日本商工会議所は3月30日、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策に関する緊急要望~感染拡大防止の徹底と地域経済社会への影響の最小化に向けて~」を政府に提出した。その内容は、4月7日に閣議決定を経て発表された政府の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」に盛り込まれるなど成果を上げた。特集では、緊急要望の概要を紹介する。
事業存続に向けた対策 前例にとらわれず実行を
基本的な考え方
〇海外で爆発的な感染拡大が発生。感染拡大防止に向けた官民一体での取り組みの徹底が不可欠。
〇一方、国内の感染拡大防止に向けた政府の自粛要請を機に、地域の経済社会活動は一段と制約。
〇自粛の連鎖により、幅広い業種の中小・小規模事業者の経営は危機的状況。倒産・廃業も増加。
〇需要が一瞬で消滅したことによる地域経済への影響は、時の経過とともに深刻化。
Ⅰ.倒産・廃業防止のための前例にとらわれない緊急対策
〇現在、資金供給や雇用維持を中心とした二度にわたる政府の緊急対策が実行されているが、地域の経営悪化で切迫した中小・小規模事業者から事業存続に向けた相談が急増。さらなる支援体制の強化と、前例にとらわれない思い切った施策の拡充が不可欠。
Ⅱ.徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策
〇収束への出口が見えないことが国民や事業者の不安に拍車。爆発的な感染拡大の懸念など、予断を許さない状況の中、政府は、徹底した感染拡大防止策の実行と、科学的根拠に基づく適切かつ分かりやすい情報提供を通じて、国民や事業者の不安払拭(ふっしょく)を図るべき。
〇全国一律の自粛の継続が、中小・小規模事業者など 地域経済社会に与える影響は甚大。過度に活動が委縮することがないよう、万全の感染予防対策を前提に、各地域が実情に即し、イベント自粛の是非や実施方法を判断できるきめ細かい明確なガイドラインの早期提示が必要。
Ⅲ.経済のV字回復に向けた大胆な経済対策
〇一定の収束が見通せた段階においては、経済のV字回復の実現に向けて、急激に落ち込んだ需要を回復し、国民や事業者の景気浮揚への期待を喚起する大胆な規模の経済対策を打ち出すべき。
Ⅰ.倒産・廃業防止のための前例にとらわれない緊急対策の実施
〇地域の中小・小規模事業者は、自粛の連鎖で急激な売り上げ減少などに直面し、事業存続の危機。刻一刻と事態は切迫化し、相談窓口への申し込みが急増。施策の申請・実行に時間がかかる現状。
〇急増が懸念されるコロナ倒産や廃業を防止するため、資金繰り支援、雇用調整助成金の拡充、休業補償などの政府の施策が遅滞なく広く行き渡る体制整備と前例にとらわれない対策が必要。
〇混乱に乗じて、経営基盤の弱い下請け企業への親企業からの一方的な取引停止やコストのしわ寄せなど不当な取引が行われないよう、適正な取引環境の監督・整備への万全を期すべき。
1.資金繰り関連
(1)中小・小規模事業者の事業継続に資する大胆な給付金制度の創設
〇新型コロナウイルスの影響を大きく受けた中小・小規模事業者に対する事業や店舗などの継続に向けた大胆な給付金制度の創設
(2)迅速な無利子・無担保融資実行に向けた金融機関の機能強化
〇相談機能の拡充、融資手続きの簡素化および融資実行の迅速化、民間金融機関の積極活用
(3)民間金融機関融資の実質無利子化・無保証料化などの推進
〇民間金融機関の融資に係る当初3年間の利子・保証料を補填(ほてん)する制度の創設
(4)新型コロナウイルス対策マル経融資の全額利子補給制度などの推進
〇新型コロナウイルス対策マル経融資への全額利子補給制度の創設
(5)既往債務の条件変更や返済猶予などの柔軟な対応
〇返済猶予の条件変更などへの柔軟な対応の実効性確保、既往債務の条件変更への信用保証協会の保証料免除や利子補給などの措置
(6)二重債務の負担軽減
〇大規模自然災害などで被災した中小・小規模事業者が、新型コロナウイルスの影響により二重債務となる場合の負担軽減措置
(7)国税・地方税の納税猶予、固定資産税の減免など
〇納税猶予の適用要件や申請手続きの緩和、中小・小規模事業者の資金繰り支援に資する土地・建物などの固定資産税の減免
(8)社会保険料などの減免
2.雇用維持関連
(1)雇用調整助成金の支給要件緩和、助成率の引き上げ、支給の迅速化など
①雇用調整助成金について、緩和された支給要件の全国適用、助成率のさらなる引き上げ(全額給付)など
②申請急増に対応した窓口機能のさらなる強化、支給までのつなぎ融資を即日で融資できる公的支援制度の創設
(2)オンライン就職相談・面談など、採用活動への支援
(3)時間外労働等改善助成金の拡充
〇助成金のテレワークの特例コースにおけるタブレット等導入費の支給対象化、全額給付も含めた助成率のさらなる引き上げ
(4)教育訓練給付金の要件緩和(支給要件期間の撤廃など)
(5)中小・小規模事業者の経営実態を踏まえた最低賃金の適正な水準の決定
〇感染拡大による危機的経済情勢を反映した新たな2020年度の政府方針の設定が必要
(6)雇用保険特別会計や事業主拠出金の積立金残高に応じた国庫負担による補填
〇中小・小規模事業者が6割弱を負担する事業主拠出金の積立金残高が大幅に目減りした場合の補填
(7)現下の状況に配慮した働き方改革関連法の中小・小規模事業者への運用
3.取引環境の適正化
