洗剤を中心に開発・製造・販売を行っているきれい研究所。市場に多種多様な洗剤がひしめく中、ニッチな用途に特化した商品を世に送り出してきた同社が、薬品の専門知識と経験を結集してつくった水垢(あか)専用洗剤「茂木和哉(もてぎかずや)」が、累計販売数100万本を超える売れ行きとなっている。売り場で存在感を放つ同商品が誕生し、ヒットするまでのドラマを追う。
大手メーカーが扱わないニッチ路線に絞り商品開発
掃除や洗濯のノウハウは、テレビの情報番組や雑誌などで頻繁に取り上げられる人気コンテンツだ。しつこい汚れを楽に落とせることをうたった洗剤は、常に売れ筋商品として上位にランクインする。そんな競合商品のひしめくジャンルで、平成24年に密かに発売されたのが、水垢専用洗剤「ハイブリッドクレンザー」だ。
「洗面台や浴室の鏡に付いた水垢は、水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどが残ってカチカチに固まったものです。皮脂やカビ汚れと違い、一般的な風呂用洗剤でこすっても落ちません。きれいに落とすには水垢に効く成分を配合した洗剤が必要ですが、ニッチ過ぎて大手メーカーは扱わないので、それなら自分がつくろうと思ったんです」ときれい研究所社長の茂木和哉さんは同商品開発のきっかけを説明する。
汚れは大きく酸性とアルカリ性に分けられ、酸性の汚れにはアルカリ性、アルカリ性の汚れには酸性の洗剤を用いるのが基本だ。水垢はアルカリ性なので、酸性の洗剤で溶かすか、こすって削り落とす方法があるが、汚れが頑固なほどどちらか一方では完全に落とせない。そこで酸性の洗剤に研磨剤を配合し、2つの働きを掛け合わせたのが同商品だ。
「単に掛け合わせるといっても、酸性が強いと取り扱いが難しくなるし、研磨剤が強いと鏡を傷つけてしまいます。そこであらゆる配合を試した結果、酸も研磨剤も弱くするが、2つの相乗効果で力を発揮するバランスを見出し、商品化にこぎつけました」
温泉施設の清掃でためた開発資金と配合処方
同商品誕生の背景には、茂木さんの経歴が大きく影響している。地元の農業短期大学在学中に毒劇物取扱責任者の資格を取り、化学工業薬品を扱う会社に就職した。そこで薬品の知識を身に付けるうち、「自分にもつくれないか」と思うようになり、営業先の温泉施設が鏡の水垢に苦慮していることに目を付け、独自に温泉用水垢取りをつくってみた。
「秋田県には多くの温泉がありますが、それぞれ泉質が微妙に異なるので、水垢の成分も違います。つまり、温泉施設ごとに水垢取りの成分を変えないと、きれいに落とせないわけです。でも、成分がぴったり合うと、水垢がシュワシュワっと消えていくのを見て、すっかりはまってしまいました。一般的な洗剤と比べて利益率も高いので、独立してニッチな用途の洗剤をつくっていこうと決めました」
こうして茂木さんは18年に起業したが、資金が乏しく、開発費用が捻出できなかった。そこで副業として、温泉施設の清掃を始めた。汚れが特殊であるほど割がいい上に、現場で自分のつくった洗剤の効果を確かめることができる。5年程続けて、資金と洗剤の配合処方の両方がたまったころ、温泉や飲食店向けに完全オーダーメードの洗剤の開発に乗り出した。
「つくれば必ず売れるので、事業は軌道に乗ってきましたが、県外に販路を広げにくいことが難点でした。そこで業務用をカスタマイズして一般家庭用洗剤をつくり、ネット販売をすることにしたんです」
最初につくったのは泥汚れ用洗剤だ。既存品と差別化するため、泥汚れに効果を発揮するが、環境汚染の元になる「リン」を使わず、「無リン」にこだわった。その分原料費が高くなり、価格が従来品の倍近くになったが、予想外の売れ行きとなった。次につくったのは、道着専用洗剤だ。世間にないことを狙った商品だが、これもよく売れた。その勢いに乗ってつくったのが「ハイブリッドクレンザー」である。満を持して世に出した自信作だったが、これがまったく売れなかった。鏡に付いた汚れが水垢と分からない人が、意外に多いことが主な要因だった。
商品名を変えた途端に売れ行きを伸ばす
そこで茂木さんはブログを始め、自らを「洗剤エキスパート」と名乗って、水垢の解説や同商品のすごさをアピールした。
「主婦目線で書く方がいいんでしょうが、つい内容が専門的になってしまい、読者の多くは清掃関係の方でした。その中に、東急ハンズで実演販売をしているプロの方がいて、『商品を気に入ったので会いたい』と言われたんです」
早速会いに行くと、売れる商品にするためには容量を250㎖から200㎖にし、価格を2500円(税別・当時)から1886円にすること。商品名を「茂木和哉」に変えることを提案される。茂木さんはすぐ行動に移し、25年12月にリニューアル発売したところ、半年の販売目標の2000本が半月で完売する。インパクトのある商品名ゆえに注目を集め、テレビの情報番組で取り上げられては注文が殺到して、製造が追いつかない状態が26年秋まで続いた。増産体制を整えると同時に、返金保証を付けるなどしたところ、売上が大幅に増加。現在までの累計販売数は、100万本を突破した。
「ネットと実店舗では、売れるものも売れ方も違うことが分かってきました。今後は売り場に合わせた商品展開をしていきたいですね。また、当社の洗剤でどんな汚れがどれくらい落ちるのかが分かるアプリを開発し、汚れが落ちる確率が50%未満になったらハウスクリーニング業者を紹介するサービスなどもできたらと考えています」
豊富な経験値と柔軟なアイデアで、今後どのような商品戦略を立てるのか、「茂木和哉」から目が離せない。
会社データ
社名:きれい研究所株式会社
所在地:秋田県秋田市手形西谷地188-1
電話:018-853-5830
HP:https://www.yogoreotoshi.com
代表者:茂木和哉 代表取締役社長
設立:平成19年
従業員:8人
※月刊石垣2016年12月号に掲載された記事です。
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