航海に地図と羅針盤が必要なように、地域づくりにも現状を示す客観的なデータが欠かせない。久保田城の城下町として、また北前船の寄港地・土崎港(つちざきみなと)と共に栄え、日本で最初に市制を施行した31市の一つである人口約30万人の「秋田市」について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
静かな縮小均衡の懸念
「生産→分配→支出」と所得が流れる地域経済循環の構造を見ると、秋田市は生活・都市サービスの集積を基盤とする典型的な「中心都市型」である。「生産」段階では、第3次産業が付加価値額(GRP=域内総生産)の83%を占め、医療・介護などの「保健衛生・社会事業」が最大の産業となっている。「ガス・熱供給業」の特化係数は5近くに達し、「公務」「小売業」「水道業」など住民の生活を支える産業に厚みがある。「分配」段階では、拠点性を背景に域外から就業者を集めているため雇用者所得は流出している(その規模はGRPの3・4%)。その他所得は、巨額の財政移転があるものの、域外本社への利益移転も大きく、流入額は少額にとどまっている。
「支出」段階では、域外からの来訪者が多く民間消費は778億円(GRP比6・3%)流入する一方、民間投資は流出傾向にある。域際収支に当たるその他支出は、厚みがある第3次産業が2373億円の黒字を稼ぐ一方、第2次産業を中心とする流出が大きく705億円の赤字(移輸入超過)を計上している。この結果、労働生産性(従業員1人当たり付加価値額)は826・9万円(全国第710位)、住民1人当たり所得は410・8万円(同1377位)にとどまっている。
注目すべきは、各段階の流出入の規模が総じて小さく、一見安定して見えることだ。しかし人口は自然減が拡大、2050年には22万人と20年比28・2%減と推計され、稼ぐ力を再構築しなければ、拠点性を保ったまま静かに縮小均衡へ向かう恐れがある。
ローカルファーストの実践を
ではどうするか。鍵は集積のある小売業の高付加価値化、地域の有形無形の資源を活用した商品・サービスの開発、それらを担う地域企業の創出である。これらを通じて、消費の流入を増やし流出を抑え、循環に厚みを持たせたい。地域に残るお金は「集まる×消費する×域内調達する」の掛け算で決まり、売上高だけでなく、原材料や人材をどれだけ域内で賄えるかという「内製化率」まで意識することが、稼ぐ力を底上げする。
ただ、地産地消の名の下に全てを域内で賄うのは非現実的で、かえって効率性を損なう。地域でできることは地域で担い、できないことは得意な地域と連携する、この「ローカルファースト」の視点に立った消費が「BUY LOCAL」である。
身近な実践例は、秋田商工会議所が事務局を担う秋田かやき協議会の「秋田かやきレシピコンテスト」だ。文化庁「100年フード」認定の郷土料理「かやき」を核に市民からレシピを募り、グランプリ作品を地元スーパーが県産食材で商品化・販売する。地域の無形資源が、市民の参加を得て域内で付加価値とにぎわいに転じる好循環が生まれている。
秋田市には磨けば光る資源がまだ多い。豪雪の山村を食の目的地に変えた富山県南砺市のオーベルジュ「レヴォ」は、食材から器・家具まで「メード・イン・富山」で統一し、一皿ではなく土地まるごとを売る。秋田市も、24年にユネスコ無形文化遺産となった「伝統的酒造り」を生かした県産酒のブランド化や、同会議所が企画展で発信する秋田銀線細工などを束ね、食・工芸・観光で「ここでしか味わえない理由」を打ち出せるはずだ。仮に市民30万人が月千円を地元に振り向ければ年36億円の需要が生まれ、波及効果は45億円を超える。市民が買いたくなる商品の企画・開発まで支援することも重要である。
これらの効果は生産・分配・支出の各段階に相互に波及するため、個別ばらばらではなく統合的に進める必要がある。地域の事業者を束ねる商工会議所を軸に、官民でビジョンを共有し、定期的に対話する仕組みが欠かせない。
地域の有形無形の資源を生かす「BUY LOCAL」、いわば「BUYあきた」を合言葉に、消費と投資を呼び込み、地域経済循環を強く太くしていく。これが秋田市のまちの羅針盤である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
