湯沢屋
栃木県日光市
参拝客を相手に商売を始める
江戸幕府初代将軍・徳川家康がまつられている日光東照宮には、江戸時代後期ごろから多くの参拝客が訪れるようになっていた。東照宮に向かう道の途中にある湯沢屋は、文化元(1804)年の創業以来200年以上にわたり、この地で特製の酒まんじゅうを参拝客や観光客たちに販売している。
「髙村家は元禄以前からあり、もともとは山中湖周辺の出のようです。甲斐の武田家が滅び、甲州が徳川家に統治されたことが縁で、うちの先祖は東照宮のある日光に来て住み着き、湯沢屋と名乗って、参拝客を相手にお茶屋みたいなことを始めたのだと思います」と七代目の髙村英幸さんは言う。
湯沢屋では創業当時から酒まんじゅうをつくり続けている。酒まんじゅうは、こうじが発酵することで小麦の皮が柔らかく膨らむ工程が酒づくりの工程と似ていることから、その名が付いている。湯沢屋では、その伝統的な製法を変えることなく今に伝えている。
「日光にはうちより古いようかん屋さんがあるので、それとは違うものをということで酒まんじゅうをつくり始めたのでしょう。明治時代に入ってからつくり始めたようかんと酒まんじゅう、この二つだけでずっとやってきました。日光は東日本随一の歴史ある観光地で、明治政府も外国からの要人を接待する際に使うことが多く、早くから鉄道が敷かれて国際観光都市となっていました。日光では私が子どものころから、あちこちに英語表記の看板があったほどです。うちの店も、日光でなければ200年も続かなかったと思います」
本物のつくり方にこだわる
酒まんじゅうは日本各地にあるが、湯沢屋はその伝統的な製法にこだわりながらも、そこに店独自の手法を取り入れたものをつくっている。材料はもち米、小麦粉、こうじ、小豆、砂糖のみ。こうじづくりから始め、そのこうじと創業以来受け継いできた天然酵母でもち米を発酵させて甘酒をつくる。その甘酒の搾り汁で小麦粉を溶き、一昼夜発酵させた生地を自家製のあんで包み、最終発酵させてから蒸しあげてようやく出来上がる。仕込みから完成まで7日間も掛けているのだ。
「天然酵母はうちにしかないもので、よそではやっていない秘密の製法も取り入れています。うちの酒まんじゅうは皮がしっかりしていて風味が独特なので、栃木県内のお客さまからは、よその酒まんじゅうは食べられないと言っていただくほどです。唯一無二の存在といいますか、それもうちが続いてきた一因なのかなと思います」と英幸さんは自信を持って語る。酒まんじゅうに本当の酒は使わないのだが、実際には、簡単につくるために膨張剤を使って生地を膨らませ、香り付けに日本酒を使ったものを“酒まんじゅう”として売っている店が多いのだという。
「本物の酒まんじゅうは、1日で固くなってしまいます。蒸したり温めたりすればまた柔らかくなるのですが、そういうわけで支店をつくったり卸売りをしたりすることが難しく、商売を広げられないという面もあります」
もっと付加価値のある商品を
そう言う英幸さんも、41歳で店を継いだときは、販路を広げようと試行錯誤したこともあったという。「30代から店を任されていて、若いころは店をもうちょっと大きくしたいという野望があったのですが、商品の性質上、それが難しかった。でも、結果としてはそれで良かったと思っています。販路を広げて店を大きくしたり、多角化したりした店が、バブルが崩壊したらつぶれていく姿を見てきましたから。小さい店だからこそ、今でも商売を続けていくことができているのだと思います」
店を大きくしない代わりに、英幸さんは新たな商品を開発した。日光の三大特産品である湯波(※)、ようかん、しそ巻き唐辛子をコラボし、湯波の原料である豆乳とようかんを合わせた「豆乳水羊羹」、ようかんにしそ巻き唐辛子を入れた「日光唐辛子羊羹」を販売している。
「また、手を加えることをタブーとしていたメインの酒まんじゅうも、お土産として会社に買って帰りたいというお客さまからの声があり、時間がたっても固くなりにくいものを開発しました」
最近はお土産を買わない人が増え、酒まんじゅうの購入数も減っていることから、もっと付加価値のある商品、単価の高い商品を開発する必要があると英幸さんは考えている。「息子がいまほかの地域の和菓子屋で修業しているので、そこで技術を学び、新しい商品をつくってくれたらと期待しています」
本物の酒まんじゅうは固くなりやすいものの、酵母やこうじの力で日持ちはいいのだという。それをつくる湯沢屋も同様に、長持ちする商売を心掛けている。
※日光では「湯波」、京都では「湯葉」と表記される
プロフィール
社名:有限会社湯沢屋
所在地:栃木県日光市下鉢石町946
電話:0288-54-0038
代表者:髙村英幸 代表取締役
創業:文化元(1804)年
従業員:10人
※月刊石垣2019年1月号に掲載された記事です。
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