山口 尚秀 (やまぐち・なおひで)
2000年10月28日愛媛県出身。四国ガス所属。100m平泳ぎ(知的障がい男子)の世界記録保持者
車いす選手の競技会として始まったパラリンピックは1976年、第5回夏季トロント大会から四肢の切断者と視覚障がい者にも参加枠が広げられた。知的障がいクラスは1998年の第7回冬季長野大会で初めて採用され、東京パラリンピックでは全22競技中、陸上と水泳、卓球の3競技で実施されることになっている。
知的障がいクラスの選手として、東京パラでの活躍が大いに期待されるのが、19歳のスイマー、山口尚秀だ。身長187㎝の恵まれた体躯から生まれる圧倒的な推進力を武器に、昨年9月、ロンドンで開かれたパラ水泳の世界選手権で優勝し、東京パラ代表への推薦内定を勝ち取ったのだ。
山口にとって初出場の大舞台だったが、得意の100m平泳ぎの予選で自身の日本記録を更新。決勝もスタートから持ち味の高速ピッチでグイグイ飛ばし、最後まで粘り切った。しかも、マークした1分4秒95のタイムは世界新記録という快挙だった。「地道な努力の結果が出せた。これからも、東京パラに向けて練習を積み重ねたい。障がい者スポーツの素晴らしさを多くの人に知ってほしい」。レース後、笑顔で目標を語った。
3歳で知的障がいを伴う自閉症と診断されたが、できるだけ人との関わりを持てるようにと、小学4年生で地元のスイミングクラブに入った。障がいの特性上、集中力の持続や指示の意図をくみ取ることなどは少し苦手だが、家族やコーチらの細かなサポートもあり、力を伸ばした。
競技として本格的に取り組みだしたのは2016年。平泳ぎは特に水の抵抗を受けやすい泳法だが、山口は力強い手のかきとキックを連動させる技術が高く、ピッチが速くても抵抗の少ないフォームを身につけ、急成長。19年2月の国際戦デビューから半年で世界の頂点に立った。
東京パラに向け計画的に練習を積んでいた今年3月30日、新型コロナウイルス感染拡大の影響により大会の約1年延期が決まった。少し動揺したが、日本知的障害者水泳連盟から「代表内定維持の方針」が発表されると、「目標が明確になった。焦らず練習し、世界記録を更新して金メダルを獲りたい」と決意を新たにした。
無限の可能性を秘めた若きエースの、さらなる進化から目が離せない。
残されたものを最大限に生かす!創意工夫による、個性豊かなスタイル
知的障がいの他、肢体不自由と視覚障がいを対象とし、公平に競うため各選手の運動機能などにより全14クラスに分かれる。一般の競泳ルールに準じるが、例えばスタートでは補助具やコーチによるサポート、水中からも認めるなど、障がいに応じてルールの一部変更もある。見どころは多様な障がいから生まれる個性豊かなスイムスタイルだ。
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