(1)混乱に乗じた、中小・小規模事業者への取引上のしわ寄せ防止
〇下請Gメンなどによる実態監視によるしわ寄せ防止の徹底、国と地方自治体の連携した取引条件改善に向けた取り組み推進
(2)大企業と中小企業の共存共栄に向けた、取引価格など取引環境の適正化への取り組みの加速
〇中小企業庁「価値創造企業に関する賢人会議」中間報告にて、大企業と中小企業間の取引価格の適正化に取り組む方針が明示。今 回の非常事態から脱却し再起を図る過程において、大企業と中小企業はこの取り組みが方針に沿って取引環境の適正化を。
Ⅱ.徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策
〇大都市で爆発的な感染拡大が生じないよう、国民、事業者も緊張感を持ち、感染拡大の防止に向けた行動変容の必要性を認識し、官民一体となった取り組みの徹底が不可欠。
〇一方、政府は、科学的根拠に基づく適切かつ分かりやすい情報提供を通じ、国民や事業者の不安を払拭(ふっしょく)し、過度に活動が萎縮しないようにしていくことへの留意が必要。徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策を中期的な視点で進めていくべき。
〇感染拡大防止のためにヒトとモノの移動が制約される中で、地域経済活動の活発化に即効性の高い、デジタル技術の活用を加速化 させる強力な支援を至急講じるべき。
(1)イベント自粛の是非や実施方法に関するきめ細かい明確なガイドラインの早期作成
〇感染状況が一定程度収まってきている地域、または感染状況が確認されていない地域においては、万全の感染拡大防止策を講じることを前提に、感染リスクの低い活動から徐々に解除し、地域の経済社会活動の正常化を目指していくことも重要。今後、全国各地で行われるイベントなどについて、自粛・中止すべきものかを地域や主催者が判断できるよう、自粛の是非や実施方法に関する数字なども盛り込んだきめ細かい明確なガイドラインの早急な作成・公表が必要。
(2)需要が激減している地域の特産品店や飲食店などの販売促進に資するEコマース、各種イベントのライブ配信などを活用した需要回復支援
①ECサイトの構築・活用による地域の特産品などの販売支援
②資金調達に資するクラウドファンディングを活用した販売促進支援
③コンサートや演劇などイベントのライブ配信支援
(3)テレワークやオンライン会議など、働き方改革を見据えたデジタル技術の活用促進
〇中小・小規模事業者のIT専門家による支援拡充、IT導入補助金の自己負担ゼロ化、機器などの少額減価償却資産特例の拡充
Ⅲ.経済のV字回復に向けた大胆な経済対策
〇感染拡大に一定の収束が見通せた段階において、急激に落ち込んだ需要を回復させるため、消費喚起を直接図るとともに、サプライチェーンの再構築など供給力を強化し、経済のV字回復を実現するために大胆な規模の経済対策を打ち出す必要
〇併せて、少子化対策や生産性向上、新たな付加価値創出への企業の挑戦支援、社会のデジタルシフトによる国民生活の向上など、わが国の構造的な社会課題を克服し、中長期の成長につながる目的を持った対策を進めていくことが極めて重要
1.急激に落ち込んだ需要をV字回復させるための大胆な措置
<1>大胆な個人消費の喚起策
(1)消費の早期回復を加速させる大胆な家計支援の実行
〇一律の対応ではなく、子育て世帯などを対象とした給付など大胆な家計支援
(2)旅行や飲食、イベントなどの需要を喚起し、国内の人の動きを活発化させるための方策の実施
〇旅行、飲食、イベントなどに活用できるクーポン券の発行など、国民の幅広い消費意欲を喚起するための大胆な支援
<2>企業の活力を取り戻す方策
(1)売り上げ向上などに取り組む中小・小規模事業者への支援拡充
〇設備投資、販路開拓、商品・サービス開発、IT活用、越境EC、海外展開などへの支援拡充
(2)イベント・展示会・商談会などの開催による販路拡大への支援
(3)新たな魅力ある製品・サービス創出への挑戦支援
(4)企業消費を促す交際費課税の緩和
2.中長期的な成長基盤の強化
<1>デジタル化による生産性向上・社会構造の変革
(1)デジタル化の加速、省人化・効率化に資する設備投資の促進
〇顧客管理や受発注管理、売り上げ・会計、決済などを一気通貫で管理できる取引の共通基盤の導入支援
(2)マイナポイントの活用による消費活性化とマイナンバーカードの普及促進
(3)一定程度、規制緩和が進んでいるオンライン診療・服薬指導の活用の加速
(4)教育のICT化の取り組みの加速
<2>企業の成長を促す基盤整備
(1)毀損(きそん)したサプライチェーンの国内回帰による再構築支援
〇海外生産拠点の撤退・縮小などに対応して、国内での設備投資や販路開拓などに取り組む事業者への支援の拡充
(2)価値ある事業の次代への承継に向けた事業引き継ぎ・創業支援の推進
〇事業承継、事業統合・再編、経営資源や後継者人材のマッチング、創業・第二創業などの力強い支援
(3)感染症対策を含むBCP(事業継続計画)策定の推進
(4)事業構造改革に取り組む中小・小規模事業者の事業再編・統合を後押しする税制措置の創設
〇事業の譲受などに係る特別控除措置の創設などの大胆なインセンティブ措置
要望全文はこちら https://www.jcci.or.jp/sangyo1/20200330_youbouhonbun.pdf
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