Q 当社は家電製品の卸販売をしておりますが、この度、メーカーに懐中電灯を3000個発注したところ、300個しか納入されていませんでした。これでは、ほとんどの小売業者へは納期までに納品ができなくなります。どうしたらよいでしょうか。
A 対応策としては、早急に製品を調達し、小売業者に納品をするよう努めるべきです。メーカーとの間で製品3000個の受注契約があったことが明確であれば、メーカーに対し損害賠償を請求することが可能です。 このようなトラブルが生じないよう製品の品目、仕様、個数、納期、代金額、代金の支払時期について明記した注文書と注文請書を作成しておくことが重要です。
注文請書の存在と損害請求
まず、メーカーに事情説明を求めることも必要ですが、第一に残りの製品を早急に納品するよう指示し、他方で小売業者に納期を延期してもらう交渉が重要です。納品が間に合わない場合、小売業者からの損害賠償請求も想定し、コスト高となったとしても他から調達し納品すべきです。
仮に、他から製品を調達した場合、メーカーに対して何らかの請求ができないか確認してみます。重要なのは、まずメーカーに対して「その製品を3000個発注したことが確かなのか」を明らかにすることです。
通常、商品や製品などを仕入れる場合、注文書を発行し、それに対し仕入れ先から注文請書をもらうことで商品の品目、個数、納品時期、代金などについて明確にします。注文請書があれば、メーカーは確かに3000個の製品の供給義務を負っていることになります。メーカーは納期までに約束の個数の製品を供給しなかったのですから、債務不履行責任が生じ、貴社はメーカーに対し損害賠償を求めることができます(民法415条)。
金額としては、契約どおりメーカーが製品を供給した場合に得られたであろう利益と実際に得た利益との差額を求めることとなるでしょう。そのほか、仮に小売業者からペナルティーを課せられた場合には、合理的な範囲のものであれば、同額を上乗せしても請求する余地があります。
トラブルを未然に防ぐ予防策
このようなトラブルを未然に防ぐためにも、注文書を作成し、注文請書を受領して契約内容を明確にすべきです。
また、製品の引き渡しを受ける場合には注文書、注文請書と相違ないか検収を行うべきことはいうまでもありません。
改正で「瑕疵担保責任」の概念が「契約不適合責任」に
平成29年に民法(債権法)の改正が行われ、その大部分は令和2年4月1日に施行されました。
改正により「瑕疵(かし)担保責任」の概念が「契約不適合責任」に置き換えられました。売買契約については契約不適合責任の一つとして追完請求権があり「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引き渡し又は不足分の引き渡しによる履行の追完を請求することができる」(新民法562条1項)とされています。
本事例では、注文・受注された数量が明確であれば、数量不足による不足分の引き渡し請求が可能ですが、このような追完が間に合わず、他社に発注するような場合、損害賠償請求で解決を図ります。新民法564条は「前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求を妨げない」としており、損害賠償請求が可能であることが明白です。
なお、メーカーとの契約は請負と売買との混合契約であるいわゆる製造物供給契約とも考えられますが、請負人の契約不適合責任(担保責任)についても、売買の規定を準用する形で整理されたため、改正の前後を通じ、結論は変わらず、559条(改正なし)によって請負人の契約不適合責任も規律されることとなりました。 (弁護士・軽部 龍太郎)
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