ヒューマングループは、自動車教習所と観光事業を中核に事業を展開している。1990年代から社内システムの構築に取り組み、業務の効率化と情報共有の仕組みづくりを進めてきた。2025年、日本DX大賞優秀賞を受賞した同社は、これらの取り組みを単なるIT導入ではなく、経営と組織の在り方を見直すプロセスとして位置付けている。
100万円の投資から始まったシステム刷新
1953年、創業者の内海幸輝さんが自動車教習所事業で会社を立ち上げ、二代目の内海和憲さん(現会長)が観光事業にも進出した。2024年、ヒューマングループの三代目社長に就任した内海梨恵子さんはこう語る。
「こうした各事業の中で積み重ねてきた業務の回し方や仕組みづくりの経験が、次の事業を生み出す力になると考えています」
同社のデジタル化は、DXブームよりはるか以前の96年に始まった。ソフトバンクの支援を受けて社内業務システムを構築し、01年には「情報化促進貢献企業」として経済産業大臣表彰を受賞。内海さんが入社した03年には、すでに社員一人一人にパソコンが配備されていた。
しかし、長年運用されてきた基幹システムは、クラウドやモバイルへの対応を遅らせる要因にもなった。教習指導員やバス運転士にとって業務中にパソコンを立ち上げること自体が負担だった。また、業務の実行や確認が担当者の記憶に委ねられている点もかねてより課題だった。
そこで内海さんは必要なタイミングで通知が届き、そのまま作業まで進められる「秘書のような仕組み」を考えるようになった。しかし、あらゆるツールを検証したものの、採用には至らなかった。 転機は、チャットやドキュメントなどを軸に、コミュニケーションツールと一体化して業務全体をまとめるノーコードツール「Lark(ラーク)」との出合いだった。データを一元管理しながら、現場のコミュニケーションまで完結できる条件をクリアした。
約30年使い続けた基幹システムの刷新は、「約100万円という小さな投資」から始まった。「経営側が全体像を描けていないと、ツールだけが増えます。DXを担うのは、ITが得意な若手とは限らず、経営に近い管理側が構造を設計し、ITに強い人材が支える体制が最も機能します」。現場から改善要望が上がっても、まず問うのは、「その業務は本当に必要か」。やらなくていいことを決める判断そのものが、DXの価値だと内海さんは考えている。
長年の仕組みを切り替える際、現場の反発はほとんどなかった。90年代から続く「情報を残す」文化と、経営判断への信頼が背景にある。
AIの活用も考え方は一貫している。チャットや業務フローにAIを組み込み、要約や確認を裏側で補助させることで、人が意識せずとも業務が進む状態をつくった。こうした仕組みによって、現場では誰かの様子をうかがったり、声を掛け合ったりしなくても業務が回るようになった。以前は1時間近くかかっていた稟議やリマインド対応も、工数やストレスが大幅に軽減された。
