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テーマ別企業事例 少ない商品、狭い領域でも業績を伸ばし続ける 「一点集中型」NO.1企業はココが違う

事例2 手づくりにこだわり、実演販売で「いかめし」を全国区の人気駅弁へ

いかめし阿部商店(北海道森町)

百貨店で毎年開催される全国駅弁大会の人気ランキングで、長年1位に輝いている「いかめし」。製造元のいかめし阿部商店は、もともと駅構内営業業者として創業したが、徐々に物産展など催事での実演販売に営業をシフト。全国にファンを拡大し、「いかめしといえば阿部商店」という不動の地位を築き上げた。

7月の終わりから8月にかけて北海道に上ってくる、長さ20cmほどのスルメイカでつくった「いかめし」。12×10cmの箱にぴったり2本入って、650円(税込)

予想を超える売れ行きで駅弁屋からいかめし屋へ

いかめし阿部商店は、明治36年の北海道鉄道の森駅開業に合わせ、駅構内営業業者「阿部弁当店」として創業した。森町は江戸時代からニシン漁でにぎわう漁師まちで、同社は旅館も兼業していた。同社が「いかめし」を考案したのは昭和16年、第二次世界大戦中のことだ。同社社長の今井俊治さんは、そのきっかけを振り返る。

「ソ連(現ロシア)の参戦による北の脅威から国を守るため、旭川駐屯地に向けて若い兵隊さんが続々と本州からやってきました。その経由地だった森町で旅館の女将(おかみ)をしていた私の伯母が、せめて兵隊さんたちに腹いっぱいご飯を食べさせてあげたいとつくったのが、いかめしなんです」

戦時中の食糧統制で米が不足していたため、豊漁だったスルメイカを使い、内臓を取り除いた胴体にもち米とうるち米をブレンドして詰め、甘辛く煮付けたアイデアメニューだ。その味はたちまち評判となり、売上も急増したことから、同社は程なく旅館を畳み、駅弁の製造販売に事業を集約。森駅構内と駅前店舗での販売のほか、夏場にはプラットホームでの立ち売りも行った。その業態に変化の兆しが表れたのは、30年代に入ってからのこと。

「ある百貨店が訪ねて来て、『北海道物産展に出ませんか?』と打診されたんです。先代は、物産展がどんなものか分からないからと断ったんですが、その後森駅に急行が止まらなくなって売上が激減。業績回復になればと、出展することにしました。すると、いかめしに長蛇の列ができ、物産展の人気ランキングで、いきなり2位になったのです」

それを機に、ほかの百貨店からもオファーが届くようになり、催事への出展が増えた。予想を超える売れ行きに、徐々にほかの弁当をつくる余裕がなくなり、商品をいかめしに特化することを決断。他社ではつくられていないこともあり、「いかめしといえば阿部商店」と全国的に認知されていった。

実演販売で職人技を披露 客の心を引き付ける

昭和55年、先代から社長を継いだ今井さんは、いっそう催事に力を入れ始める。ベテラン従業員に森町の店舖を任せ、自身は百貨店から百貨店へと全国を巡った。

「当社のいかめしはシンプルですが、つくるとなると意外に難しい。イカは加熱すると縮み、米は水分を吸うと膨らむので、米が少ないと隙間ができるし、多いと米に芯が残ってしまう。そこで職人たちは、手に持った感覚でイカの大きさや厚みを見極め、米の量を数粒レベルで加減しているんです。しかも、イカを手にして、米を入れ、つまようじで止めるまでに要する時間は約4秒。こうした職人技を披露しながら売るので、いつも人だかりができるんです」

手際のよい手付き、辺りに漂う香り、絶妙な味わいに誘われて、どの会場でも大好評を博す。その様子が度々テレビ番組などに取り上げられたことで、いかめしの知名度は一気に全国区となり、5年で売上は3倍に伸びた。

現在でも、催事での実演販売を主軸とする営業スタイルを続けており、1年間に回る百貨店やスーパーは160~170店舗、催事の回数は320~350回にも及ぶ。中でも東京の京王百貨店で毎年1月に開催される「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」の常連で、いかめしは人気ランキングの1位をほぼ独占している。

手づくりゆえの〝味の幅〟が飽きのこない理由

今や全国各地の有名駅弁がひしめく中、長きにわたって人気を維持してきた秘訣(ひけつ)は何か。今井さんの言葉を借りれば、「いい意味で味に幅があること」だという。

「当社では、先代女将の味を守り続けていますが、決まったレシピがあるわけではありません。職人たちが見よう見まねでつくり方をマスターし、それを受け継いできました。ただ、同じようにつくっていても、職人によって微妙に甘めだったり辛めだったりする。現在、食品のほとんどが機械生産で、寸分たがわぬ味に仕上げることができる中、その逆をいく手づくりならではの味の幅が、飽きのこない理由かもしれません」

いかめし一本で今日を築いた同社だが、近年少しずつ商品数を増やしている。例えば、5年程前に販売を開始した、いかめしコロッケだ。いかめしの煮汁で味付けしたイカと米をマッシュポテトに混ぜ合わせ、衣をつけて揚げたものだ。味はもちろん、催事でしか買えないプレミア感から、それを目当てに来るファンも多い。また、今年3月の北海道新幹線開業に合わせ、いかめしのレトルト仕様も開発。温めても冷めたままでもおいしいのがミソで、北海道限定の販売だが売れ行きは好調だという。さらに、近々発売を控えている新商品もあるのだとか。

「北海道は食材の宝庫。イカも含めて、いろいろな形に展開していきたいと思っています」とアイデアマンたる表情をのぞかせた。

会社データ

社名:株式会社いかめし阿部商店

所在地:北海道茅部郡森町御幸町112

電話:01374-2-2256

HP:https://ikameshi.co.jp/

代表者:今井俊治 代表取締役社長

従業員:5人

※月刊石垣2016年10月号に掲載された記事です。

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