マリンフード
大阪府豊中市
二代にわたり独立して起業
大阪府豊中市でチーズやマーガリン、ホットケーキなどを製造するマリンフードの始まりは、明治21(1888)年に東京牛込で創業したせっけん工場だった。創業者の吉村又作は、長崎の長州藩邸に勤める御用達(藩邸の御用商人)の三男として生まれ、長崎や中国の上海などで化学技術を学んだ。その後、上京して独立し、吉村石鹸(せっけん)工場を設立したのだった。
又作は、技術の向上に執念を燃やした。米国宣教師のスタウト、上海初代総領事の品川忠道、東京大学教授の山岡次郎氏や日本の工業化学の元老、高松豊吉博士などに知遇を得たことでその情熱を支え、全国の織物産地の舶来万能の固定観念を打破し、当時人気のフランス製のマルセール石鹸は不必要になり、急速に輸入終息に向かった。明治31(1898)年第七回内国国益博覧会で金賞、36(1903)年第五回内国勧業博覧会で二等賞、38(1905)年日露戦争凱旋記念内国生産品博覧会で金賞銀賞、45(1912)年東京府知事より桐花御紋木杯を下賜、大正3(1917)年東京大正博覧会で銀賞、6(1917)年第一回化学工業博覧会で金賞など各種博覧会、展覧会などに出れば必ず受賞し、国内各機業地でその名を知らない者はないほどであった。下野日々新聞が又作の記事を書く。「資性不撓(ふとう)不屈、業に熱心でその発明製造力が、わが足利織物生産に甚大な利益を寄与せし事は、本県産業上の恩人と言ってよい」
文学を目指していた又作の五男栄吉は、昭和23(1948)年にせっけん同様に油を使うマーガリンの製造を始め、その2年後には『ミルクマリン』のブランドで販売も開始した。「当時、マーガリンの製造は利益が少なく、製造をやめる話が出ていました。しかし父は、自分が立ち上げた事業だということもあり、独立してマーガリンをつくり続けることにしたのです」
直樹氏三代目社長就任
昭和32(1957)年、栄吉は豊中市にミルクマリン株式会社を創業し、工場を建てた。食品メーカーとしてのマリンフードの歴史はここから始まる。その時代、米国の政策もありパン食が日本に急速に普及しており、パンに塗るマーガリンの需要も増えていた。しかし、会社の業績が急激に上がっていくということはなかった。そして現社名に改称したのは44(1969)年のことだった。
「なりゆきで独立したものの、父は文学畑出身でしたから、社長をやりながら同人雑誌に寄稿したり、歴史について講演したりしていました。会社の業績はずっと微増で、悪戦苦闘が続いていました」と直樹さんは振り返る。その直樹さん自身も、父親の血を受け継いだのか、若いころは札幌で出版業に関わっていたこともあるという。しかし、27歳の時に父親が病に倒れ札幌から帰阪した。「入社してすぐ、営業で東京に出されました。長寿企業というのは経営者の話を連綿と受け継いでいくものなのでしょうが、父は私が30歳の時に亡くなったので、父から何かを教わったということはありません」
長短期の事業計画が羅針盤
事業が停滞して直樹さんは厳しい訓練で知られる研修に参加しそれが新たな出発となった。以来30年以上事業計画を毎年つくり、長期と短期の視点で会社を動かしている。「私が社長に就任してなんとか売り上げは10倍まで来ましたが、毎年が戦場を歩く兵士の気分です。どこから弾が飛んで来るか分からないし、地雷を踏むかも分からない。怖がっては仕事にならない」と語る。
「今は売り上げの7割がチーズです。新製品づくりに積極的に取組み、年に200品出してます。売上げの65%は過去5年以内発売の製品です。近年の売れ筋はチーズ代替品『スティリーノ』や、あらゆる料理に使える『クッキングモッツァレラ』など。社長参加の開発会議は2週間に一度開催しています」。今後の開発は「やはりチーズ関連が多くなっていくでしょう。世界のチーズ市場は年1500万トンを越えてまだまだ伸び続けています。市場は無限です。今年フランス最大手のチーズメーカーとコラボした新製品を開発しました。標的は日本と東南アジアです」
「他に営業は全セールスが毎月180軒の顧客訪問を実行し、年間150社のお客さまを工場に招き、種々の議論をしています。各工場部門とのプロジェクトも二週間に一回開催し、年に1000件以上ある改善提案は一カ月に一回のユニットでPJ処理しています」と語る。「どんな将来が来るか分からないが、わくわくしながら走りたい」
人や形を変えながら続いてきたマリンフードは『事業計画』を羅針盤として、世代を超えて日々変化成長を目指している。
プロフィール
社名:マリンフード株式会社
所在地:大阪府豊中市豊南町東4-5-1
電話:06-6333-6801
HP:http://www.marinfood.co.jp/
代表者:吉村直樹 代表取締役社長
創業:明治21(1888)年
従業員:462人
※月刊石垣2018年12月号に掲載された記事です。
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