野中産業
福岡県北九州市
人手集めから会社を起こす
福岡県北九州市の瀬戸内海側、大阪や神戸に向かうフェリーの港のそばに、運送や倉庫業、港湾荷役などを営む野中産業はある。創業は明治39(1906)年、創業者の野中亀吉が19歳のときに旧・小倉市、現在の北九州市小倉北区で「野中組」を設立したのが始まりだった。
「東京の大手ワイヤーロープメーカーが小倉に工場を建てることになり、人手が足りなかったことから、創業者の亀吉は人集めを頼まれました。亀吉は小倉で農業をやっていましたが、農作業で忙しい時期には近所の人を集めて手伝ってもらったりすることもあったのでしょう。そのために声がかかったのだと思います」と、三代目の野中真一郎さんは説明する。 工場完成後は、その工場の原料受け入れや製品の梱包(こんぽう)、構内の修繕などを請け負っていた。
亀吉には3人の息子がおり、後継ぎとなる長男とともに野中組の業務を行っていたが、戦時中に長男と三男が戦死したため、東京の企業に勤めていた次男が戻ってくることとなった。「これが私の父、誠ですが、父はもともと後を継ぐつもりはなかった。ところが家から戻ってこいという連絡があり、勤めていた会社の上司に相談すると、この会社に勤めていれば取締役くらいにはなれるかもしれないが、社長にはなれない。でも、家に戻ったらお前は社長だぞと言われ、それもそうだなということで帰ってきたそうです」
戦後は二代目が中心となって会社を運営し、工場内の仕事だけでなく、そこで出る鉄のスクラップを加工して販売するなど、工場外の仕事もするようになっていた。
勤勉さで顧客の信頼を得る
取引先のワイヤーロープ工場に原料を卸していた鉄鋼メーカーは、鉄のスクラップで原料を製造していたが、戦後の復興でスクラップが足りなくなっていた。取引先の工場から九州でスクラップを集めるよう頼まれた二代目は、筑豊の炭鉱に行くなど九州各地でスクラップを集め、それを鉄鋼メーカーに納入する仕事も始めた。
「ところが昭和30年代に入ると、その鉄鋼メーカーが溶鉱炉を導入したため、スクラップが不要になりました。スクラップ業のほうも大きな収入源だったので、困った二代目が鉄鋼メーカーに相談に行くと、それなら材料や製品の運送をやらないかと言われたのです。そこで、小倉で船より鋼材を陸揚げし、貨物列車に積み込んだり、トラックで近場に運んだりという仕事を、細々と始めました。そのうちに取り扱う量が増え、鉄鋼メーカーの物流中継基地となっていきました」
このように取引先からさまざまな依頼や提案をもらうことができたのは、どの取引先の仕事に対しても誠実に取り組んできたからだと真一郎さんは言う。「創業者が会社を始めたのはまだ19歳のときでしたが、真面目で勤勉な人で、それで取引先の信用を得ていたといいます。二代目もそれを受け継いで誠実に仕事をしていました。だからこそ、スクラップが必要になったときにはそれを集める仕事をいただき、その仕事がなくなって相談に行ったら手を差し伸べていただき、運送の仕事を依頼されたのだと思います」
事業に取り組む姿勢は変えない
真一郎さんが子どものころはまだ小倉に本社があり、自宅も兼ねていたため、会社の中で育ったようなものだという。「なので、小さいころは会社の人からあなたが後を継ぐんだと言われて育ってきました。父から直接言われたのは、この仕事は社長一人でやっているのではなく、社員さんがいて、その後ろには社員さんの家族がいるんだぞと。その人たちを守っていくのは社長の責任だぞということでした。また創業者は、税金は国や地域のために役立つものだから、しっかり利益をあげて税金を納めるのはいいことなのだと言っていたそうです。私もこれら先代の思いを強く持って、仕事に取り組んでいます」
会社がいま目指しているのは、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)カンパニーになることだという。3PLとは、荷主に対する物流改革の提案から運営までを包括的に受託し、荷主と共に最適な物流を構築するビジネスです。「創業者も二代目も、取引先から新たな仕事のお話をいただいたときに、それが初めてやることでも迷わず取り組んでいきました。私もそれに倣い、取引先の仕事には誠実に取り組むとともに、進取の精神とビジョンを持ち、新たな方向に踏み出していきます」と、真一郎さんは決意を新たにする。
瀬戸内海は穏やかな海に見えるが、潮の流れは速い。野中産業も同じように、長年の顧客の仕事を確実にこなしつつ、新たなビジョンを持って次の時代を目指す。
プロフィール
社名:野中産業株式会社
所在地:福岡県北九州市門司区新門司1-9-4
電話:093-481-6464
HP:http://www.nonaka-sangyou.co.jp/
代表者:野中真一郎 代表取締役社長
創業:明治39(1906)年
従業員:50人
※月刊石垣2019年3月号に掲載された記事です。
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