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こうしてヒット商品は生まれた! ネジザウルス

ねじをつかむ先端部分が恐竜の顔のようにも見える。同シリーズが大ヒット工具のポジションを確かなものにした四代目の「ネジザウルスGT」。2860円(税別)

昭和23年の創業以来、電気・電子機器のプロフェッショナル向け作業工具などを製造・販売しているエンジニア。同社が平成14年に世に出した

「ネジザウルス」が、1万本売れれば大ヒットといわれる工具の分野において、累計販売数300万本を突破するロングランヒットを続けている。果たして「ネジザウルス」の正体とは――。

自信満々で発売したが初月の販売数は15本

ねじを取り外そうとドライバーをグリグリ回しているうちに、溝がつぶれてしまった――。そんな経験をしたことはないだろうか。そうなると通常はなすすべもないが、それをいとも簡単に外してしまう工具がある。「ネジザウルス」だ。

同商品は、先端部分を開閉してものをつかんだり挟んだりするプライヤーの一種で、溝のつぶれたねじを取り外すための工具だ。大きな特徴が二つあり、一つは先端に縦溝があること。通常のプライヤーの先端には横溝がつくられているが、それだとねじ頭をつかんで回す際に横滑りしてしまう。その点、縦溝なら滑らない。もう一つの特徴は、ねじ頭がつかみやすいように先端に施した傾斜角である。

「プライヤーを開くと先端が八の字になりますが、その状態でねじ頭を挟んでも力が分散してしまって、しっかりつかめません。そこで開いたときに先端が平行になるように、あらかじめ傾斜角をつけたのです。そのため、閉じたときは先端が逆八の字形になっています。その角度が、かつて一世を風靡(ふうび)したビートたけしさんのギャグの『コマネチ』に似ていることから、『コマネチ角度』と呼んでいます」とエンジニア社長の髙崎充弘さんは説明をしてくれた。

これらの特徴により、たとえさびて固着したねじでも楽々取り外せる同商品は、平成12年に「小ネジプライヤー」の名前で発売された。ところがまったく売れず、発売後、最初のひと月の販売数はたったの15本だったという。

「なぜ売れないんだろうと、当時はかなり悩みました。それでも機能には自信があったので、名前を変えてみたらと思い社内で公募したんです。そこで出てきたのが『ネジザウルス』です。ねじ頭をがっちりつかむ力強さを恐竜に見立てた絶妙なネーミングで、14年に再発売した途端に売れ行きが伸び、1年で7万本売れました」

取引先の言葉で100倍売れると奮起

その後も勢いは衰えず、年間5万~7万本のペースで売れ続けた。二代目となる大きいねじ用、三代目の小さいねじ用も製造し、20年には累計販売数が40万本を突破した。

「当社初の大ヒットに、次は50万本突破だと社内は盛り上がりました。ところが、その秋のリーマンショックで上り調子から一転、売り上げがみるみる落ちていきました。しかも、鉄や樹脂などの原材料価格が高騰して利益率が急激に悪化し、一気に赤字に転落してしまったんです。黒字を回復する手立ては何かと悩みに悩んだ末、ネジザウルスの四代目をつくろうと決めました」

それは大きな賭けだった。営業担当者がホームセンターなどを訪れた際、「ネジザウルスは、そろそろ飽きられてきていると思う」という声をたびたび耳にしていたからだ。それでも決意したのは、商品に同梱(どうこん)している愛用者カードに寄せられたユーザーの声だ。さまざまな要望の中に、少数ではあるが「トラスねじを外せるものが欲しい」という声があった。トラスねじはねじ頭が薄く、同商品でもうまくつかめなかったのだ。それを改善すれば、売れると思った。

もう一つ、髙崎さんの背中を押したのは、ある取引先の担当者がふと漏らした、「この調子なら、『一家に1本、ネジザウルス』ですなあ」というひと言だった。

「ハッとしました。50万本売れたとしても、日本にある約5000万世帯の家庭のわずか1%に普及したにすぎません。市場が飽和状態にあるという見方は大きな誤りで、まだ100倍は売れるはずだと思いました」

四代目を開発するに当たり、「デザインをやらせてほしい」と申し出た社員がいた。彼はデザインの経験はないものの、趣味がサバイバルゲームで、自らデザインしたカスタムガンがコンテストで3位を取ったのだという。思い切って彼に任せてみたところ、握りやすく改良したグリップ、トラスねじにも食い付く鋭い歯、開きばねの追加など、愛用者の要望に応えるものが出来上がった。何よりグリップ部分に施された細かいデザインは、まるで人気のアニメロボットのように格好よかった。こうして完成した超進化型バージョンを21年に発売すると、いきなり売れ行きが倍増。その後も右肩上がりに販売数が伸び、ついに初代からの累計販売数は300万本を超えた。

自ら考案したヒット商品誕生の法則とは

現在、同商品は六代目が登場し、ほぼどんなねじでも外せるまでに進化を遂げている。さらに四代目以降は、グッドデザイン賞の他多くの賞を受賞し、デザイン性も高く評価されている。しかし、髙崎さんによれば、同商品がヒットした理由はそれだけではないという。

「要因を分析してみたところ、そこには法則があることが分かりました。商品がヒットするには、市場ニーズを調査して(マーケティング)、大事な知的財産を守り(パテント)、機能だけでなくデザインにもこだわって(デザイン)、広報活動を行う(プロモーション)という四つの要素が必要でした。私は、これらの頭文字を取って『MPDP理論』と名付けました。ネジザウルスは、この四つがバランスよくできていたんでしょう」

「MPDP」の中でも、特に日本の中小企業はパテント対策が弱いと髙崎さんは語る。自身も何度となく痛い目に遭ってきたそうだ。今後も考案した「MPDP理論」の下にものづくりを進めるとともに、商工会議所などと連携して、知的財産マネジメントの活動にも力を注ぎたいと力強く締めくくった。

会社データ

社名:株式会社エンジニア

所在地:大阪府大阪市東成区東今里2-8-9

電話:06-6974-0028

HP:https://www.engineer.jp

代表者:髙崎充弘 代表取締役社長

設立:昭和47年

従業員:40人

※月刊石垣2017年7月号に掲載された記事です。

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