事例4 武家屋敷の風情を生かした「竹灯籠祭り」で人を呼び込む
出水商工会議所(鹿児島県出水市)
石垣と生け垣の塀や武家門が続く、広大な「出水麓(ふもと)武家屋敷群」を擁する出水市。風情あふれる地域資源を生かして、まちの活性化に取り組んでいるのが出水商工会議所だ。その中心行事として開催している竹灯籠祭り「いずみマチ・テラス」は、2年目にして来場者数6万人を超え、まちににぎわいをもたらす足掛かりとなっている。
武家屋敷と竹を活用して新たな祭りをプロデュース
ツルの越冬のための渡来地として知られる出水市は、鹿児島県の北西部に位置する。同市はかつて薩摩藩が行った地方支配の拠点となる外城(とじょう)が置かれ、半農半士の武士たちが駐屯していた。その居住地である麓集落に形成された44haにも及ぶ武家屋敷群は、今もその佇(たたず)まいを残しており、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。出水商工会議所が、その風情ある地域資源の活用に着目したのは、比較的最近のことだ。
「4年前、商工会議所内に商店街活性化推進室を発足させました。各地の取り組みを視察し、その中で、特に大分県竹田市や臼杵市で行われている竹灯籠祭りが心に残りました。当市は全国有数の竹林面積を持つので、その竹で灯籠をつくり、武家屋敷を灯(とも)す祭りをやれば、人を呼べるのではと考えました」と出水商工会議所事務局長の本蔵義徳さんは発端を説明する。
話は進み、祭りの開催は平成27年10月末から11月頭の3日間に決定した。夜でも寒くないギリギリの時期で、10月中旬からツルも渡来することから、同時に楽しんでもらえる。しかも、同じころ文化の祭典である国民文化祭が鹿児島で開催され、県外からも多くの人が集まることが予想された。そのついでに足を運んでもらおうともくろんだのだ。
5万5000の竹灯籠灯しギネス認定
その年の春ごろから具体的な準備に取りかかった。まず使用する竹灯籠の数は、同市の人口に当たる5万5000個とした。18年の市町村合併以降、初めて全市を挙げて取り組む祭りへの思いを込めた数だ。それには約4000本の竹が必要だったため、5月ごろから伐採を開始し、約500人の市民ボランティアの手を借りて灯籠を製作した。それらは武家屋敷をはじめ、駅周辺や商店街など市内各所に展示し、来場者に回遊してもらうプランを立てた。
「出水駅は新幹線の停車駅で、交通もとても便利で、人を呼ぶのに有利な半面、福岡からでも日帰りできてしまう。少しでも長く滞在し、宿泊してもらうために、いかに魅力的なイベントを催すかがカギでした」
そこで昼の部のメインに据えたのが「出水麓祭り」だ。薩摩藩の若者による城攻め訓練を再現した武芸や郷土芸能を披露する祭りだが、一般参加者を募って鎧(よろい)などの装束を貸し出し、武者行列に加わってもらうよう考案した。ほかにも、ミニコンサート、ハロウィンの仮装コンテスト、路上マルシェなどを日替わりで開催。最終的に、来場者数は5万人に達した。
「国民文化祭のおかげもあって数は伸びましたが、事前のPRが不十分だったことが反省点でした。今後10年20年先まで続く祭りにするには、いかに広く周知できるかが肝心。それで新たに取り入れたのがコンテストで、祭りのポスターや展示する竹灯籠のデザインを、一般から公募しました。コンテストを告知することで、祭りの開催をPRできるし、多くの人の関心を引くことができます」
極め付きは、5万5000個の竹灯籠を一度に灯すというギネス記録への挑戦だ。それを祭りの直前に行い、達成して世間の注目を集めようと考えたのだ。結果的に2万9503個の竹灯籠が途切れることなく灯ったことで、見事ギネス記録の認定を果たす。その様子はテレビなどさまざまなメディアに取り上げられ、大きな反響を得た。こうした数々の仕掛けが奏功して、2回目となる昨年は6万人が来場し、盛況のうちに幕を閉じた。
地域資源のさらなる活用で観光客の長期滞在を狙う
武家屋敷という地域資源を生かした祭りは、ほかにも相乗効果をもたらしている。例えば、今年で10回を数える「着物で出水武家屋敷を歩こう会」。これは5500円の参加費で、武家屋敷での着付けや茶道などを体験でき、まちを散策した後は身に着けた着物と帯を持ち帰れるというものだ。
「もともと参加者の満足度の高いイベントですが、ここ数年で認知度が上がり、観光客の数は当初の10倍以上に増えています。今年3月の開催では外国からの参加者が10人いて、出水のことが海外にも発信されているんだとしみじみ感じました」
現在、新たに「武家屋敷に泊まろう」という取り組みが始まっている。武家屋敷を宿泊施設として利用し、歴史の息吹を体感してもらうのが狙いだ。現在は法律の規制で宿泊に利用できないため、市を通じて法律の改正を働きかけているところだという。もし実現すれば、国内外の観光客を呼び込んで長期滞在してもらう足掛かりにもなる。
「当市では数年前から修学旅行の農家民泊を積極的に受け入れています。そのノウハウも参考に準備を進めて、武家屋敷での宿泊が可能になったら、すぐにPR活動を展開したい。まちの歴史も、食も、景色も、まるごと堪能してもらい、何度も足を運んでもらえるまちづくりに貢献したいですね」
※月刊石垣2017年5月号に掲載された記事です。
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