価格表示の変更が必要かどうかの検討
Q
キド先生、知り合いがパン屋をやっていますが、消費税率の引き上げと軽減税率制度の導入によって、商品の価格表示はどうなるのでしょうか?
キド先生
商品の価格表示については、消費者に対して商品の販売・役務の提供を行う場合(いわゆる小売段階の価格を表示するとき)には、総額表示が義務付けられています。
(注)事業者間での取引は総額表示義務の対象となりません。
しかしながら、2021年3月31日までの間においては、「総額表示義務の特例」が認められており、「誤認防止措置」を講じていれば税抜価格のみの表示などを行うことも可能です。
Q
具体的にはどのような表示になるのでしょうか?
キド先生
具体的な表示例は、右下の(表1)を見てください。
Q
キド先生、同じ商品でも買い方によって税率が異なる場合がありますよね。
例えば、パン屋でお客さまが商品を持ち帰りした場合は軽減税率8%が、店内で商品を食べる場合(イートインコーナーでの飲食)は標準税率10%が各々適用され税率が異なります。この場合、混乱を招かない価格表示にするために、どのようにしたらいいですか?
キド先生
同じ商品でも、持ち帰りと店内飲食とでは税率が異なるわけですから、混乱を与えないような価格表示にする必要があります。例えば、右の(表2)のように価格表示を工夫してみてはいかがでしょうか。
Q
キド先生、パン屋は軽減税率が適用される商品がほとんどだと思いますが、例えば、スーパーマーケットのように、軽減税率が適用される商品と標準税率が適用される商品とが混在するお店では、これと異なった価格表示を行う必要があるのではないでしょうか?
キド先生
いい質問ですね。そのような場合にも価格表示(店内表示や陳列棚など)において、どちらの税率なのかが分かるように工夫する必要があります(左図参照)。
キド先生
また、「消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)」が公表され、宣伝・広告に関する規制について、次のような表示例が示されていますので参照してください。
「請求書等」の様式等に係る新ルール
■請求書等の記載事項の改正
本年10月1日から「請求書等」の記載事項や管理については「区分記載請求書等保存方式」に変更されます。この方式は、現在の請求書等の保存方式を維持しながら、複数税率(標準税率と軽減税率)を区分して経理することに対応する措置です。具体的には、請求書等の記載事項に、次の二つの事項を記載することが義務付けられています。
①軽減税率の対象品目である旨
②税率ごとに合計した対価の額
Q
「区分記載請求書等保存方式」ですが、売り手側と買い手側でどのような点に留意する必要がありますすか? また、請求書等の様式をどのように変更したらいいですか?
キド先生
区分記載請求書等では、「軽減税率の対象品目である旨」と「税率ごとに合計した対価の額」を記載する必要があります。同一の請求書による記載例は左記の通りです。
■区分記載請求書等保存方式のルール
1.売り手側の留意点(義務)
・上記の⑥と⑦は、新たに請求書等に記載する義務が生じます。
・上記の請求書等以外にも、「軽減税率対象」と「標準税率対象」とを分けて(別々に)発行することも認められています。
2.買い手側の留意点(義務)
【帳簿の記載】
「軽減税率対象品目である旨」を明記する必要があります。
【請求書の保存】
「区分記載請求書等」を保存しておくことが仕入税額控除の要件です。
【請求書の追記】
上記の⑥と⑦は、買い手側が事実に基づき追記することも認めています。
【税額計算の特例】
売り上げまたは仕入れを税率ごとに区分することが困難な事業者に対して、売上税額または仕入税額の計算の特例が設けられています。
■免税事業者からの請求書等の留意点
Q
キド先生、免税事業者も請求書等に「軽減税率の対象品目である旨」と「税率ごとに合計した対価の額」を記載しないと「区分記載請求書等」とはいえず、取引先の方で「仕入税額控除」ができなくなってしまいませんか?
キド先生
その通りです。「区分記載請求書等」の要件を満たしていなければ、取引先の消費税計算においては「仕入税額控除」ができません。ただし、取引先が①軽減税率の対象品目である旨、②税率ごとに合計した対価の額を「追記」すれば認められます。
■レジ導入・受発注システム改修等のための補助金の活用
中小企業・小規模事業者などが軽減税率制度導入に対応するためにレジの導入や受発注システムの改修・入れ替えを行う場合、国の補助金制度が利用できます。補助金の詳細は、軽減税率対策補助金事務局のHP(http://kzt-hojo.jp/)でご確認ください。
なお、右記の補助金の申請には期限がありますので、早めの対応を心掛けてください。
キド先生こと 城所 弘明(きどころ・ひろあき)
公認会計士 税理士・行政書士
横浜国立大学卒業後、1980年公認会計士および税理士に登録。現在、日本商工会議所「税制専門委員会」学識委員。著書に『これでスッキリ!改正消費税』『消費税マニュアル420問420答』(日本商工会議所:制作協力)などがある
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