人口減少と過疎化により檀家が減少し、全国のお寺が窮しています。お年寄りが多いと亡くなる方も多いわけですから、有望な業種かと思われがちですが、最近は葬儀も簡素な家族葬が増え、法事は省略、田舎への墓参りは家族の負担になるので、墓はいらないという方も少なくない時代です。寺院消滅が危ぶまれる中、各お寺は存亡の危機を乗り越えるために、個性的な活動を始めています。
〝自分なりのスタイルで法話を行う〟代表的な例としては、熊本県天草の向陽寺の住職、渡辺紀生さんの〝ギターと笑いの元気説法〟があります。この説法には全国から6万人もの人が集まり、DVDも販売しています。また、山口県山口市にある超勝寺の副住職、大來尚順さんは、龍谷大学を卒業後、米国仏教大学院、ハーバード大学で宗教を学んだ経験から、英語による仏教伝道活動を行っています。著書『英語でブッダ』では、〝諸行無常〟は〝Everything is changing〟と訳して、仏教の教えと英語を同時に勉強できると、人気があります。「英語への興味から仏教を知ってもらおう、外国人に仏教への関心を持ってもらおう」と考えたのでしょう。仏教を広く理解してもらうことを目的とすれば、有効な手段だと思います。
私が訪問した群馬県高崎市の達磨寺では、予約制の精進料理がビジネスになっていました。「朝採ってきた山菜です」などと、お坊さんが説明してくれると、質素なお膳が、非常にありがたく感じられて浄化されたような気分になりました。顧客を満足させているわけです。信仰心が決して強いとは言えない私でも、お寺に対して「ありがたい」という特別な感情を持っています。日本人のその感情をうまく掘り起こすことが、今後の寺院経営の鍵なのかもしれません。
全国のお寺では、今さまざまなチャレンジがなされています。精進料理が原則なので、食べさせるだけでなく、料理教室を開催する、お寺に泊まってダイエット、ヨガや墓地巡り、写経で合コン、お堂で落語&説法などなど。生き残りをかけた、こういった寺院の活動は、対岸の火事ではありません。すべてのビジネスにいえることですが、世の中が変わったらそれまでやってきた商売のやり方も変えないと、生き残れないのです。マーケットの変化を読み取り、次の一手を考え続けることがビジネスです。
これまでは葬儀や先祖供養といったイメージだったお寺が、生きている者の心に役立つ存在に変わろうと挑戦している姿に拍手しながら、自らのビジネスを思い返してみてはいかがでしょう。
お問い合せ先
社名:株式会社 風土
TEL:03-5423-2323
担当:髙橋
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