「くりーむパン」を中心とするスイーツパンが、関東や関西で絶大な人気を集めている八天堂。素材や製法にこだわったパンは口どけが良く、何度食べても飽きの来ない味が特徴だ。店舗には毎日のように行列ができ、閉店前に完売する商品も多いという。
経営難を乗り越えるため1点集中に賭ける
あっさりしたカスタードクリームに最高級の純生クリームを合わせ、時間がたってもやわらかい「くりーむパン」。カスタードは全て手づくりし、素材にも徹底的にこだわっている。製造・販売しているのは、昭和8年に和菓子屋として広島県三原市で創業した八天堂。三代目社長である森光孝雅さんが和と洋を融合させ、おいしさと品質を追求して開発した。
今でこそ、くりーむパンをはじめとするスイーツパン専門店として知られる八天堂だが、森光社長は会社を継いだ当初、県内にパン屋を10数店舗構えるまで拡大。さらに、手づくり・無添加・地産地消を売りにしたパンをつくって広島市内の量販店などに卸し、商品数は100種類を超えるまでになっていた。
最初は好調だったが、徐々に状況が変わる。地元のパン屋が、対抗してつくりたての温かいパンを卸すようになったのだ。一方、三原でつくった八天堂のパンが各店舗に届くころには冷めている。
「オセロのようにひっくり返され、お店の棚から当社のパンが消えていきました。会社の経営も非常に厳しくなり、どん底に陥りましたが、このままでは社員を悲しませ、不幸にしてしまう。原点に帰り、もう一度パン屋をやるなら、どんなパンをつくるかを考えました。そこで、お客さまの購買動機に着目したところ、『羊羹だったらこのお店』『モンブランだったらあのお店』といったように、目的買いをされていることに気付きました。それなら最初から目的買いされるパンをつくろう、100種類の商品に力を注ぐのではなく、1点に集中する〝選択と集中〟に賭けようと考えたのです」
「ないもの」をつくり東京から全国へ発信
森光社長は、「以前はいかに人の目を引くかを考え、奇をてらったものばかりつくっていましたが、県内のメディアや雑誌に取り上げられても、すぐに売れなくなりました」と振り返る。「そこで、スタンダードなもの、飽きの来ないものをやっていこうと考え、日本人が好きな、あんパン・クリームパン・ジャムパン・カレーパン・コロッケパン・焼きそばパンの中から勝負しようと決めたのです」。
「ないものをつくる」をコンセプトに掲げた森光社長は、完成後は東京から全国に発信したいと考えていた。
「ただ、会社が弱っていたので東京に工場をつくる余裕はありませんでした。三原でつくって送っても、東京に着くころには冷めています。おのずとカレーパンやコロッケパンは消えました。そんなとき、どこにもないものという切り口に『口どけ』があるのではないかと考えました」
当時、口の中で溶けていくようなケーキやスイーツはあったが、パンはなかったのだ。
「ここだ、と思いました。日本人は口どけの良いものは大好きなはず。シュークリームに入っているようなクリームをパンで表現できたらと考え、イメージが結び付いたのがクリームパンでした」
だが、日本のクリームパンは、生地でクリームを包み込んで焼く製法が一般的。そのつくり方だと、時間がたつと口どけが悪くなってしまう。そこで、パンを切ってクリームをサンドしてみたが、パンとクリームの一体感が悪く、口の中で分かれてしまった。
「試行錯誤していたとき、父親がシュークリームの生地にクリームを入れる機械を残してくれていたのを思い出しました。その機械でつくった試作品を冷蔵庫に保存し、食べてみたら一体感があったのです。ただ、冷蔵庫の温度だとパンが硬くなっていたので思い切ってレシピを変え、改良を重ねて1年半かけて完成させました」
こうして、「くりーむパン」は平成19年1月1日に発売を開始。21年2月1日には東京で販売を始めた。
目指すのは〝オンリーワン〟の存在
何度食べても飽きの来ないあっさりした味の「くりーむパン」。森光社長は「味が濃かったり、おいしすぎる、インパクトがありすぎたりすると飽きてしまいます。また食べたいと思ってもらえる間隔が短ければ短いほどいいので、できる限りシンプルに、引き算のイメージでつくりました」と開発時を振り返る。
工場では、生地、クリーム、包装に至るまで徹底的に手づくりにこだわっていながら、1日に3万個以上のくりーむパンが生産されているのが特徴だ。 「大手や他社にまねされにくい、まねしたくないと思われるくらい、一つ一つの工程にこだわっています。まねされたものの方が良かったら一発でひっくり返されてしまいますから」
昨年は、新鮮なフルーツをたっぷり使ったジャムパンと、サクッととろけるメロンパンを新たに発売。4月からは4種類のあんぱんも販売している。森光社長は、それらを総合して「スイーツパン」と呼び、「目指せスイーツパンで金メダル!」をスローガンに掲げている。
「われわれはスイーツパンでオンリーワンの存在になることを目指しています。日本だけでなく、世界のオンリーワン、ナンバーワンになりたい。その象徴が金メダルなのです」
海外市場も見据え、昨年3月には広島空港の目の前に工場を新設。設備と環境も整えている。
最高の商品を、国内外問わず発信していきたい――。八天堂は、日本で生まれた食文化を世界に広めるという大きな志を持ち、挑戦を続ける。
会社データ
社名:株式会社八天堂
住所;広島県三原市宮浦3-31-7
代表者:森光孝雅 代表取締役
創業:昭和8年
資本金:1000万円
従業員:約100人(正社員、パートナー、派遣含む)
※月刊石垣2014年5月号に掲載された記事です。
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