トイレ」にフォーカスして新規事業を立ち上げた。インパクトのあるトイレデザインは、地元の飲食店で話題となり、2022年には自社の敷地内に公衆トイレ「インフラスタンド」を開設。斬新な地域のコミュニティスポットとして、人が集まり始めた。3Kを払拭しつつ、事業領域や求人において新たな流れを生み出している。
目に見えない水道工事を毎日目にするトイレでPR
蛇口をひねれば水が出る。当たり前すぎて、その維持管理まで意識が及ぶことはあまりない。生活インフラ事業は、とかく〝縁の下の力持ち〟だ。1969年創業の石和設備工業もまた、地域の上下水道工事業を担ってきた。バブル崩壊や東日本大震災などの外的要因で、倒産寸前まで追い込まれたが、二代目代表取締役の小澤大悟さんが売上高より粗利益優先の経営改革を進め、難を逃れた。 「所沢商工会議所の会報誌『Sora』に掲載の、税理士・関根威先生(SMC税理士法人)の連載コラムを愛読していて、セミナー参加をきっかけに顧問になってもらえたことが、経営回復の糸口になりました。粗利益の期待値別に顧客を振り分け、顧客を増やすのではなく、関係性を深める、地域密着型の〝信用ビジネス〟に徹し、粗利益率を50〜60%確保できるようになったのです。とはいえ、水道工事業界の高齢化、慢性的な人手不足は深刻です。全国的にインフラの老朽化が進んでいて、2027年以降にさらに加速するといわれています」
水道工事業界の認知向上とイメージアップ、そして自社の人材採用強化は待ったなし。小澤さんは、課題解決に「見えない事業の見える化」が必要と捉え、トイレに着目した。
人が早々に離れるトイレを人が集うイベント会場に変換
19年、小澤さんが新たに立ち上げたのが、トイレ広告事業「KAWAYA―DESIGN」だ。 「ラッピングバスや車のタイヤのホイール装飾などをヒントにしました。飲食店を中心に、トイレのふたにお店のロゴや店主の顔などのオリジナルデザインを施し、トイレ空間を一新することで店舗の認知拡大、集客アップを図るトイレ広告です。所沢商工会議所からの情報提供で、20年に幕張メッセで開催された『イベント総合EXPO』にも出展し、事業は勢いづきました」
宿泊事業者や大手エンターテインメント事業者などからの引き合いもあった。だが、商談まで進んでも、トイレそのもののネガティブイメージで頓挫してしまう。 「それならトイレそのもののイメージアップを図るしかない、と本社敷地内にトイレのショールームを計画しました。それも、まちに開かれた公衆トイレです。屋外イベントはトイレの有無、清潔度で滞在時間が変わります。地域コミュニティの拠点となるトイレづくりを試みました」
