Q 当社では、社員に通勤経路を届けさせており、最も交通費の安い通勤経路の定期券代を支給しています。また、社員には、購入した定期券のコピーも提出させています。先日、ある社員が届け出た通勤経路と異なる通勤経路を使用した際、事故に遭ってけがをしてしまいました。このけがは、通勤災害に該当するのでしょうか?
A その社員が、合理的な理由もなく著しく遠回りした場合は「通勤」に該当しなくなりますが、そうではなく、その経路を通ることも通勤の方法として一応理由があるときは、「通勤」に該当すると考えられ、通勤災害になると考えてよいでしょう。なお、通勤災害に当たるかどうかは、労働者災害補償保健法に基づき労働基準監督署が判断します。
通勤災害とは何か?
労働者災害補償保険法(以下「労災法」)では、労働者の通勤による負傷、疾病、障がい、または死亡は通勤災害として、保険給付を行うとしています。また、通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業場所との間の往復を合理的な経路および方法により行うもの、と定義しています(労災法7条)。
きちんとした理由があれば遠回りしてもOK
合理的な経路とは、どういうものをいうかですが、通勤のために通常利用する経路であれば、必ずしも一つの経路に限るものではありません。複数あったとしても、通常利用する経路であればいずれも合理的な経路となります。
また、合理的な理由があれば、遠回りしても合理的な経路となります。例えば、当日の交通事情により、普段利用している経路の利用が困難であるとか、事情によって自家用車で通勤するときに、借りている駐車場を経由する場合などです。
しかし、合理的な理由も無いのに、著しい遠回りをすることは合理的な経路とはいえません。例えば、帰宅途中に友人と待ち合わせをして居酒屋へ立ち寄り、お酒を飲んで帰る場合などは、合理的な経路にはなりません。
次に、合理的な方法について確認してみましょう。電車、地下鉄、バスなどの公共交通機関は、合理的な方法に該当します。また、自動車、自転車、徒歩による通勤も、合理的な方法と考えてよいでしょう。
給付対象になるかどうかは労災法の解釈による
企業では通常、通勤交通費の支給のために、社員に通勤経路を届けさせています。また、その通勤経路も、所要時間の長短よりも、最も費用の安い経路を利用すべきとしている例も少なくありません。
これは、企業が負担する通勤交通費の関係で、通勤経路および方法を選択させているものであり、通勤災害に該当するかどうかの判断にそのまま適用されるものではありません。通勤災害への該当性があるか否かは、労働基準監督署が前述の労災法の解釈に基づき判断します。
今回の事例では、ある社員が届け出た通勤経路と異なる通勤経路を使用した際に事故に遭って、けがをしたというものです。その通勤経路が、合理的な理由もなく著しく遠回りした場合は「通勤」に該当しなくなります。しかし、そうではなく、その経路を通ることも通勤の方法として一応理由があるときは、「通勤」に該当し、通勤災害に認定されると考えてよいでしょう。
(弁護士 山川 隆久)
通勤災害になる? ならない?
なる
・風邪をひき、通勤途中に病院へ寄った
・帰宅前に保育園へ子どもを迎えに行った
・週末、自宅へ帰った単身赴任者が、週明け、自宅から直接会社へ出社した
ならない
・帰宅途中に、友人と待ち合わせてお酒を飲んだ帰り
・休日、労働組合の大会に出席する途中
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